上 下
389 / 549
第8章 将軍への道程編

83.第二次墨山の戦い(23)

しおりを挟む
墨山城の籠城戦の最中、政長と頼隆の軍勢は戦場を一旦離脱。
軍勢は政長の導かれるままに進み、やがて城から離れた場所にある井戸に到着。
この井戸は、かつて政長が墨山城の改修を行った際に極秘で城への抜け穴を掘っていたと言う。

政長
「好機…にございますか?」

政長が先程の頼隆が放った「好機」という言葉に対してそう聞き返す。
すると頼隆が答え始める。

頼隆
「うむ、この抜け穴の存在を知る者は拙者と政長殿しか知らぬのであろう?」

政長
「なるほど、いわれてみれば確かにそうでございますな。」

頼隆
「拙者が知らぬということは、拙者以外の外河家の者も当然知らぬということじゃ。」

この抜け穴は、政長自身が極秘で掘ったものである。
本来であらば完成後に頼隆に対してその旨を報告するつもりであった。

しかし、仮に敵にその存在を知られた場合の事を政長はふと考えた。
もし、その事が発覚すれば敵はこれ幸いとばかりに墨山城へいとも簡単に侵入できてしまうのだ。
外河家の者たちを安全に逃がす為のものがかえって仇になるいわば本末転倒な話だ。
そうした事を改めて危惧し始めた政長は、外河家の人間に報告せずに抜け穴の存在を完全に隠蔽する事にしたのである。

その結果、この抜け穴は誰にも知られる事無く今までに至っている。
これは、敵軍である外河軍に対して不意打ちを行う事が出来るというわけである。
これを好機と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
頼隆の気持ちは非常に高揚していた。

頼隆
「政長殿、早急に案内をお願いいたす!」

政長
「はっ、では我に続いてくだされ!」

そうして政長たちは井戸へと入っていった。

井戸の中は雑草などが生い茂っており、皆は手にした刀を振りつつ進み始めている。
政長がその存在を隠蔽した事により、一切の手入れを行わなかった為であろうか。
それはまるで廃墟のように不気味な様子であったと言う。

頼隆
「それにしても政長殿よ、かような物をよく掘ったのう…」

頼隆は、感心した様子で政長に対して口を開く。
すると政長が真剣な表情をして答える。

政長
「墨山城が堅城であるが故に、拙者は案じておったのでございます。」

堅城として周辺各国から恐れられる存在であった墨山城。
しかし、果たして今後もその存在は揺るがぬであろうか?政長はふと疑問に思った。

確かに創建時から現在に至るまでこの墨山城は、敵の手に落ちた事は一度たりともない。
だが、今は何が起こるか分からぬ戦国の世。
当時は安泰と思われていた大名家などが次々と滅びゆく世相を見た政長は、「絶対」という事は有り得ぬと感じていたのである。

頼隆
「完璧なものなどはこの世の中においてはあらず、か。うむ、確かに政長殿の申す通りであろうな…」

外河家の当主であるにも関わらず家臣に叛かれた自身の立場を考えていた頼隆は、深く納得している様子だ。
そして続けて頼隆が言う。

頼隆
「じゃがまさか、この抜け穴を使って我の城を攻め落とすことになろうとはな…ふっ、真に何が起きるか分からぬ世であるのう…」

この抜け穴の本来の目的は、あくまでも敵軍から外河家の者たちを救う為に作られたものである。
しかし、今回の戦によって全く逆の目的に使用される事となろうとは誰が考えていたであろうか。
まったくもって実に皮肉な話である事を頼隆は嘆いていた。

やがて政長らが地下道を潜って進んだ先には壁が立ち塞がっていた。
行き止まりであろうか?
すると政長は、その壁の前で足を止めて言う。

政長
「頼隆殿、この壁の向こうが墨山城の地下蔵にございます。」

どうやらこの壁の先は、墨山城の内部へと通じているようである。

頼隆
「ほう、ここから先が我が墨山城に続いておるのじゃな…」

頼隆は神妙な顔つきをしてそう言っていた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

架空創世記

佐村孫千(サムラ マゴセン)
SF
この作品は、作者である佐村孫千が脳内連載で描いた世界の歴史を書き記したものでございます。 主に別作品である「架空戦国伝」の舞台となった「創天国(そうてんのくに)」の成り立ちを書いていくものとします。 壮大な架空歴史をお楽しみくださいませ!

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也
ファンタジー
 高校で歴史の教師をしていた俺は、同じ職場の教師によって殺されて死後に女神と出会う。転生の権利を与えられ、伊達政宗に逆行転生。伊達政宗による天下統一を実現させるため、父・輝宗からの信頼度を上げてまずは伊達家の家督を継ぐ!  戦国時代の医療にも目を向けて、身につけた薬学知識で生存率向上も目指し、果ては独眼竜と渾名される。  持ち前の歴史知識を使い、人を救い、信頼度を上げ、時には戦を勝利に導く。  推理と歴史が混ざっています。基本的な内容は史実に忠実です。一話が2000文字程度なので片手間に読めて、読みやすいと思います。これさえ読めば伊達政宗については大体理解出来ると思います。  ※毎日投稿。  ※歴史上に存在しない人物も登場しています。  小説家になろう、カクヨムでも本作を投稿しております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

日は沈まず

ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。 また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

処理中です...