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第8章 将軍への道程編

97.第二次墨山の戦い(37)

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志太・十部軍に追い込まれた外河軍。
それを受けた国輝と国時らは、頼信の身を拘束。
やがて国輝が兵たちの前で声を上げる。

「これより外河軍の総大将は松永国輝である!」
国輝による突然の宣言に両軍は混乱した様子であった。

国輝
「ふふふ、何度でも儂は申すぞ。戦の場に卑怯も何も無い!どのような手を使っても最後に勝てばよいのじゃとな!」

戦場は殺し合いをする場だ。
自身の命を懸けた戦いに正義や悪など無い。
ゆえに、どのような卑怯な手段を用いても最終的には自身が勝てば良い。
どうやら国輝はこうした屈折した独自の思想を自身の中に持っているようである。

その言葉を聞いた頼隆は、顔を真赤にして怒鳴り声を上げる。

頼隆
「ふ、ふざけるな!国輝!貴様は鬼じゃ!人間の姿をした鬼じゃ!」

頼隆の目は、酷くつり上がっていた。
すると崇冬がそんな頼隆を制止して声を上げる。

崇冬
「頼隆殿、そなたのお気持ちは拙者も痛いほどよく分かる。じゃが、今一度落ち着かれよ!」

頼隆は、自身の嫡男である頼信が生命の危機にさらされている現実を目にした事で冷静さを失っていた。
つい先刻前には城内において勇敢にも先陣を切り、味方の軍勢を優勢に導いていた時とはまるで別人のようである。

そして国輝が頼隆の様子を見て嘲笑しながら問いかける。

国輝
「おうおう、墨山生まれの犬畜生が何やら吠えておるわ。ふむ、たとえ馬鹿息子であろうとも我が子は可愛いか。頼隆殿よ?」

国輝は頼隆に対して見下した態度を見せていた。

頼隆
「ぐぐぐぐぐっ…」

頼隆は口をつぐみ、悔しげな表情を浮かべていた。
やがて国輝は胸を大きく張り上げ、軍勢の前で大声を上げる。

国輝
「志太と十部の者たちよ!一度しか申さぬぞ!良く聞け!」

堂々たる態度で国輝が口を開く。

国輝
「直ちに全軍を撤退させよ!そして、この墨山国を二度と攻めぬことを誓うが良い!」

まず、国輝は志太・十部軍の全軍撤退を命じた。
さらに、墨山国に対して今後は攻撃を行わない事を誓わさせようという内容であった。
これは、墨山国を独立国として志太家は認めよと暗に言っているようなものだ。

そうして国輝は、頼信に対してにやりと不気味な笑みを浮かべた後に、軍勢に対して言う。

国輝
「これらのことを聞き入れられぬようであらば…分かっておろうな?」

国時
「頼信殿を生かすも殺すもお主らのご返答次第ということにござる。さぁ、どうされますかな?」

頼信を人質に取った国輝らは、どうやら墨山国を乗っ取ったうえで独裁政権を敷こうと企んでいるようである。

頼隆
「な、なんということじゃ…」

頼隆は愕然とした様子であった。

崇冬
「何と!初めからそれが狙いでござったというわけか…」

これまでに国輝らが見せた動きは外河家を乗っ取る為であったという事を知った崇冬は、思わず声を上げていた。
同時に、味方を器用に欺いてこの土壇場においてそれらを実行している国輝に対して不謹慎にも感心している様子でもあった。

康龍
「頼信殿を人質に取ったうえでかような悪あがき。国輝は真に醜き男よ…」

康龍には、窮地に立たされた際の切り札に頼信を人質に取るという卑劣とも言える手段を用いた国輝を痛烈に批判していた。
するとその言葉を聞いた貞道が口を開く。

貞道
「いや、悪あがきではござらぬ。現に我ら軍勢の足を止めさせておるのじゃからな。」

国輝によるこの策は、苦し紛れの末に実行したものでは無いと貞道は言っていた。
先刻までは外河軍を壊滅させんとしていた志太・十部の軍勢の激しい攻撃が今、こうしてぴたりと止んだ。
この状況をつくり出した国輝に貞道は、底知れぬ智謀力を感じているようであった。

最も実際は自軍が壊滅寸前に追い込まれるなど予想外の展開が発生した事で国輝が急遽思案した策ではあるが…
それでもこうして敵軍の動きを封じ込める事に成功した国輝の行動力は、相当なものであったとも言えようか。

そして本陣では祐永が神妙な顔つきをして祐宗に言う。

祐永
「兄者、いかがなされますか?どうかご決断を…」

祐宗
「ぐっ、国輝の奴め。我らの足元を見おってからに…」

祐宗は頭を抱えていた。
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