意識転送装置2

廣瀬純一

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一日だけの君

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「これで本当に大学に行くんだね…?」  
彼女の体に入っている彼は、少し心配そうに言いながら鏡を見つめた。彼は普段、自分の体を見慣れているが、今日はそこに映るのは彼女の顔で、髪を整え、軽く化粧までしている姿だ。

一方、彼の体に入っている彼女はワクワクしながら彼の部屋で着替えを済ませ、普段見慣れた彼の格好をしてみた。自分とは違う、彼の大きな体をまじまじと見つめ、ドキドキしながら口を開いた。

「大丈夫、私も君の大学の授業くらいなら頑張れる!それに、君の友達に会ってみたかったしね!」  
彼女の意気込みを見て、彼も渋々ながら「じゃあ、僕も君の大学を体験してみるか…」とため息をついた。

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**彼女(彼の体)**

彼の大学に着いた彼女は、普段見慣れた建物や通りが、まるで別の世界に見えた。彼の友達が手を振って近づいてくると、心の中でドキッとしながら、どうにかして「彼のふり」をしようと決めた。

「おう、昨日のゲーム、また勝ったぞ!」  
彼の友達は嬉しそうに話しかけてくる。彼女は必死に「そうだな、あれはなかなか…面白かったよな?」と彼の声を装い、うなずいてみせた。少しぎこちなかったが、友達はまったく気づかない様子で、その後も普段通りのノリで彼に話しかけてきた。

だが、授業が始まると、彼女は予想以上に苦戦し始めた。彼の専攻は工学で、黒板に書かれる数式が意味不明だった。どうにかそれらしくメモを取ってみたものの、隣の席にいる友人が「おい、珍しくちゃんとノート取ってるじゃん」と驚きの顔をしてきて焦った。内心ドキドキしつつ、なんとか彼のふりを続けるのに必死だった。

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**彼(彼女の体)**

一方、彼女の大学に着いた彼は、周りから次々と「○○ちゃん、おはよう!」と話しかけられ、彼女の友達との会話に気を張り続ける羽目になった。彼女の友達は、授業のことだけでなく恋愛やファッションの話題まで話しかけてくる。

「最近どう?彼氏とは順調?」  
彼女の友達がニヤニヤしながら聞いてきた。彼は思わず「え、あ…うん。順調だよ、あはは…」とぎこちなく答えた。友達たちは彼の反応に少し不思議そうな顔をしたが、特に追及することなく、話を続けた。

授業中、彼は慣れない体に加えて、彼女が履いてきたヒール靴で座っているのも少し不安だった。周りの視線が気になる中、どうにか彼女のふりをしてノートを取っていたが、普段の彼なら簡単なはずの講義内容も、彼女の体で受けると新鮮に感じた。彼女がどういう風に学んでいるか、少しずつ理解できてくる。

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**昼休み**

昼食時、お互いの大学生活に馴染みつつあった彼と彼女は、それぞれの友達と一緒に食堂でランチを取ることになった。彼の体でいる彼女は、彼の友達から「今日なんか変だぞ、元気ないのか?」と不審がられてしまうが、どうにか誤魔化しつつ食事を続けた。

一方で彼は彼女の友達たちと過ごしながら、彼女が普段どういう会話をしているかが少しずつ分かってきて、ますます興味が湧いてきた。友達たちの話に合いの手を入れたり、会話に微妙に合わせたりしているうちに、次第に自然と彼女の口調にもなれてきた。

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**放課後**

夕方になり、大学を終えた彼と彼女はそれぞれの場所で再び装置を使って意識を戻す準備をした。意識が戻ると、彼女は自分の体の違和感がなくなってほっとした。彼もまた、元の体に戻って深く息をついた。

「どうだった?彼のふりしてみた感想は?」  
電話越しに彼が尋ねると、彼女は笑いながら「大変だったけど、君が毎日何を感じているのか、少しわかった気がするよ」と答えた。

「僕も…彼女の友達から君のことを少し知れた気がする。普段は見えない君の一面が感じられて、すごく新鮮だった」  
彼も同じように微笑みながら言った。

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こうして、お互いの生活を一日だけ体験した彼と彼女は、少しだけ相手の世界に近づけたような気持ちになった。物理的には離れていても、こうやってお互いを理解し合う方法があると知り、二人の絆はますます強くなった。
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