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第9章 創天国の魂編
54.将軍の晩酌
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一方、創天国の八光御所では、祐宗が一人縁側に座り込んでいた。
その傍らには酒が置かれている。
どうやら祐宗は酒を飲んでいるようであった。
やがてその様子を目にした祐永が声をかける。
祐永
「上様、かような遅き刻に一体どうなされたのでございますか…」
今は皆が寝静まっている真夜中の刻だ。
そのような時間であるにも関わらず眠る事はせず、しかも一人酒を飲んでいる祐宗を見かけた祐永は驚いていた。
すると祐宗は祐永に対して笑顔を向けて言う。
祐宗
「おぉ祐永か、ちょうど良きところに来たのぅ。どうじゃ、お前も一杯やらぬか?ほれ。」
祐宗は手にした盃を祐永に渡すようにして差し出していた。
すると祐永が毅然とした態度を見せて答える。
祐永
「夜風に当たりながら酒を飲まれるなど御体に障られます故、おやめくだされ。」
祐永は祐宗の身体を案じていた。
しかし、そのような事はお構いなしといった様子で祐宗が口を開く。
祐宗
「そう固きことを申されるでない。さぁさぁお前も飲め、ほれ早う。」
祐永
「全く、上様は…分かり申した、少しだけですぞ。」
祐永は半ば強引に祐宗によって勧められるがまま盃に酒を注がれ、ゆっくりと飲み始める。
そうして盃に入った酒を飲み干した祐永を見ながら祐宗が問いかける。
祐宗
「時に祐永よ、お前はどう思っておるのじゃ?」
祐永は祐宗が言わんとしている事を理解したのであろうか、顔を上げて答える。
祐永
「はっ、セビカへ向かっておられる貞広殿らのことにございましょうか?」
続けて祐永が喋り始める。
祐永
「幕府の者たちは皆が我ら志太家の為に尽力を注がれておられた故、此度の件も難無くこなされるかと拙者は思いまする。」
現在の幕臣たちは、志太家による天下統一に大いに貢献した者らで成り立っている。
幕府を開くに至るまでは幾多もの困難に直面し、血の滲むような思いでここまで共に生きて来たのだ。
それ故に、何も案ずる事は無いであろうと祐永は考えているようであった。
だが、祐宗はそんな祐永とは対照的に曇った表情を見せて言う。
祐宗
「うむ、確かにそうではあるが余はちと心配でな。特に、宗重殿のことなんじゃが…」
どうやら祐宗は、先日に自身によってセビカの敵国であるヘルト独立勢力潜入の主命を言い渡した宗重の身を案じているようだ。
祐宗によるそうした不安を吹き飛ばすように祐永が答える。
祐永
「宗重殿も我が幕府を支えし御方にございます故、必ずや敵国の情報を持ち帰って来られることにございましょうぞ。」
忍者として数々の任務をこなして来た宗重の事であらば心配は無用。
宗重もまた志太家の天下統一事業に従事していた一人であり、申し分の無い実力を存分に発揮してくれるはず。
祐永はそう確信している様子であった。
それでもなお依然として曇った表情で祐宗が言う。
祐宗
「じゃが、ヘルトは我らがまだ知らぬ地。何が起きてもおかしくは無かろう。」
宗重が潜入に向かった場所は、異国の地である。
彼らの住まう創天国とは文化や風習など何もかもが異なるのだ。
そうした中での任務の遂行は勝手が違う故、何か大きな失敗を犯してしまうのでは無かろうか…
祐宗は、考えれば考えるほど不安になる一方であった。
祐宗
「それ故、余の決断は正しかったのであろうかと考えておったらつい、眠れぬようになってしもうてな。」
祐永
「上様…」
祐宗
「宗重殿、必ず生きて戻られるのじゃぞ…」
祐宗は夜空に浮かぶ月を見つめながらそう呟いていた。
その傍らには酒が置かれている。
どうやら祐宗は酒を飲んでいるようであった。
やがてその様子を目にした祐永が声をかける。
祐永
「上様、かような遅き刻に一体どうなされたのでございますか…」
今は皆が寝静まっている真夜中の刻だ。
そのような時間であるにも関わらず眠る事はせず、しかも一人酒を飲んでいる祐宗を見かけた祐永は驚いていた。
すると祐宗は祐永に対して笑顔を向けて言う。
祐宗
「おぉ祐永か、ちょうど良きところに来たのぅ。どうじゃ、お前も一杯やらぬか?ほれ。」
祐宗は手にした盃を祐永に渡すようにして差し出していた。
すると祐永が毅然とした態度を見せて答える。
祐永
「夜風に当たりながら酒を飲まれるなど御体に障られます故、おやめくだされ。」
祐永は祐宗の身体を案じていた。
しかし、そのような事はお構いなしといった様子で祐宗が口を開く。
祐宗
「そう固きことを申されるでない。さぁさぁお前も飲め、ほれ早う。」
祐永
「全く、上様は…分かり申した、少しだけですぞ。」
祐永は半ば強引に祐宗によって勧められるがまま盃に酒を注がれ、ゆっくりと飲み始める。
そうして盃に入った酒を飲み干した祐永を見ながら祐宗が問いかける。
祐宗
「時に祐永よ、お前はどう思っておるのじゃ?」
祐永は祐宗が言わんとしている事を理解したのであろうか、顔を上げて答える。
祐永
「はっ、セビカへ向かっておられる貞広殿らのことにございましょうか?」
続けて祐永が喋り始める。
祐永
「幕府の者たちは皆が我ら志太家の為に尽力を注がれておられた故、此度の件も難無くこなされるかと拙者は思いまする。」
現在の幕臣たちは、志太家による天下統一に大いに貢献した者らで成り立っている。
幕府を開くに至るまでは幾多もの困難に直面し、血の滲むような思いでここまで共に生きて来たのだ。
それ故に、何も案ずる事は無いであろうと祐永は考えているようであった。
だが、祐宗はそんな祐永とは対照的に曇った表情を見せて言う。
祐宗
「うむ、確かにそうではあるが余はちと心配でな。特に、宗重殿のことなんじゃが…」
どうやら祐宗は、先日に自身によってセビカの敵国であるヘルト独立勢力潜入の主命を言い渡した宗重の身を案じているようだ。
祐宗によるそうした不安を吹き飛ばすように祐永が答える。
祐永
「宗重殿も我が幕府を支えし御方にございます故、必ずや敵国の情報を持ち帰って来られることにございましょうぞ。」
忍者として数々の任務をこなして来た宗重の事であらば心配は無用。
宗重もまた志太家の天下統一事業に従事していた一人であり、申し分の無い実力を存分に発揮してくれるはず。
祐永はそう確信している様子であった。
それでもなお依然として曇った表情で祐宗が言う。
祐宗
「じゃが、ヘルトは我らがまだ知らぬ地。何が起きてもおかしくは無かろう。」
宗重が潜入に向かった場所は、異国の地である。
彼らの住まう創天国とは文化や風習など何もかもが異なるのだ。
そうした中での任務の遂行は勝手が違う故、何か大きな失敗を犯してしまうのでは無かろうか…
祐宗は、考えれば考えるほど不安になる一方であった。
祐宗
「それ故、余の決断は正しかったのであろうかと考えておったらつい、眠れぬようになってしもうてな。」
祐永
「上様…」
祐宗
「宗重殿、必ず生きて戻られるのじゃぞ…」
祐宗は夜空に浮かぶ月を見つめながらそう呟いていた。
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