村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎

文字の大きさ
上 下
14 / 37

12.行き倒れ見つけました

しおりを挟む
捻った足は大したことがなかったけれど念のため数日間お店を休ませてもらうことになった。

その間、お店で知り合った村の人たちが次々にお見舞いに来てくれた。
小さな村なだけあって何があったのかはすぐ伝わったらしく、アルトくんはいろんな人からこっぴどく叱られたらしい。
今は心を入れ換えてリンダさんのお店を手伝っているそうだ。

お見舞いに来てくれた中には村の子供達もいた。
早く元気になるようにと男の子達は森で取った果物とか川で釣った魚を、女の子達は摘んだ花で作った押し花や小さな花束を持ってきてくれた。
皆の名前はまだ覚えきれてないけれど治ったら一緒に遊ぼうねと約束をした。
いい子達ばかりで胸の奥が暖かくなる。
その中でも一番私を心配してくれたのはウォルトさんだった。

「足の調子はどうだ?」
「何か必要なものはないか?」
「腹減ってないか?」

頻繁に私の様子を見に来てはその度にソニアさんに追い払われている。
挙げ句に「スザンナさんが休めないでしょう!」と怒られて大きな体を小さく丸めていた。
大きな熊がしょんぼりしているみたいで可愛いかった。

怪我もすっかり良くなって私はお店での仕事に復帰したが、気が付けばすっかりウォルトさんが過保護になっていた。
お店はお隣だと言うのに着いてこようとするし、終わる時間に迎えに来ると言い出した。これにはソニアさんだけでなくリンダさんも呆れていた。

母もここまで私に過保護だったことはなかったが、大切に思われていると言うことが私は嬉しかった。
公爵家で令嬢をやっていたのが嘘のように私はこの村での暮らしに馴染んでいった。






月日が移り変わるのはとても早く、村で暮らしはじめてあっという間に一年が過ぎた。

その間に私は料理も覚えたし家事も覚えた。
公爵家を出たときに切り落とした髪も伸びて女の子らしくなったと思う。

友達も出来た。
ティファナというまっすぐ伸ばしたハニーブロンドの髪が綺麗な女の子と、ルナという黒髪を顎のラインで切り揃えた女の子だ。ティファナはオシャレするのが大好きでお店に新しいリボンや布が入荷するとすぐにやって来る。
私のひとつ年上で服を自分で作ってしまえるほどに手先が器用だ。
ルナは私と同い年の大人しい女の子。
本を読んだり黙々と作業をするのが得意でよくティファナの服作りを手伝っている。

私はこの二人と遊ぶことが多かった。

この日もお店がお休みだったので私は二人と森に遊びにいく約束をしていた。

「スザンナ、忘れ物はないか?あまり森の奥には行くんじゃないぞ?日が沈む前に帰ってこい」
「うん、大丈夫。ありがとうお父さん」
「ウォルトったら本当に過保護なんだから……スザンナはしっかりしてるんだから大丈夫よ」
「うん、危なくなるようなことはしないよ。じゃあ行ってきます。お父さん、ソニアさん」

一年間一緒に暮らしたことで私はすっかりウォルトさんとソニアさんになついていた。

今ではウォルトさんをお父さんと呼び敬語も抜けた。
ソニアさんは私を呼び捨てで呼んでくれるようになったが、私はなんとなくお祖母さんやお祖母ちゃんと呼ぶのは躊躇いがあってソニアさんと呼び続けている。
彼女は年齢の割に見た目が若くて綺麗なのだ。

私もソニアさんの様に歳を重ねていきたいという尊敬を込めて名前で呼んでいきたい。
その思いをソニアさんに伝えたところ照れたように微笑みながら名前で呼ぶことを了承してくれた。

見送る二人に手をふって私は待ち合わせ場所に指定した村の入り口に向かった。
ティファナとルナはもう到着していて私を待っている。

「スザンナ!おはよう!」
「おはようございます、スザンナちゃん」

元気一杯のティファナに対してルナはいつものように大人しい。

「おはよう。ティファナ、ルナ」
「見てみて!新作のワンピース着てきたのよ!」

私が駆け寄るとティファナは自慢するようにワンピースの裾を軽く摘まんで見せた。
濃いブルーのワンピースに白いレースがあしらわれており胸元にはレースと同じリボンが結んである。シンプルながらもティファナの可愛らしさを引き立てるデザインだ。

「ティファナによく似合ってて可愛いね。あ、ルナもお揃い?」

よく見てみればルナもティファナと同じデザインのワンピースを着ている。優しいクリーム色でレースもリボンもティファナとお揃いだ。

「ティファナちゃんが……作ってくれたんです」

指摘されたのが恥ずかしいのかルナはうつ向いてしまった。

「ティファナもルナもとっても似合ってて可愛いね」
「でっしょー?今、スザンナの分も作ってるから楽しみにしててね」

服を褒めるとティファナはにっこりと微笑む。

「私の分までいいの?」

まさか自分の分を用意してくれているとは思わなくて首かしげるとティファナは「もちろん!」と頷いた。

「スザンナは顔がいいから同じデザインにしちゃうとどうしても服が負けちゃうのよ。だからスザンナを引き立たせる服を今考えてるの!力作にするから期待してて!」

ティファナの服への情熱は本当に尊敬する。彼女はいつか王都でデザイナーになりたいそうだ。

合流した私達は三人手を繋いで森に出掛けた。
今日はルナがベリーがたくさんなっている場所を見付けたとかでそこに行くつもりだ。
森の奥深くというわけでもないので子供だけで行っても問題ない。

ルナの道案内で歩いていくとたくさんのベリーが実をつけた場所があった。
おしゃべりしながら摘み取っていると、不意に後ろでがさりと繁みが揺れた。

「い、今のっ……なんですか!?」

過剰に反応したのはルナだ。
肩を震わせびくびくと怯えている。

「どうせ、うさぎとか猫とかでしょ?村から近いし熊や狼みたいな猛獣がでることなんて滅多にないんだから大丈夫よ」

ルナを庇うように後ろに隠したティファナも少し怖がっているのか声が震えている。

「私、ちょっと見てくるね」

ティファナの言うようにこの辺りに危険な動物は滅多に現れない。
大丈夫だとは思うが万が一の時には二人を逃がさなければと思い少し警戒しながら揺れた繁みをこっそりと覗きこんだ。
そこに居たのは熊でも狼でもうさぎでも猫でもない。



ぐううぅ、とお腹を鳴らす一人の青年だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

婚約破棄されてすぐに新しい婚約者ができたけど、元婚約者が反対してきます

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私ミレッサは、婚約者のウルクに罪を捏造されて婚約破棄を言い渡されてしまう。    私が無実だと友人のカインがその場で説明して――カインが私の新しい婚約者になっていた。  すぐに新しい婚約者ができたけど、元婚約者ウルクは反対してくる。  元婚約者が何を言っても、私には何も関係がなかった。

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

虐げられていた私ですが、借金持ち貴族の生活は快適です

アソビのココロ
恋愛
シンディ・マリガン子爵令嬢は10歳にして両親を亡くし、借金のこともあって子爵家を叔父一家に乗っ取られそうになってしまう。毎日掃除婦のように働かせられ、雑巾を投げつけられていたのだ。しかしそれまで怖いと思っていた金貸しの力を借り、子爵家を取り戻すことに成功する。金貸しに要求されたものは?

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

処理中です...