入れ替わった双子

廣瀬純一

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準決勝の試合

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夏の蒸し暑い午後、響が所属する野球チームの試合の日がやってきた。響は中学の野球部でチームのピッチャーを務めており、今日の試合は地区大会の準決勝という大事な一戦だった。チームメイトも学校の友人たちも、響の豪速球に大きな期待を寄せていた。

しかし、試合の前夜、いつものように不思議な現象が起こる。響と美咲は寝ている間に再び**体が入れ替わってしまった**のだ。

「え、また!?」と、響の体で目を覚ました美咲は、すぐにその異常事態に気づいた。

慌てて美咲の部屋に行くと、響も目を覚ましており、自分の体に入っている美咲を見て、額に手を当ててうなだれた。

「どうするんだよ、美咲!今日は俺の試合なんだぞ!しかも準決勝だ!」

「私だって困ってるけど、どうしようもないよ……」

響は焦りと絶望で声を荒げたが、ふと冷静になって美咲の顔を見つめた。

「まさか、俺の代わりにお前が試合に出るしかないのか?」

美咲は少し怯えたように響を見返す。彼女は野球に詳しくなく、ましてやピッチャーとしてチームの命運を担うなんて想像もできなかった。

「でも、私、野球なんてほとんど知らないよ……大丈夫かな」

響は眉間にしわを寄せながらも、意を決して言った。

「俺たち、ここまで何とかお互いの世界でやってきたじゃないか。今日だって、きっとできる。俺ができる限り教えるからさ。頼む、チームを助けてくれ」

美咲はその言葉を聞いて、少しだけ安心したように頷いた。

---

試合が始まると、響(美咲)は心の中で何度も祈った。「頼む、無事に終わってくれ」と。だが、響の体でピッチャーマウンドに立つ美咲は、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

野球場にはたくさんの観客がいて、全員が期待を込めた目で彼女(響の体)を見つめている。美咲は心臓が高鳴るのを感じ、手が震えるのを止めることができなかった。

「響……どうすればいいの?」と内心つぶやきながら、彼女はキャッチャーのサインを見つめた。試合前、響が彼女に基本的な投球の仕方を急いで教えたものの、実際にピッチャーマウンドに立つと、それがいかに難しいかを痛感した。

最初のバッターがバッターボックスに立つ。美咲は緊張しすぎて、最初のボールを思い切り外してしまった。観客席からはざわめきが起こり、チームメイトも不安げに見守っていた。

「大丈夫、大丈夫……響ならこんな時どうする?」美咲は深呼吸をし、響のアドバイスを思い出した。

「フォームをしっかり意識して、リズムを作るんだ。焦らないで、体が覚えてるはずだから」

再びキャッチャーのサインを見て、美咲は肩の力を抜き、リリースの瞬間に集中した。すると、体が自然と動き、次のボールは真っ直ぐにミットへ吸い込まれた。審判の「ストライク!」という声が響き渡り、美咲は少しホッとした。

「やった……少しだけ感覚がつかめたかも」

次のバッターも慎重に相手をしながら、響の体が持つ力強さを信じて投げ続けた。美咲自身は野球の経験がなかったが、響の体は彼が長年培ってきた技術を備えており、それに助けられて少しずつ試合の流れに乗ることができた。

---

美咲がピッチャーマウンドで奮闘している間、響はベンチで自分の体を見守りながら心の中で応援していた。試合が進むにつれて、チームも美咲の(響の体を持つ)投球に徐々に信頼を寄せ始め、守備も固くなっていった。

7回の裏、相手チームが満塁のチャンスを迎えた。絶体絶命のピンチだった。美咲はプレッシャーで心臓が張り裂けそうだったが、響の声が脳裏に浮かんだ。

「絶対に諦めるな。ここで逃げたら負けだ」

彼女は再び深呼吸し、次のバッターに向けて全力でボールを投げ込んだ。結果は――見事な三振。観客席から大きな歓声が沸き上がった。

---

試合はそのまま進み、響のチームが勝利を収めた。ベンチに戻ってきた美咲(響の体)は、チームメイトから祝福の嵐を受けた。キャプテンが駆け寄り、響(美咲)の肩を叩いた。

「さすが響!今日のピッチングは最高だったよ!」

美咲は少し照れくさそうに笑い、「あ、ありがとう」と短く答えた。響の声で褒められるのは妙な気分だったが、チームのために自分が少しでも役立てたことにほっとした。

その日の夕方、家に帰った二人は、入れ替わりのまま試合を振り返っていた。

「響、あなたが教えてくれたおかげで、何とか投げられたよ」  
「いや、俺の体も良かったけど、お前の集中力がすごかったんだよ。満塁の時なんて、俺だったらあんなに冷静に投げられたかどうか……」

二人はお互いを見つめ、笑顔を交わした。入れ替わりが大変でも、二人は少しずつその状況を乗り越え、強く成長していた。
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