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5.助けてくれたのは
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「そう……森で男達に襲われて川に……上流から流れてきたあなたを見つけた時は驚いたけれど、大変な目にあったのね……」
公爵家の事や自分の身分には一切触れずに連れとある村に向かっていたところ、森で男達に追われ川に落ちたと話すと女性は私の頭をそっと撫でた。
「今は出掛けてるのだけど、私の息子が帰ってきたらあなたが向かってた村まで送ってもらいましょう。お連れの方ももしかしたらそこに向かっているかもしれないし」
「そこまでしてもらっていいんですか?私……なにもお返しできるものがなくて……」
目を伏せると女性はふわりと微笑む。
「困ったときは助け合うものよ。何かしてもらって申し訳ないと思うより、感謝してもらった方が嬉しいわ。それでも足りないと思うならもしあなたが困ってる人を見掛けた時に、その人を助けてあげて」
「……はい、ありがとうございます」
その言葉に顔を上げると女性の姿に母の面影が重なった。
『優しさは巡るものなの。誰かに優しくした分だけ、自分にも優しさが返ってくるのよ』
生前の母の言葉が甦り胸が熱くなる。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私の名前はソニアよ。あなたのお名前は?」
今更だが私も名乗ってない事に気が付いた。
仮にも公爵家の教育を受けた身としてはあるまじき失態だ。
慌てて姿勢を正す。
「私はスザンナです。歳は十二になります」
「スザンナさん……そのお名前、聞き覚えがある気がするわねぇ?」
女性――ソニアさんは記憶を辿るように頬に手を当て唸る。
知り合いに同じ名前の人でもいたのだろうかと首をかしげていると、遠くでドアが開く音がして「ただいま」と男性の声が聞こえてきた。
「息子が帰ってきたみたいね。スザンナさんにも紹介するわね。ウォルト、こっちよ」
ソニアさんがドアを少し開け声をかけると足音が近付き部屋の前で止まった。
「ここにいたのか。リンダさんが母さんにって」
「あら、美味しそうなお野菜。お礼をしなくてはね」
ドアの影から男性の腕が見える。
しかしこの位置からは顔が見えない。
ソニアさんにお世話になったのだから息子さんにも挨拶しなければ、と私はベッドから降りてそっと二人に近付いた。
私に気が付いたソニアさんがドアを大きく開けて息子さんに私を紹介してくれる。
「ウォルト、こちらスザンナさんよ。川に流されていたのを見つけて家で保護したの。スザンナさん、この子は息子のウォルトよ。見た目は怖いけれど噛みついたりしないから安心して」
ドアの影になっていた男性――ウォルトさんは想像以上に背が高かった。
しかも目付きが悪く初対面の子供なら間違いなく泣く。それくらい人相が悪い。
とはいえ森で追いかけてきた男達と比べればまだ怖くない。
「こんにちは、スザンナと言います。ソニアさんにはお世話になって――」
「クレア?」
「え」
ウォルトさんを見上げれば彼は目を見開き小さく呟いた。
その呟きに私も驚く。
心臓がどくりと脈を打って聞こえた呟きが頭の中で繰り返される。
「母を……母を知ってるんですか?」
気が付けば私はウォルトさんと距離を詰めていた。
クレアは母の名前だ。
この人は母を知っているのだろうか。
母と交流があったのならどんなことでも構わない、母の話を聞きたい。
屋敷で見る母は優しく微笑みながらも悲しそうな目をすることが多かったから。
「お願いします!教えて下さい!」
「スザンナさん、落ち着いて」
興奮気味にウォルトさんを問い詰めた私をやんわりと止めたのはソニアさんだった。
「あなたの名前、どこで聞いたか思い出したわ。クレアが女の子が産まれたら絶対につけると言っていた名前なの」
「ソニアさんも母をご存じなんですか?」
驚きを隠せない私にソニアさんは寂しそうに頷いた。
「クレアはね……ウォルトの恋人で、そして私の義理の娘になるはずだった子なの」
天国のお母様。
これはあなたの導きですか?
