架空戦国伝

第９章 創天国の魂編

83.セビカへの上陸

連日による航海で幕府軍の者たちは疲れの色が見え始めていた。
我らは果たしてセビカに無事に到着出来るのであろうか。
そうした不安を抱きながら船は進み続けていた。

やがて宗重が興奮した様子で声を上げる。

宗重
「見てみい、政武。セビカじゃぞ！」

宗重が指した先には陸地、セビカ国のセラージュの街並みが広がっていた。

政武
「あぁ、ようやくじゃな。ふぅ、今回も長い航海で体が鈍りそうだったぜ。」

数日の航海を経て今、ようやく目的地であるセビカに到着しようとしている。
その光景を見ながら政武は腕を鳴らしていた。

やがて崇房や祐永らが乗った船でもその事に気付き始める。

崇房
「ややっ、あそこに見えるのは…セビカか？ようやくセビカに着くのじゃな。」

祐永
「ふむ、どうやらセビカに着いたようにござるな。」

彼らの前方に現れた陸地を見た崇房と祐永らは、それが今回の目的地セビカであると認識しているようである。
同時に、長き時間をかけた航海の末にようやくたどり着けた事に対して達成感も感じていた。

船はやがてセラージュの港に接近する。

政武
「よーし、ここに船を着けるぞ。」

政武はそう言った後に船を港へ着ける。
それに続いて崇房と祐永らの乗った船も続けて港に着けていた。

そうして船からは幕府の者たちがぞろぞろと降りていった。
その様子を見た宗重が言う。

宗重
「うむ、どうやら全員は無事にござるな。」

今回の航海においては誰一人として事故などに遭って命を落とす者は居なかったという。
守常が発明した大船によって安全に海を渡るという事ができたお陰であろうか。

政武
「ふふん、何じゃか懐かしい気持ちであるな。戻って来たぜ。」

政武らがセビカを訪れたのは、ほんの一月ほど前の事だ。
にも関わらず、まるで長らく訪れていないかのような物言いである。
この事からも政武はセビカという国に心底惚れ込んでいる事が窺い知れる。

崇房
「ここが異国の地、セビカにござるか…」

辺りを物珍しげに見渡しながら崇房はそう言っていた。
自国で育った創天国とは大きく異った異国の景色を突然目にしたのであるから無理も無いであろう。

そして祐永は宗重らに対して頭を深々と下げながら言う。

祐永
「宗重殿に政武殿よ、我らをセビカまで案内していただいたことを心より感謝いたすぞ。」

宗重
「真に有難きお言葉…拙者にはもったいのうございます。」

祐永による感謝の言葉を受けた宗重は恐縮した様子であった。
すると政武はふんぞり返りながら口を開き始める。

政武
「へっ、感謝されるならばそれ相応の褒美が俺は欲しいがなぁ。」

宗重
「こ、こら政武！貴様という奴は…口を慎まれよ！」

褒美という形のある物をもってこその感謝であろう。
この無礼な言葉を聞いた宗重はすかさず政武に対して怒鳴り声を上げていた。
将軍の一門である祐永様に対して何たる口の聞きようであるか。

それに対して祐永が顔を上げ、静かに答え始める。

祐永
「分かり申した。この志太祐永、此度の件は上様から褒美をいただくことを約束しましょうぞ。」

宗重と政武らは幕府軍を安全に目的地であるセビカにまで案内した。
これは幕府に対しての大きな貢献である事に間違いは無い。
それ故、彼らに対して褒美を取らせるべきであろうと祐永は考えていたのである。

政武
「おっ、物分かりがいいじゃねえか。流石は将軍の弟さんだけのことはあるねぇ。」

祐永の返答に政武は相も変わらず高圧的な態度であった。
これには宗重も必死の形相で頭を下げながら言う。

宗重
「祐永様…数々のご無礼、真に申し訳ございませぬ。」

すると祐永が彼らに笑顔を見せながら答え始める。

祐永
「良い良い。何じゃか政武殿を見ておると、昔を思い出させてくれるものでな。」

祐永は懐かしい気持ちに浸っているようであった。