上 下
27 / 27

27-暴漢対策グッズですから!

しおりを挟む
一対四だが、俺は一人分の戦闘力にも満たないので実質、一対三でベンジャミンに対峙する。

「はんっ、ここまで来たのは褒めてやるが俺にかなう訳がない。今なら泣いて許しを請えば、女共の命だけは助けてやる」
「汚らわしいその口、二度と開けない様にしてやる!」

鼻で笑い飛ばすベンジャミンにジャックがとびかかる。
剣の切っ先を向け切りかかるがガキンッと固い音がして弾かれてしまった。

「っ……結界魔法か!」
「俺は伯爵家の令息だぞ。たかが冒険者風情の剣が、通じるわけないだろ?」
「剣が駄目でも魔法で!!」
「無駄だって言ってるだろ、バーカ!」

エリシアが火の玉を作り出しベンジャミンへとぶつけるが同じ様に弾かれてしまった。
傷ひとつ受けることもなくベンジャミンは馬鹿にしたようにゲラゲラと笑う。
ジャックとエリシアが絶えず攻撃を仕掛けるが、結界は破れないようだ。
それを見て俺は近くにいたレイチェルにこっそりと耳打ちする。

「レイチェルさん、ジャックさん達と一緒にあいつの気を引いてくれませんか?俺に作戦があります」
「でもニロって戦えないんじゃ……?」
「戦えなくても、強力なダメージは与えられます」
「ん、わかった!任せて!」

レイチェルが攻撃に加わるのを確認し、俺は下がっていたデリックに声をかける。

「デリックさん、あいつみたいな結界魔法って使えます?攻撃の防御と言うより空気の流れを分断する感じの。それをあいつの周りだけに展開させて欲しいんです」
「え、えぇ。使えますけど……何をするつもりですか?」
「じゃあ合図したらお願いします。考えがあるんで」

デリックが頷くのを確認し、俺はベンジャミンの背後に回り込む。奴は正面から攻撃してくる三人を馬鹿にするのに夢中で気が付いていない。
ギリギリまで近づいてから俺は大声を上げた。

「皆さん一気に下がってください!!」
「うるさ!!」

すぐ近くで大声を出されたベンジャミンは怯み結界魔法が緩む。
同時に俺に気が付いてた三人は指示通りに一気に距離を取る。

「これでもくらえっ!!」

ベンジャミンの真正面に移動して俺は手に隠し持っていた唐辛子スプレーを顔面目掛けて思い切り噴射した。

「ぎゃああああぁぁぁっ!!」

断末魔の叫びの様な声を上げベンジャミンが顔を覆う。

「デリックさん今です!空気の流れを分断して下さい!!」
「はいっ!!」

一瞬でドーム型の結界がベンジャミンを包みこんだ。

「あ”あ”ぁぁっ!痛い痛い痛い!うえぇっ、げほっがはっ!!」

逃げ場のないスプレーの粒子に囲まれ顔からあらゆるものを垂れ流しながらベンジャミンは苦しみ悶える。

ざまぁみろ!!唐辛子スプレー様に勝てる人間なんかいないんだからな!!

「うわあ……あいつのいる結界の中……真っ赤だよ」
「醜いわね……。ニロ、あれはもしかして、子供達を助けた時に使った物?」

のた打ち回るベンジャミンに軽蔑の眼差しを向けながらエリシアが尋ねる。

「はい。めちゃくちゃ良く効く唐辛子スプレーなんですよ」
「唐辛子……ニロの世界では貴重な香辛料でとんでもない物を作るんだな……」
「えげつない攻撃ですね……思い切り顔を狙っていましたし、失明は免れないでしょうね」

ジャックとデリックが若干引いている。

「いやいやいや!これ後遺症のないやつですよ!!長時間痛みに苦しみますが、安全です!!」
「ニロの国の拷問道具って凄いんだね」

レイチェルさんにまで引かれた!?

「拷問器具じゃありませんから!!暴漢対策グッズですから!!」

誰一人として拷問器具ではないという俺の言葉を信じてくれはしなかった……。

「でも、これじゃ私達もベンジャミンをボコボコに出来ないのだけど」
「あ……」
「あ……じゃないわよ!結界を解いたら私達まであんな風になるじゃない!」

そこまで考えていなかったと呟けばエリシアは呆れたように溜め息をついた。

「えっと……暫くすれば薄れてくと思うんで時間の経過を待ちましょうか」
「それなら俺はこの事をギルドに伝えてくる。恐らく俺達に指名依頼を回してきた職員もこいつらの仲間だろうから、ギルドマスターに報告しなとだしな」
「あ、じゃあ私も行く。その人の顔、覚えてるから」

