上 下
325 / 549
第8章 将軍への道程編

19.頼隆の決心

しおりを挟む
年が明けてから数日が経ち、墨山城では頼隆が再び家臣を集めていた。
頼隆が家臣たちの前で言う。

頼隆
「我は、明日に志太家の祐宗殿を訪ねに参る予定じゃ。」

この頼隆の言葉に家臣たちは一瞬、戸惑いの表情を見せた。
が、しかしすぐに皆が覚悟を決めた様子へと切り替わった。
国輝と国時を除けば、の話ではあるが…

頼隆に対して国輝がすかさず口を開く。

国輝
「殿、さすれば拙者と国時もお供させていただきたくございます。」

頼隆
「ほう、国輝殿らがか?一体どうしたというのじゃ?」

頼隆は、国輝のその言葉を聞いて少し驚いた様子であった。

それもそのはず。
先日に頼隆が志太家に従う意向を固めたと表明した際も、依然として国輝らはそれに反対する意見を述べていた。
それが今回の表明時には反対など否定的な意見を述べる事なく、何と志太家の元まで同行を申し出て来たからである。

この期間に国輝らは心変わりが起きたのであろうか。
いや、それでもあれほど断固として反対の意向を見せていた者がこうも簡単に心変わりをするものなのであろうか。
頼隆は少し戸惑った様子を見せている。

すると国輝が頼隆に対して答える。

国輝
「殿のご決断には我らも従いまする。ただ、志太家は油断ならぬ相手である故に殿の御身が心配にございます。」

あくまでも大名である頼隆が下した決断に対し、家臣である以上はそれに従う意向を国輝は見せた。
同時に志太家はひと癖もふた癖もある大名家である故、何か良からぬ事を企んでいるのでは無いかと、言っていた。
どうやら国輝は頼隆の身を案じている様子であるが、果たしてそれが本心なのであろうか…

そして国輝に続き、国時も口を開く。

国時
「我らは志太家に仕えていた時期がございます故に、国輝殿の申されることは良く分かります。」

国時は、自身らが志太家に仕えていた過去について語り始めていた。
いかに志太家が油断できぬ大名家であるかは、かつて家臣であった国輝らが良く知っているつもりである。
そして志太家は策士であり、巧妙な手口を用いて敵国を滅ぼす恐ろしい存在である故に国輝らは頼隆の身を案じていると言った。

すると頼隆が軽く首を傾げながら言う。

頼隆
「ふむ…心配は無用に我は思えるがな…」

頼隆は、二人の言葉に対して話半分で聞いている様子だ。
すると真剣な目つきをした国輝が頼隆に対して言う。

国輝
「志太家の者たちは泰平の世を築く為の天下統一を志として掲げてはおりますが、あくまでもそれは建前。殿の御身を狙い、外河家を乗っ取ることも志太家ならやりかねませぬ…」

すると頼隆は深く頷いた後に答える。

頼隆
「ほう…国輝殿がそこまで申すのならば、ここは一つそう致してみるか。では、我と共に八光御所へ参ろうぞ。」

どうやら頼隆は国輝らによる必死の言葉を聞いているうちに、身の危険をわずかながら感じていたようである。

国輝
「承知致しました。この国輝めらが頼隆様をお守りいたしましょう。」

国輝は頼隆に対して深々と頭を下げていた。

こうして頼隆による表明が終わり、家臣たちは解散した。
その後、国時が国輝に対して耳打ちをする。

国時
「国輝様、真によろしいのですか…」

国輝
「これは儂らの身を守る為に必要なことぞ、仕方あるまい…仕方のないことなのじゃ…」

国輝は戸惑うような言葉を発してはいたが、すぐに覚悟を決めた表情をしていた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

石田三成だけど現代社会ふざけんな

実は犬です。
ファンタジー
 関ヶ原の戦いで徳川家康に敗れた石田三成。  京都六条河原にて処刑された次の瞬間、彼は21世紀の日本に住む若い夫婦の子供になっていた。  しかし、三成の第二の人生は波乱の幕開けである。 「是非に及ばず」  転生して現代に生まれ出でた瞬間に、混乱極まって信長公の決め台詞をついつい口走ってしまった三成。  結果、母親や助産師など分娩室にいた全員が悲鳴を上げ、挙句は世間すらも騒がせることとなった。  そして、そんな事件から早5年――  石田三成こと『石家光成』も無事に幼稚園児となっていた。  右を見ても左を見ても、摩訶不思議なからくり道具がひしめく現代。  それらに心ときめかせながら、また、現世における新しい家族や幼稚園で知り合った幼い友人らと親交を深めながら、光成は現代社会を必死に生きる。  しかし、戦国の世とは違う現代の風習や人間関係の軋轢も甘くはない。  現代社会における光成の平和な生活は次第に脅かされ、幼稚園の仲間も苦しい状況へと追い込まれる。  大切な仲間を助けるため、そして大切な仲間との平和な生活を守るため。  光成は戦国の世の忌むべき力と共に、闘うことを決意した。 歴史に詳しくない方も是非!(作者もあまり詳しくありません(笑))

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

処理中です...