未来の社会

真奈美のお願い

### 1. 結婚後の選択

真奈美と拓也は、結婚してから1年が経っていた。二人はとても仲が良く、お互いの夢や目標を支え合いながら生活していた。真奈美はキャリア志向が強く、会社でも重要なプロジェクトを任されていた。一方の拓也は、仕事に対しては穏やかに取り組んでいたが、家庭を大切にする温かい性格だった。

子供のことを考え始めた二人は、今後の人生設計について話し合いを始めた。この社会では、結婚後にどちらが妊娠し、出産するかは夫婦の自由な選択に任されていた。生殖医療の進歩により、男性も子宮を移植し妊娠することが可能になっていたのだ。

真奈美は、長い間子供が欲しいと思っていたが、同時に自分のキャリアを中断することに対する不安も抱いていた。プロジェクトが大詰めを迎える今、休職することで失うものが大きいかもしれない。彼女は日々その葛藤を感じながら過ごしていた。

ある夜、二人が夕食後にリビングでくつろいでいるとき、真奈美は思い切って拓也に切り出した。

「ねえ、拓也。ちょっと真剣に話がしたいんだけど…」

拓也はコーヒーを飲みながら、優しい目で彼女を見つめた。「どうしたの？　何でも言って。」

### 2. 妊娠のお願い

真奈美は少しためらいながらも、決心して言葉を続けた。

「実は、最近ずっと考えてたことがあるの。子供のこと。私たち、そろそろ家族を増やすことを考えてもいい頃じゃないかと思って。」

拓也は笑顔でうなずいた。「うん、僕も同じこと考えてたよ。子供はいつか欲しいって話してたしね。」

真奈美は少し緊張しながら言葉を選んだ。「でも…私、仕事がすごく忙しくて、今大事なプロジェクトが進んでるの。これを途中でやめたくない気持ちがあって。妊娠しても仕事は続けられるかもしれないけど、正直言って両立が難しいんじゃないかって不安で…。」

彼女は深呼吸し、続けた。「だから、もし可能なら…拓也、あなたに妊娠と出産をお願いできないかって考えてるの。」

拓也は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静になり、真奈美の目を見つめ返した。「僕が…妊娠するってこと？」

真奈美はうなずいた。「うん。今の技術なら、男性が妊娠しても問題ないって医者も言ってるし、私もサポートする。もちろん、これがあなたにとって無理なら無理強いはしない。でも、今の私の状況を考えると…お願いしたい気持ちが強いの。」

### 3. 拓也の決断

拓也はしばらく考え込んだ。彼もまた、子供が欲しいという願望を抱いていたし、真奈美のキャリアを大切に思っていた。それに、出産については以前から話題になっていた制度について知っており、自分が経験する可能性もゼロではないと理解していた。

「うん、確かに驚いたけど…真奈美の気持ちはよくわかる。僕も子供が欲しいし、君がキャリアを諦めないようにしたいとも思ってる。でも、実際に僕が妊娠して出産するとなると、不安もあるのは正直なところだよ。」

真奈美は拓也の手を握りしめた。「不安なのは当然だよ。でも、私たちは一緒にこれを乗り越えられると思う。あなたが妊娠してくれるなら、私は全力でサポートする。無理をしてほしいわけじゃない。ただ、可能性を考えてほしいの。」

拓也は深呼吸し、しばらく静かに考えた後、微笑みながら答えた。「わかった。僕が妊娠して、出産するよ。真奈美がそう望むなら、僕はそれを受け入れる。僕たちは一緒に家族を作っていくんだから、どちらが産むかは問題じゃないと思う。」

真奈美は目を潤ませて拓也を抱きしめた。「本当にありがとう、拓也。あなたには感謝してもしきれないよ。」

### 4. 妊娠と出産の体験

数ヶ月後、拓也は真奈美と一緒にクリニックに通い、移植手術を受けた。拓也は最初こそ違和感を覚えたが、少しずつ体が変化していく中で、妊娠する実感が湧いてきた。胎動を感じる瞬間や、エコーで赤ちゃんの姿を見るたびに、彼は自分が父親であり、母親でもあるという不思議な感覚に包まれていった。

真奈美は仕事の合間を縫って、拓也の妊娠を支え続けた。二人は協力し合い、家事や準備を分担し、少しずつ新しい命を迎える準備を整えていった。

そして、ついにその日が訪れた。拓也は緊張しながらも、医療チームの支えを受けて無事に赤ちゃんを出産した。赤ん坊を抱いた瞬間、拓也と真奈美はお互いの手を取り合い、涙を流した。

「私たち、本当にやったね…」と真奈美は呟いた。

拓也は赤ん坊の小さな顔を見つめながら、優しく答えた。「そうだね、僕たちの家族が始まったんだ。」

二人は、新しい命の重みと未来への希望を胸に、これからの家族の物語を一緒に紡いでいくことを誓った。