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入れ替わるキス
しおりを挟む教室の片隅、夏の終わりを告げる蝉の声が窓の外から響いていた。放課後の静まり返った空間で、川崎悠(かわさきゆう)は視線を落としながら自分の手を見つめていた。手のひらの感覚がいつもと違う――細くて、滑らかで、自分のものとは思えない。隣に座る幼馴染の宮村葵(みやむらあおい)は、そんな悠をじっと見つめて溜息をついた。
「だから言ったじゃん。ふざけてそんなことするから。」
葵は腕を組み、呆れたように眉を寄せた。
「いや、まさか本当にこんなことになるなんて思わなかっただろ。」
悠は気まずそうに笑い、首を掻いた――いや、彼女の体を借りている今、正確には「彼女」と呼ぶべきかもしれない。
「ふざけてキスなんかするもんじゃないのよ、バカ。」
葵が吐き捨てるように言う。彼女の声――いや、今は悠が入れ替わっている葵の体の声――は、いつもより低く、妙に説得力があった。
***
### 初めての“事故”
きっかけはついさっきだった。夏休み明けの学校で、二人はいつものように他愛ない言葉を交わしながら屋上に向かっていた。幼馴染という距離感で、何でも言い合える気楽さがある。そんな二人が冗談半分で「キスってどうなんだろう?」なんて話をし始めたのが、すべての始まりだった。
「お互い、経験ないでしょ? ちょっと試してみる?」
葵が冗談っぽく言ったその言葉を、悠はまさか本気にしてしまうとは思わなかった。
「じゃあ…一瞬だけ、目つぶって。」
照れ笑いを浮かべながらも、悠がその場のノリで顔を近づけた瞬間――。
唇が軽く触れた瞬間、世界がひっくり返ったかのような感覚がした。風が耳をかすめ、目を開けるとそこには驚愕の表情を浮かべる自分――いや、葵の姿があった。
「嘘でしょ…」
二人は同時に呟いた。どちらの声も、どこかぎこちなく響いた。
***
### 入れ替わった二人の始まり
「なんでこんなことになるんだよ!」悠が葵の体で叫ぶ。
「私に聞かないでよ!」葵も悠の体で声を荒らげる。
そんな中、二人は気づく。これは偶然ではない。何かの「条件」が揃うと、二人の性別が入れ替わってしまう。しかも、その「条件」とは――どうやら二人がキスをすることらしい。
「これ…元に戻る方法とかあるの?」
悠は不安げに問いかける。
「その方法を見つける前に、これ以上ふざけたことしないでよね。」
葵はため息をつきつつも、心の奥で新たな生活に対する一抹の期待と不安を抱えていた。
こうして、キスをすると性別が入れ替わるという奇妙な運命を共有することになった幼馴染の二人の、高校生活が幕を開けたのだった。
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