架空戦国伝

第９章 創天国の魂編

55.気配無き城

先刻前にヘルト城へと到着した宗重。
城の様子を一通り探った後にいよいよ城内に潜入すべく動きを見せ始めようとしていた。

だが、宗重は首を傾げながら再び考え込み始める。

宗重
「それにしても、城周りの警備ががら空きであるのが気にはなるがな…」

どうやら宗重は、城の周りに警備の兵らしき姿が一人も見当たらない事に対して違和感を覚えている様子であった。

宗重
「よもや、このまま堂々と正面突破も無理では無さげな雰囲気すら感じて不気味でたまらんわい。」

これほどまでに無防備な状態であらば、城の正門からの侵入も容易い事なのでは無かろうか。
宗重は、余りにも極端過ぎるとも言える考えを思わず口にしていた。

宗重
「まぁ、とりあえずここは城の裏手から潜入するが無難であろう。」

そう言うと宗重はヘルト城の裏側へと足を進め始める。

宗重
「さて、任務を始めよ…いや、その前に少し確かめてみるかな。」

ほどなくして城の裏手へと移動してこれより潜入を始めようとしていた宗重ではあったが、再び足を止めてそう言っていた。
先程の違和感が余程気になっているのであろうか、慎重な様子を見せている。

宗重はおもむろに地面に落ちていた石を拾い、自身の前方へ向かって投げ始める。
石は弧を描くように飛び、やがて地面に着いたその時である。

石が着地した場所を目掛けて風を切るようにして飛び交い始める物が見えた。
それは、無数の矢であった。
そうして放たれた矢はまるで滝のごとく降り注ぎ、たちまち一帯は矢の山となっていた。

この様子に宗重が確信した様子で口を開く。

宗重
「やはり罠が仕掛けられておったか。むぅ…通りで警備の者たちがおらぬというわけじゃな。」

そして次第に険しい表情を見せ始めながら言う。

宗重
「あのまま進んでおったならば、今頃儂は針鼠となっておったであろうな…実に恐ろしきことよ…」

もし、この罠に気付くこと無く任務を開始していたとすれば、あの無数の矢の餌食となって命を落としていたであろう…
そう考えただけでも鳥肌が立つほどの恐ろしさを宗重は感じていた。

やがて宗重が何かに気付いた様子を見せ始めて口を開く。

宗重
「かような凄まじき罠があれば警備の兵は必要ござらぬ故、罠のみで充分にござ…むっ、待てよ…これはかえって好機ではあらぬか？」

恐らくは城の周りにはこのような罠が張り巡らせているであろう。
その事がむしろ好機なのである、と宗重は言っていた。

先程の光景からも分かるように、罠による警備が徹底している城においては充分な防御である故に、不要と考えて兵を配置しなかったのであろう。
だが、それは裏を返せは警備の兵たちが一人もおらず逆に手薄となっているという事を意味する。

城の周りを警戒して巡回する兵たちは、潜入などの任務を遂行するうえでは特に厄介な存在である。
彼らは時としてこちらが予測出来ぬ動きを見せ、侵入者を探し出そうとする。
だが、今のヘルト城においては警備の兵たちが居ない故にそうした危険性を考えずに済む。
罠だけに細心の注意を払えば今回の任務は簡単に遂行出来るはず。

宗重はそう考えていたのであった。

宗重
「ふっ、警備の者らを置かなかったことをヘルト殿に後悔させてくれようぞ！」

宗重はヘルト城を前に高揚した表情を見せていた。