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新し名前
しおりを挟む「君はここに来た理由を知らないのね?」
青いドレスの女性が微笑みながら言葉を継いだ。その声は穏やかで優しいが、どこか底知れないものを感じさせる。
「知らない…というか、どうしてこんなことになってるんだ?俺は…いや、私は…」
彼女の声は相変わらず自分のものとは思えないほど高く澄んでいた。その違和感に言葉を詰まらせながら、混乱はさらに深まる。
「焦らなくていいわ。」
女性は優雅な足取りで近づき、手を差し伸べた。その手は透き通るほど白く、温かささえ感じられるほどだった。
「とりあえず、名前を教えてくれるかしら?」
名前――その言葉が彼女の耳に突き刺さるように響いた。思い浮かぶべき自分の名前が、まるで霧の中に消えてしまったかのように見つからない。
「…わからない。」
女性の瞳が一瞬だけ驚いたように見開かれたが、すぐに柔らかい微笑みが戻る。
「そう。それなら、今ここで新しい名前を決めるといいわ。名前がなければ、この世界での居場所を見つけるのは難しいから。」
新しい名前。この一瞬で彼女の胸に、まるでこの世界そのものが試しているかのような感覚が芽生えた。
「じゃあ…」
彼女は少し考えた後、ふと口を開いた。
「エリス。それでいい?」
青いドレスの女性はその名前を口の中で転がすように繰り返し、うなずいた。「エリス、いい名前だわ。それで決まりね。」
「で、あなたは?」
自分の名前を口にしたことで少しだけ落ち着きを取り戻し、エリス(元・彼)は尋ね返した。
「私はリシア。この地、アヴァリスの守護者よ。」
リシアは微笑みながら続けた。「君がここに来た理由を知りたいなら、私についてきて。この世界には、君自身が知りたい答えが隠されているわ。」
その言葉に押されるようにエリスは立ち上がり、リシアの背中を追った。どこに向かうのかはわからない。しかし、今はそれしか選択肢がないように思えた。
広大な虹色の森の中、二人のシルエットは揺れる木々の間に消えていった。その先に待つのは、自分の記憶、そして新しい運命の扉だった。
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