ジャックとレイチェルはギルドに向かうらしい。

「でもここってダンジョンの中ですよね?そんなにすぐ戻れるんですか?」
「上の階層に戻れば転移魔法陣があるからな、それを使えば一瞬だ」
「便利なんですね……分かりました、お気をつけて」

二人を見送っていると上着の袖がくいくいと引っ張られてるのに気が付いた。
視線を向けてみればマルセルとライネルだ。

「ニロ兄さん、俺、ダンジョン探検してみたい!」
「僕も!」

好奇心で目がキラキラしているが了承はできない。

「駄目だ。ここは強い魔物がたくさん出るから、ジャックさん達みたいな大人でも危険なんだぞ?」
「えー……」
「でも僕達、強い魔法使えるよ!」

子供達が不満げに唇を尖らせるとデリックが屈みこみ視線を合わせ言い聞かせる。

「いくら強い魔法が使えてもお二人は装備も武器もありませんから簡単に怪我をしてしまいます。ダンジョンはもう少し大きくなって、お二人に合う装備と武器を手に入れてからでも遅くありませんよ」
「でも……俺達もあの剣のお兄さんみたいにかっこよく戦いたいんだ!」
「僕もっ!エリシアお姉さんみたいに強くなりたい!」

どうやら子供達はジャック達の戦う姿を見て憧れを抱いたらしい。
その気持ちはよくわかる。彼らの戦闘スタイルは確かにかっこよくて、俺も心惹かれてしまったから。

「そう思ってくれるのは嬉しいわ。じゃあ今度から少しずつ魔法と一緒に戦闘の訓練もしましょうか、スライムくらいなら木の棒一本でも倒せるし」
「本当か!?」
「やった!!」

喜ぶ子供達に便乗して俺もそっと挙手する。

「俺も是非戦闘訓練がしたいです!」

目指せ、脱・非戦闘員だ!!
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界居酒屋「陽羽南」~異世界から人外が迷い込んできました~

八百十三
ファンタジー
東京都新宿区、歌舞伎町。 世界有数の繁華街に新しくオープンした居酒屋「陽羽南(ひばな)」の店員は、エルフ、獣人、竜人!? 異世界から迷い込んできた冒険者パーティーを率いる犬獣人の魔法使い・マウロは、何の因果か出会った青年実業家に丸め込まれて居酒屋で店員として働くことに。 仲間と共に働くにつれてこちらの世界にも馴染んできたところで、彼は「故郷の世界が直面する危機」を知る―― ●コンテスト・小説大賞選考結果記録 第10回ネット小説大賞一次選考通過 ※小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+、エブリスタにも並行して投稿しています https://ncode.syosetu.com/n5744eu/ https://kakuyomu.jp/works/1177354054886816699 https://novelup.plus/story/630860754 https://estar.jp/novels/25628712

その日暮らしの自堕落生活

流風
ファンタジー
如月玲子、40歳。 施設出身で独身。家族も無く、多少ワーカーホリック気味の日常を淡々と過ごしていた。 人間関係が苦手で、お金が貯まったら老後は引きこもり生活を送りたい。そう思っていたのに… 突然の異世界召喚、しかも着地点がズレて湖の中へ。 気づくとなぜか13歳まで若返り、知らない世界での一からのスタートとなってしまう。 魔法のある世界だが、保有魔力量が徐々に減り、魔法が使える者が少なくなっている世界。そんな中、保有魔力量が物凄く多い玲子が召喚された。与えられたチートは魔力量のみ。魔物もいる世界で必死に魔法と剣術を学ぶ。 新しい世界で冒険者となったが、今さら仕事漬けの日々は送りたくないと、休日多めの生活を送ろうとするが… 出会ったモフモフに「ダラダラするな」と怒られながら狩りに付き合わされ、召喚した王族の捜索から逃れるために隣国を目指し旅をする。 いつか平和な街の片隅の小さな家を買いダラダラ生活を目標に頑張って生きていきます。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!

エノキスルメ
ファンタジー
ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あのクソ親のように卑劣で空虚な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め称える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これはちょっぴり歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載させていただいています

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

異世界転生はうっかり神様のせい⁈

りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。 趣味は漫画とゲーム。 なにかと不幸体質。 スイーツ大好き。 なオタク女。 実は予定よりの早死は神様の所為であるようで… そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は 異世界⁈ 魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界 中々なお家の次女に生まれたようです。 家族に愛され、見守られながら エアリア、異世界人生楽しみます‼︎

処理中です...