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第6章 風雲志太家編
65.柳城攻め(12)
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秋庭軍と政豊率いる柊軍は、崇冬の援軍によって形勢が逆転。
政豊は崇冬の反撃により、深い傷を負った。
政豊
「ぐっ…くそっ…ちくしょうめ…」
政豊は受けた傷をかばいながらも立ち上がろうとするが、上手くいかないようである。
崇冬
「その傷ではもう立つことも出来ぬであろう。平常心が乱れておった時点で勝負は既についておった。お主の負けじゃ。」
崇冬は政豊に対して勝敗はついたと言い放っていた。
その一連の出来事に対して政豊が率いる兵たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
戦において負け無しであった政豊が敗北する姿という異例中の異例とも言える光景に、思考が止まっていたようである。
やがて状況を理解した兵たちは、皆が鬼のような形相で秋庭軍を睨みつけていた。
兵
「貴様!よくも政豊様を!許せぬ!許せぬぞ!」
兵たちは今にも秋庭軍に斬り掛からんばかりの勢いである。
すると、政豊は兵たちに向かって精一杯の声を振り絞って言った。
政豊
「お前たち、もう良い。余計な手出しをするでない。」
政豊は諦めたような表情をしていた。
兵
「し、しかし…政豊様…な、何故ですか…」
これに対して兵たちは誰もが政豊に対して食い入るように言った。
政豊
「最早どうあがいても儂の負けに変わりは無かろう。平常心…か。確かに貴様の言う通りかも知れぬな。」
政豊は、崇冬の言葉によって自身の弱さを知らされた。
過去の戦においては無敗と言われていた政豊が負けたという事実は、相当なショックであったと言えよう。
崇冬
「政豊殿よ、どうやら仕えるべき相手を見誤ったようじゃな。これほどの力があればもっと世の為に使えたものを。」
崇冬は政豊に対して残念そうな表情で言った。
もし政豊が志太家に仕えていれば、自身の父である崇数と肩を並べるほどの豪将として活躍していたのでは無いかと考えていた。
政豊
「確かにそうかも知れぬな。じゃが、儂のような荒くれ者は所詮どこまで行っても変わらぬものよ。」
盗賊の出身という過去がある以上、その力を正しく使う事は難しいと政豊は考えていた。
それ故に、悪名高い柳家に仕えるしか道は無かったという。
崇冬
「しかし、お主にはかように慕ってくれる良き部下を持たれておる。それだけでもお主は幸せではござらぬか。」
崇冬は、洗脳を受けて操り人形のごとく部下たちを都合の良いように突き動かす幸盛とは正反対のカリスマ性を持つ政豊に対して感服している様子であった。
同時に、政豊が傷付けば無謀と言われようが身を挺してまで相手に立ち向かう部下たちに脅威を感じていた。
政豊
「ははは、貴様は小童の癖になかなか良きことを申すではないか。」
政豊は、少し笑った様子で崇冬にそう言った。
崇冬
「本当のことを申したまでにございます。真に良き部下に恵まれておられますな。」
崇冬はお世辞では無く、本当に羨ましいと感じているという事を政豊に対して伝えていた。
すると政豊は、神妙な顔をして兵たちへ向けて口を開いた。
政豊
「これよりお前たちへ最期に申しておく。儂が死んだら潔くここを撤退するのじゃ。これは儂からの遺言故に絶対であるぞ。良いな。」
政豊は、自身に対する弔い合戦を今この場で行うべきでは無いと考えていた。
それは、自身が平常心を欠いた事によって悲劇を招いた事を身を以て知らされたからである。
部下たちを同じような目に遭わせたく無いという一心から政豊はそのような遺言を残した。
兵
「は、はい!承知致しました!」
この政豊の遺言を聞いた兵たちは、皆が声を合わせてそう言った。
政豊
「そろそろお前たちと別れの時が来たようじゃな…。さて、儂はこれから地獄の鬼と手合わせを…願おう…ではないか…ぐっ…」
そう言うと政豊は、その場に突っ伏して倒れた。
辺りにバタン、と大きな音が立った。
兵
「政豊様?政豊様?!政豊様!政豊様!!」
兵たちは皆、涙を流しながら嗚咽の声をあげていた。
やがて、全員が政豊に手を合わせて冥福を祈った。
その様子を見た崇冬は、兵たちに向かって言った。
崇冬
「せめてもの武士の情けじゃ。政豊殿の亡骸はそなたたちが手厚く葬られるが良い。」
部下たちの余りにも不憫な姿を目の当たりにした崇冬は、政豊の御首を取る事をはばかられたようである。
兵
「口羽崇冬殿、と申されましたな。まずはお心遣い感謝致す。だが、我らは決してそなたたちに屈したわけではござらぬ。勘違いなされるでないぞ。」
そう言うと兵たちはぞろぞろと一斉に戦場から離脱を始めた。