どうやら私は血縁者に助けられたようです。
公爵家の事や自分の身分には一切触れずに連れとある村に向かっていたところ、森で男達に追われ川に落ちたと話すと女性は私の頭をそっと撫でた。
「今は出掛けてるのだけど、私の息子が帰ってきたらあなたが向かってた村まで送ってもらいましょう。お連れの方ももしかしたらそこに向かっているかもしれないし」
「そこまでしてもらっていいんですか?私……なにもお返しできるものがなくて……」
目を伏せると女性はふわりと微笑む。
「困ったときは助け合うものよ。何かしてもらって申し訳ないと思うより、感謝してもらった方が嬉しいわ。それでも足りないと思うならもしあなたが困ってる人を見掛けた時に、その人を助けてあげて」
「……はい、ありがとうございます」
その言葉に顔を上げると女性の姿に母の面影が重なった。
『優しさは巡るものなの。誰かに優しくした分だけ、自分にも優しさが返ってくるのよ』
生前の母の言葉が甦り胸が熱くなる。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私の名前はソニアよ。あなたのお名前は?」
今更だが私も名乗ってない事に気が付いた。
仮にも公爵家の教育を受けた身としてはあるまじき失態だ。
慌てて姿勢を正す。
「私はスザンナです。歳は十二になります」
「スザンナさん……そのお名前、聞き覚えがある気がするわねぇ?」
女性――ソニアさんは記憶を辿るように頬に手を当て唸る。
知り合いに同じ名前の人でもいたのだろうかと首をかしげていると、遠くでドアが開く音がして「ただいま」と男性の声が聞こえてきた。
「息子が帰ってきたみたいね。スザンナさんにも紹介するわね。ウォルト、こっちよ」
ソニアさんがドアを少し開け声をかけると足音が近付き部屋の前で止まった。
「ここにいたのか。リンダさんが母さんにって」
「あら、美味しそうなお野菜。お礼をしなくてはね」
ドアの影から男性の腕が見える。
しかしこの位置からは顔が見えない。
ソニアさんにお世話になったのだから息子さんにも挨拶しなければ、と私はベッドから降りてそっと二人に近付いた。
私に気が付いたソニアさんがドアを大きく開けて息子さんに私を紹介してくれる。
「ウォルト、こちらスザンナさんよ。川に流されていたのを見つけて家で保護したの。スザンナさん、この子は息子のウォルトよ。見た目は怖いけれど噛みついたりしないから安心して」
ドアの影になっていた男性――ウォルトさんは想像以上に背が高かった。
しかも目付きが悪く初対面の子供なら間違いなく泣く。それくらい人相が悪い。
とはいえ森で追いかけてきた男達と比べればまだ怖くない。
「こんにちは、スザンナと言います。ソニアさんにはお世話になって――」
「クレア?」
「え」
ウォルトさんを見上げれば彼は目を見開き小さく呟いた。
その呟きに私も驚く。
心臓がどくりと脈を打って聞こえた呟きが頭の中で繰り返される。
「母を……母を知ってるんですか?」
気が付けば私はウォルトさんと距離を詰めていた。
クレアは母の名前だ。
この人は母を知っているのだろうか。
母と交流があったのならどんなことでも構わない、母の話を聞きたい。
屋敷で見る母は優しく微笑みながらも悲しそうな目をすることが多かったから。
「お願いします!教えて下さい!」
「スザンナさん、落ち着いて」
興奮気味にウォルトさんを問い詰めた私をやんわりと止めたのはソニアさんだった。
「あなたの名前、どこで聞いたか思い出したわ。クレアが女の子が産まれたら絶対につけると言っていた名前なの」
「ソニアさんも母をご存じなんですか?」
驚きを隠せない私にソニアさんは寂しそうに頷いた。
「クレアはね……ウォルトの恋人で、そして私の義理の娘になるはずだった子なの」
天国のお母様。
これはあなたの導きですか?
どうやら私は血縁者に助けられたようです。
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