4 / 37
4.救われた先で
しおりを挟む
死んだのだと思った。
ふわふわとした意識の中で亡くなったはずの母の声が聞こえてきたから。
「もう大丈夫。苦しいのも悲しいのも全部おしまいよ」
頭を優しく撫でてくれる感触に涙が溢れる。
「お母様、会いたかった」
そう呟けば母が微笑む気配がした。
「私も会いたかったわ。もう大丈夫だから、今はゆっくりおやすみなさい。これからはきっと、あの人が守ってくれるわ」
また優しく頭を撫でられる。
ここはきっと天国なんだ。
私を哀れんだ神様が頑張って生きてきた私にくれたご褒美に母のもとに導いてくれたんだと思った。
母の言うように今はゆっくり眠ろう。
今日は……いや、母がいなくなってからずっと頑張ったから疲れていたんだ。
でもあの人って、誰のこと……?
疑問に思いながらも、母の温もりに包まれるような感覚に私はぐっすりと眠った。
◇◇◇
目が覚めると見知らぬ部屋を朝日が照らしていた。
木で出来た簡素なベッドと椅子と小さなテーブルが一つだけの部屋。
意識がはっきりしてくると同時に自分が男達に追われ川に落ちた事を思い出す。
まさか捕まってしまったのかと自分の体を見下ろせばシンプルなワンピースに着替えさせられていただけで、特に暴行を受けた痕はない。
と言うことは誰かに助けられたのだろうか。
(お母様の所には……行けなかった)
母の声が聞こえたのは夢だったのだろう。
少し残念に思いながら起き上がるとカシャンと何かが床に落ちた。
リエナが持たせてくれた母のロケットペンダントだ。
それを拾い上げて両手で包み込む。
(きっとお母様が助けてくれたのかしら)
母は私が生きることを願っているのかもしれない。
心の中で母に礼を述べていると不意に木のドアが軋んだ音を立てて開かれた。
「あら……」
顔を向ければそこには女性が一人立っていた。
白髪を後ろでひとつに結んだ姿勢のいい初老の女性だ。
「目が覚めた?」
優しい微笑みが母と重なりつい目頭が熱くなる。
こみ上げる感情を押さえ込んでベッドから立ち上がると私は女性に向かって頭を下げた。
「助けていただきありがとうございます」
「あらあら、しっかりしたお嬢さんだこと。痛いところや苦しいところは無いかしら?」
ベッドに座るように促され大人しく腰掛けると女性は木の椅子に腰掛け、私の体を気遣ってくれた。
「はい。大丈夫です」
迷惑をかけて申し訳ないと思いながらそう告げると女性は微笑みながら頬に手を当て首を傾けた。
「子供が気を使うことなんて無いのよ。まだ起きたばかりなのだから無理は駄目。そうだ、スープを作ったのだけれど気分が良ければどうかしら?」
「そこまでお世話になる訳には……」
助けてもらい食事まで施してもらっても、今の私には返せるだけのお金がない。
そう思い断ろうとした瞬間。
ぐうぅ、きゅるる
随分間の抜けた音がした。私の腹の虫は正直らしい。
ぶわりと頬が熱くなり慌ててお腹を押さえる。
「私もこれから朝ごはんなの。一緒に食べましょう?」
くすくすと笑う女性に私は羞恥に耐えながら小さく頷いた。
女性は私の体を気遣い、わざわざ部屋までスープを運んできてくれた。
二人分の器をテーブルに置いてそのうち一つと木のスプーンを差し出してくれる。
ふわりとした優しい匂いに催促するようにお腹が鳴った。
「い、いただきます」
「どうぞ召し上がれ。お口に合うといいのだけど」
スプーンでスープを掬う。
ポタージュの様にとろみがついていたが味付けはそんなに濃くはない。
空腹だったこともあり、私はあっという間に器を空にしてしまった。
「ご馳走さまでした。すごく美味しかったです」
器をテーブルに置いて礼を述べると女性は安心した様に微笑む。
「よかった、食欲があるなら大丈夫ね」
「何から何までお世話になってすみません……」
「気にしなくていいのよ、私も可愛らしいお嬢さんのお世話ができて嬉しいのだから……もしよかったら何があったのか教えてくれる?」
女性の問い掛けに頷き、私はこれまでの経緯を簡単に説明した。
ふわふわとした意識の中で亡くなったはずの母の声が聞こえてきたから。
「もう大丈夫。苦しいのも悲しいのも全部おしまいよ」
頭を優しく撫でてくれる感触に涙が溢れる。
「お母様、会いたかった」
そう呟けば母が微笑む気配がした。
「私も会いたかったわ。もう大丈夫だから、今はゆっくりおやすみなさい。これからはきっと、あの人が守ってくれるわ」
また優しく頭を撫でられる。
ここはきっと天国なんだ。
私を哀れんだ神様が頑張って生きてきた私にくれたご褒美に母のもとに導いてくれたんだと思った。
母の言うように今はゆっくり眠ろう。
今日は……いや、母がいなくなってからずっと頑張ったから疲れていたんだ。
でもあの人って、誰のこと……?
