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03-粘土のケーキ

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俺が住んでいた賃貸の一軒家ごと大自然に放りだされて訳が分からないまま夜が明けた。

一晩寝て起きたらきっと元に戻ってる、夢だったら冷めるはず……そう思ってた時期が俺にもありました。
残念ながら外が明るくなっても外の景色は変わらなかった。

思い切って外に出てみると幻覚でも夢でもなく、この景色は現実なんだと嫌でも理解してしまった。
草木の匂いもあるし、小川の水は冷たいし、家から見える湖まで行ってみたら野生のうさぎとか鹿がいたからもう間違いなく現実だ。

ここがどこだとか、なんでこんなことにとか、いくら考えたってわからない。
とにかく今は落ち着こう、落ち着いてこれからどうするべきか考えなくてはならない。
玄関にはしっかり鍵を掛け家の中に戻ると同時にぐうぅと間抜けな音がして腹の虫が空腹を訴える。

(とりあえず何か食べよう……あー、でもこんな状況じゃ食料は貴重だよな……日持ちしないものを先に少しずつ食べて、日持ちしそうなものはなるべく残しておかないと)

幸い、冷蔵庫には食材がそこそこ入っているしキッチンの戸棚にはカップ麺やパックご飯、レトルト食品や買い足したばかりの調味料もある。少しづつ食べれば暫くは生き延びられそうだ。
だが食料が尽きる前にこの辺で食べられそうなものを探さなくては。

そんなことを考えながらキッチンに足を向けた時、ふと視界に見慣れないものが入り込んだ。

「……こんなもの、あったっけ?」

キッチンへ続くドアから少し離れた所に置いてある棚。
いつもは粘土のミニチュアフードを置いて乾燥させているその棚の一番上に、直径十二センチくらいの苺のホールケーキがどどんと置いてある。
買った覚えがないケーキなのに、なぜか見覚えがあった。
それは昨日作ったミニチュアのケーキだ。
樹脂粘土で作ったペットボトルの蓋くらいのサイズだったものが大きくなっている。

「なんだよこれ……」

不審に思いながらまじまじと見つめ、そっとケーキをつついてみる。
粘土の弾力が帰ってくるかと思いきやべちゃりと指に白い何かが付いた。
手を引っ込め見てみると生クリームの様だ。

「まさか、本物?」

匂いを嗅いでみると甘い香りがする。

「なんだこれ、どんなドッキリだよ」

粘土で作った偽物が本物になったとでもいうのだろうか。
俺はキッチンからプラスチックのフォークを持ってくるとクリームを掬ってみた。
粘土だったはずのそれはふわりと柔らかく掬った下から黄色いスポンジケーキが見えている。

「いやいや、ない。ありえないって……これだってきっとそれっぽく見えるだけで口に入れたら粘土……うまっ!?」

思い切って掬ったクリームを舐めてみたら驚くほどにうまい。
以前、友人といったホテルのスイーツ食べ放題で食べた有名パティシエのケーキと同じくらいかもしれない。
空腹だったこともあり、俺はあっという間に四分の一までケーキを食べてしまった。
だが食べてしまってから気付く。
これが本当に元が粘土のケーキだとしたら、間違いなくお腹を壊す。
腹痛で苦しむだけで済めばいいが最悪体を壊してそのまま……なんてこともあるかもしれない。

慌ててフォークを置き、トイレで吐き出そうとするがなかなか出てこない。

マジか……俺はこんな何処かもわからない場所で、粘土食べて死ぬかもしれないのかよ……。

昨日から訳の分からない事ばかりだ。
ネットも電話も通じないから助けも呼べない。
諦めて寝室に向かいベッドに横たわる。起きていると嫌な考えばかりが頭を巡るから寝てしまおうと思った。
粘土だったケーキを食べたことで具合が悪くなっても最初からベッドの上で横になっていれば倒れて怪我をすることもないだろう。

悪い事を考えないように言い聞かせ目を閉じているとだんだん眠気が襲ってきた。
そして俺はそのまま眠りに落ちて行った。











どれぐらい眠っていたのか。
目が覚めるとまだ外は明るい。スマホの時計を見てみるとあれから四時間も眠っていたらしい。
体を起こしてみる。
粘土だったケーキを食べたというのにどこかが痛かったり苦しかったりはしない。
寧ろ今までより頭がすっきりしていて体力が有り余っているようだ。

寝室を出てあのケーキがあった棚に向かう。
まだケーキはそのまま残っていた。
俺の食べかけそのままで。

分からない事が多すぎる。
……だが、頭を悩ませていても仕方がないのかもしれない。
もうこれはこういうものだと受け入れて、プラスに考えないと頭がおかしくなりそうだ。
粘土で作ったものが食べ物になるなら、そして体に何も害がないなら粘土がある限り今後食料の問題はなんとかなる。

良い事だけ考えよう。
不安になる事は今の考えない方がよさそうだ。
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