崇冬
「承知。次に戦場で会う時は容赦はせぬ故、覚悟なされよ。」
崇冬は刀を鞘に収めて撤退する兵たちを見送っていた。
政豊は崇冬の反撃により、深い傷を負った。
政豊
「ぐっ…くそっ…ちくしょうめ…」
政豊は受けた傷をかばいながらも立ち上がろうとするが、上手くいかないようである。
崇冬
「その傷ではもう立つことも出来ぬであろう。平常心が乱れておった時点で勝負は既についておった。お主の負けじゃ。」
崇冬は政豊に対して勝敗はついたと言い放っていた。
その一連の出来事に対して政豊が率いる兵たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
戦において負け無しであった政豊が敗北する姿という異例中の異例とも言える光景に、思考が止まっていたようである。
やがて状況を理解した兵たちは、皆が鬼のような形相で秋庭軍を睨みつけていた。
兵
「貴様!よくも政豊様を!許せぬ!許せぬぞ!」
兵たちは今にも秋庭軍に斬り掛からんばかりの勢いである。
すると、政豊は兵たちに向かって精一杯の声を振り絞って言った。
政豊
「お前たち、もう良い。余計な手出しをするでない。」
政豊は諦めたような表情をしていた。
兵
「し、しかし…政豊様…な、何故ですか…」
これに対して兵たちは誰もが政豊に対して食い入るように言った。
政豊
「最早どうあがいても儂の負けに変わりは無かろう。平常心…か。確かに貴様の言う通りかも知れぬな。」
政豊は、崇冬の言葉によって自身の弱さを知らされた。
過去の戦においては無敗と言われていた政豊が負けたという事実は、相当なショックであったと言えよう。
崇冬
「政豊殿よ、どうやら仕えるべき相手を見誤ったようじゃな。これほどの力があればもっと世の為に使えたものを。」
崇冬は政豊に対して残念そうな表情で言った。
もし政豊が志太家に仕えていれば、自身の父である崇数と肩を並べるほどの豪将として活躍していたのでは無いかと考えていた。
政豊
「確かにそうかも知れぬな。じゃが、儂のような荒くれ者は所詮どこまで行っても変わらぬものよ。」
盗賊の出身という過去がある以上、その力を正しく使う事は難しいと政豊は考えていた。
それ故に、悪名高い柳家に仕えるしか道は無かったという。
崇冬
「しかし、お主にはかように慕ってくれる良き部下を持たれておる。それだけでもお主は幸せではござらぬか。」
崇冬は、洗脳を受けて操り人形のごとく部下たちを都合の良いように突き動かす幸盛とは正反対のカリスマ性を持つ政豊に対して感服している様子であった。
同時に、政豊が傷付けば無謀と言われようが身を挺してまで相手に立ち向かう部下たちに脅威を感じていた。
政豊
「ははは、貴様は小童の癖になかなか良きことを申すではないか。」
政豊は、少し笑った様子で崇冬にそう言った。
崇冬
「本当のことを申したまでにございます。真に良き部下に恵まれておられますな。」
崇冬はお世辞では無く、本当に羨ましいと感じているという事を政豊に対して伝えていた。
すると政豊は、神妙な顔をして兵たちへ向けて口を開いた。
政豊
「これよりお前たちへ最期に申しておく。儂が死んだら潔くここを撤退するのじゃ。これは儂からの遺言故に絶対であるぞ。良いな。」
政豊は、自身に対する弔い合戦を今この場で行うべきでは無いと考えていた。
それは、自身が平常心を欠いた事によって悲劇を招いた事を身を以て知らされたからである。
部下たちを同じような目に遭わせたく無いという一心から政豊はそのような遺言を残した。
兵
「は、はい!承知致しました!」
この政豊の遺言を聞いた兵たちは、皆が声を合わせてそう言った。
政豊
「そろそろお前たちと別れの時が来たようじゃな…。さて、儂はこれから地獄の鬼と手合わせを…願おう…ではないか…ぐっ…」
そう言うと政豊は、その場に突っ伏して倒れた。
辺りにバタン、と大きな音が立った。
兵
「政豊様?政豊様?!政豊様!政豊様!!」
兵たちは皆、涙を流しながら嗚咽の声をあげていた。
やがて、全員が政豊に手を合わせて冥福を祈った。
その様子を見た崇冬は、兵たちに向かって言った。
崇冬
「せめてもの武士の情けじゃ。政豊殿の亡骸はそなたたちが手厚く葬られるが良い。」
部下たちの余りにも不憫な姿を目の当たりにした崇冬は、政豊の御首を取る事をはばかられたようである。
兵
「口羽崇冬殿、と申されましたな。まずはお心遣い感謝致す。だが、我らは決してそなたたちに屈したわけではござらぬ。勘違いなされるでないぞ。」
そう言うと兵たちはぞろぞろと一斉に戦場から離脱を始めた。
崇冬
「承知。次に戦場で会う時は容赦はせぬ故、覚悟なされよ。」
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