疑問に思いながらも、母の温もりに包まれるような感覚に私はぐっすりと眠った。
◇◇◇
目が覚めると見知らぬ部屋を朝日が照らしていた。
木で出来た簡素なベッドと椅子と小さなテーブルが一つだけの部屋。
意識がはっきりしてくると同時に自分が男達に追われ川に落ちた事を思い出す。
まさか捕まってしまったのかと自分の体を見下ろせばシンプルなワンピースに着替えさせられていただけで、特に暴行を受けた痕はない。
と言うことは誰かに助けられたのだろうか。
(お母様の所には……行けなかった)
母の声が聞こえたのは夢だったのだろう。
少し残念に思いながら起き上がるとカシャンと何かが床に落ちた。
リエナが持たせてくれた母のロケットペンダントだ。
それを拾い上げて両手で包み込む。
(きっとお母様が助けてくれたのかしら)
母は私が生きることを願っているのかもしれない。
心の中で母に礼を述べていると不意に木のドアが軋んだ音を立てて開かれた。
「あら……」
顔を向ければそこには女性が一人立っていた。
白髪を後ろでひとつに結んだ姿勢のいい初老の女性だ。
「目が覚めた?」
優しい微笑みが母と重なりつい目頭が熱くなる。
こみ上げる感情を押さえ込んでベッドから立ち上がると私は女性に向かって頭を下げた。
「助けていただきありがとうございます」
「あらあら、しっかりしたお嬢さんだこと。痛いところや苦しいところは無いかしら?」
ベッドに座るように促され大人しく腰掛けると女性は木の椅子に腰掛け、私の体を気遣ってくれた。
「はい。大丈夫です」
迷惑をかけて申し訳ないと思いながらそう告げると女性は微笑みながら頬に手を当て首を傾けた。
「子供が気を使うことなんて無いのよ。まだ起きたばかりなのだから無理は駄目。そうだ、スープを作ったのだけれど気分が良ければどうかしら?」
「そこまでお世話になる訳には……」
助けてもらい食事まで施してもらっても、今の私には返せるだけのお金がない。
そう思い断ろうとした瞬間。
ぐうぅ、きゅるる
随分間の抜けた音がした。私の腹の虫は正直らしい。
ぶわりと頬が熱くなり慌ててお腹を押さえる。
「私もこれから朝ごはんなの。一緒に食べましょう?」
くすくすと笑う女性に私は羞恥に耐えながら小さく頷いた。
女性は私の体を気遣い、わざわざ部屋までスープを運んできてくれた。
二人分の器をテーブルに置いてそのうち一つと木のスプーンを差し出してくれる。
ふわりとした優しい匂いに催促するようにお腹が鳴った。
「い、いただきます」
「どうぞ召し上がれ。お口に合うといいのだけど」
スプーンでスープを掬う。
ポタージュの様にとろみがついていたが味付けはそんなに濃くはない。
空腹だったこともあり、私はあっという間に器を空にしてしまった。
「ご馳走さまでした。すごく美味しかったです」
器をテーブルに置いて礼を述べると女性は安心した様に微笑む。
「よかった、食欲があるなら大丈夫ね」
「何から何までお世話になってすみません……」
「気にしなくていいのよ、私も可愛らしいお嬢さんのお世話ができて嬉しいのだから……もしよかったら何があったのか教えてくれる?」
女性の問い掛けに頷き、私はこれまでの経緯を簡単に説明した。
0
お気に入りに追加
1,811
あなたにおすすめの小説
復讐は合わせ鏡のように─『私』を殺してでも絶対に許しませんわ!
naturalsoft
恋愛
シオン・ローゼンクロイツ公爵令嬢は、この国の王太子であるジーク・サザンクロス王子と婚約関係にあった。
しかし、学園でとある転入生が来たことで平和な日常が変わってしまった。
婚約のジーク王子がその転入生、マリア男爵令嬢に夢中になってしまったのだ。しかも、側近の高位貴族の子息達も同じく夢中となり、学園生活はメチャクチャになっていった。
そしてついに婚約破棄の出来事に発展していく─
事前にその気配を察知した、頭の切れる公爵令嬢は裏でその計画を潰そうと動いたが、予期せぬ事に逆上した王子に殺されてしまう。
公爵家の抗議を握り潰し、マリア令嬢と婚約を結び直して、幸せを満喫するジーク王子は気付かなかった。
その怨みは死なずに生き続けていることに………
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
【完結】破滅したくない悪役令嬢がヒロインと共闘した結果、なぜか溺愛されました〜転生者が自分だけとは限らない〜
禅
恋愛
悪役令嬢は転生者であり、乙女ゲームをやりつくしていた。
ヒロインは転生者であるが、乙女ゲームを知らなかった。
そんな二人は学校で生活しながら、この国の王子に頭を悩ませていた。
断罪エンドは回避したい悪役令嬢。
地道に目立たず生きたいヒロイン。
そのためには、王子が邪魔。
そう判断した二人は手を結ぶことにする。お互いが転生者であると知らないまま。
その結果、悪役令嬢は溺愛されることになる。
※完結まで書いてあります
ラストでタイトルの副題を思い出してもらえると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる