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12-エビフライの仕上げ

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「なるほど……そんなことがあったんですね」
「本当に、もう嫌になっちゃう……相手が普通の人、いいえ私に相応しい男で上手くやっていける人なら私も貴族の娘である以上、諦めて家に戻るわよ。でもね?姉は恋人との結婚が許されて、その代わりに私があんなロクデナシの犠牲になれっていうのはどうしても納得できないの!!」

エリシアは行き場のない感情をぶつけるようにテーブルをバシバシと叩く。

「俺がエリシアさんの立場でも納得できないと思います」
「でしょう!?あ、でもね?姉が嫌いなわけじゃないのよ……?姉は両親からの愛情を一身に受けて育った人で、私にも優しくて良くしてくれるの……でも。私と違って自分が優先されることが当たり前に育ってきてるから諦めるってことを知らないのよ。私がいつも我慢させられてどう思ってるかなんて、知りもしないの……それもやっぱりちょっと腹が立つのよ!」
「それは……ちょっと複雑な気持ちですね」
「そう!そうなの!!」

エリシアの感じている複雑な気持ちには俺にも心当たりがある。

元の世界の友人で付き合いのあった友人の一人がそういう奴だったからだ。
自分の意見を通すのに他人が譲るのが当たり前で嫌な事は人任せにして自分が困ると助けを求めてくるくせに、自分以外が困ってる時は知らないふりをする。
でも憎めない部分もあって、ごく稀にだが助けて貰ったこともあるから恩を感じて付き合いを続けていた。

結局は恋人が出来た途端「彼女がお前の事嫌いだから」とか言って十年以上付き合いのある俺に絶縁を叩きつける様なクズだったんだが。

おっといけない、つい昔の嫌な奴を思い出してしまった。
今は俺のくだらない思いでより、エリシアが大事だ。

「はあ……ニロに吐き出したら少しすっきりしたわ」

一気に紅茶を飲み干してエリシアが微笑む。
俺は相槌を打ちながら聞いていただけだが少しでも役に立てたなら良かった。

「ニロ、今夜は……いえ、暫く泊めてくれるかしら?家に帰りたくないし、泊まってた宿屋に父が押しかけてきたら迷惑かけちゃうし。あ、またシャワー貸してくれる?あとしゃんぷーも!お代はこれで!」

エリシアはぱっと微笑むとシスター服のポケットから財布らしき袋を取り出して中から金貨を五枚ほど取り出してテーブルに並べる。

「えっと……」

困った、俺はこの世界の貨幣の価値を知らない……!

受け取ることも返すことも出来ずに困ってしまい、エリシアに尋ねる。

「あの、俺の世界……俺の育った国では金貨ではなく違う貨幣や紙幣を扱っていたのでこの世界の価値が良く分からなくて」
「あら、そういえばニロは違う世界の出身だったわね。気が付かなくてごめんなさい」

エリシアは財布からそれぞれ貨幣を取り出すと丁寧にその価値を一つずつ説明してくれた。
それによると金貨は一枚で日本円にして一万円の価値があるようだ。
それが五枚……つまり五万円の宿泊費を彼女は俺に支払おうとしている。

それはさすがに高すぎじゃないか!?

「あの……さすがに多すぎるかと」
「あら、異世界の技術を使わせてもらう上にほとぼりが冷めるまでお世話になるんだからこれくらい当然よ。足りないならもっと出すわ」
「いいえ!大丈夫です!」
「そう?じゃあ早速シャワー借りるわね。あ、覗いちゃだめよ?」
「覗きませんよ!!」

ぎょっとして反論するとエリシアは楽し気に笑いながら浴室に向かっていった。
思わぬところで得た初収入の金貨は少し重かった。


エリシアがのんびりバスタイムを楽しんでいる間に、俺は自分の部屋に向かい彼女の着替えを用意する。
一度も開封してない黒の長袖ティーシャツとこれまた未使用のちょっと有名なブランドのジャージである。
どちらも会社の忘年会でやったビンゴ大会で貰ったものだがサイズがレディースだった。俺には小さくて到底着られないので、そのうち母にでも押し付けようと思っていたものだ。

エリシアさんなら着れるだろうし、多少大きくてダボっとしててもそれはそれでありだ!
萌袖になればなお良し!!

そんな期待を抱きつつ、着替えをリビングへ運んだあとはミニチュアフードを実体化させて夕食の準備に取り掛かる。


今日はこの前仕込んでいたエビフライだ。
着色していた透明粘土は良い感じに色が馴染んで揚げ物の色味になっている。
これをおろし金で擦り細かくしたらタッパーに入れる。そして仕込んで置いた中身の海老に薄く速乾ボンドをはけで塗り付け、タッパーへ投入。中でころころ転がせば衣が満遍なくついてくれた。
速乾ボンドが乾いたら、えびに纏わせた衣の上からこげ茶色に着色したレジンをソース代わりにかけて硬化ライトで固めれば出来上がりだ。

実体化したばかりのエビフライをお皿に盛り付けて、夕食に時間になったらあらかじめミニチュアを作り実体化させたうえで冷蔵庫に冷やしていたミニトマトと千切りキャベツを添えればオーケーだ。

さっき、実体化したお菓子結構食べてたしエリシアさんもすぐにお腹はすかないよな?


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