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第8章 将軍への道程編

13.御所への帰還

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康龍らは墨山国に潜入し、大名である外河頼隆との接触を果たした。
だが、そこで思わぬ事態が発生する。

頼隆によって康龍らが志太家の者である事が暴かれてしまったのだ。
その瞬間に外河家の忍びたちが姿を現して康龍らを取り囲む。
正に絶体絶命の状態である。

あわよくば墨山の国を志太家が乗っ取ろうと考えているのであろう。
頼隆は二人に対して敵意を剥き出しにしていた。

すると康龍が必死で弁解を始める。
その中で「泰平の世」という一つの言葉を聞いた事で頼隆の態度は一変。
やがては康龍らを始末する事を思い留まった。
康龍の言葉が頼隆の心を揺れ動かしたのであろうか…少なくとも、両家共に争いは避けたいという想いはあるようだ。
そうして康龍らは命からがら墨山国からの帰還を果たしたのであった。

祐宗の元へと帰還した康龍はその場にひれ伏し、謝罪の言葉を述べていた。

康龍
「祐宗様、こたびの潜入に失敗してしまい申し訳ございませぬ…」

すると祐宗が康龍の肩を軽く叩きながら言う。

祐宗
「もう良い、まずはお主らが無事に帰還できただけでも我は嬉しいぞ。」

祐宗は康龍らを叱責する事はせず、彼らの安否をただただ気にかけていたという。
任務は失敗に終わったが、命を落とす事なく帰還が出来ただけでも良い。
家臣の安全を第一に考えるという祐宗の信念に、康龍らは深く感謝していた。

そしてほどなくして祐宗は真剣な表情へと切り替わる。

祐宗
「して、墨山では何か収穫はあったかのぅ?」

康龍は姿勢を正して答える。

康龍
「ははっ、墨山の国は真に栄えた国にございました。」

道中で墨山国に住む「一介」と名乗る絵師の案内で墨山に到着した事。
城下での革新的な造りをした屋敷や、その建築に携わった人物である「信栄斎」の存在。
国内の政においては、選挙で政務団長を選出する体制である事。
頼隆から直接聞いた墨山城の設備。

など、とにかく事細やかに墨山国の情報を祐宗に伝えていた。
そして最後に声を詰まらせながら言う。

康龍
「それに…城主の外河頼隆は中々の切れ者で非常に信念深き男のようにございます…」

康龍は、墨山国大名 外河頼隆について話し始めていた。
すると祐宗が興味深い様子で言う。

祐宗
「ほう、頼隆はそこまでに油断のならぬ相手と申すか。」

宗重
「はっ、始めは我らの申す言葉には耳を傾けたように思いましたが、それでもあの者の心深くには意地が根付いておられるようにございました…」

祐宗
「意地、か…我らも同様に意地はござる故、互いの意地を貫き通すうえでの戦は必定。外河家と一戦交えるは止むを得ぬことかも知れぬな…」

戦争は、異なる思想を持つ者たちが衝突する事で発生する。
つまりは、お互いの持つ意地や正義の思想に相違があれば戦いは避けられぬものである。
そうした思想を持ち常に覚悟を持って挑んでいた祐宗ではあったが、それが現実の物となりつつある事に戸惑いを感じていた。

それにしてもいつの世もこうした争いが絶えないのは、人類としての永遠の課題とも言うべきではあるまいか…

しばらく間をおいた後に、祐宗は何かがひらめいたかのような様子で口を開く。

祐宗
「ところで康龍よ、次の墨山の国の選挙戦はいつに開かれるのじゃ?」

康龍
「確か、三月後であったかと聞いております。」

祐宗
「三月か…ふむ、なるほど。」

そう言うと祐宗は腕を組みながら何やら考え始めていた。
その様子を見た康龍が問う。

康龍
「祐宗様、何か策がおありにございますか?」

祐宗
「あぁ、少しな。まぁ三月ほどあれば十分か…」

そして思い立った様子で祐宗が言う。

祐宗
「よし、そのうえで外河家の動きを静観いたそう。上手くことが進んでくれれば良いものじゃがな…」

どうやら祐宗は、墨山国に対して計略を仕掛けるつもりである。
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