1 / 6
真奈
しおりを挟む兄の隆也(たかや)は、学生時代から優秀で、頼れる存在だった。妹の真奈(まな)は、そんな兄をずっと尊敬していた。しかし、それと同時に、兄の彼女である美咲(みさき)のことを好きになってしまったことに気づいていた。
美咲は、隆也と大学時代から付き合い始め、真奈も彼女と何度か顔を合わせていた。美咲は明るくて優しくて、真奈にとって憧れの女性だった。だが、兄の婚約者として美咲が存在することで、真奈の感情は常に抑え込まれていた。自分の気持ちは誰にも言えない。ただの憧れ、ただの尊敬だと、無理やり思い込もうとした。
そんなある日、奇妙な出来事が起きる。
---
「お兄ちゃん、ちょっと相談があるんだけど…」
真奈は、兄に声をかけた。隆也は忙しそうにパソコンの前に座りながら振り向いた。
「どうした?」
「最近、変な夢を見るの。お兄ちゃんと入れ替わる夢。変だよね?」
隆也は笑って、そんな夢は気にするなと言った。だが、その夜、真奈の夢は現実になった。
---
朝目が覚めた瞬間、真奈は違和感を感じた。部屋がいつもと違う。鏡に映るのは、兄の顔だった。
「嘘でしょ…?」
慌てて体を確かめると、どうやら本当に兄の体になっているようだ。隆也の部屋に飛び込み、自分の体に入っているはずの兄に説明しようとしたが、驚いたことに、隆也も同じ状況を理解していた。
「真奈…これはどういうことだ?俺たち、本当に入れ替わってるのか?」
「お兄ちゃん、これ…夢じゃないよね?」
二人はしばらくの間パニックに陥ったが、何をどうしても元に戻らなかった。原因も不明、方法も分からない。途方に暮れる二人だったが、時間は無情にも過ぎていく。隆也は結婚の準備が進んでおり、入れ替わったままでは美咲に真実を告げるわけにはいかない。
「真奈、しばらくの間、俺のフリをしてくれ。俺もお前のフリをするしかない。少し様子を見よう」
真奈は動揺したが、兄の頼みを断ることはできなかった。そして、美咲との時間を過ごすたびに、真奈の中で抑え込んでいた感情が膨らんでいくのを感じた。
---
数週間が経ち、真奈は完全に隆也として生活することに慣れてしまっていた。美咲との結婚式の日が近づいてきた。だが、真奈はもう自分の気持ちを無視できなくなっていた。美咲への思いは日に日に強くなり、このまま兄の人生を演じ続けることに耐えられなくなっていた。
ある日、真奈は美咲と二人で食事をしている最中に、思い切って告白した。
「美咲…俺、いや、私…本当は隆也じゃないんだ。私、真奈なの。ずっとあなたのことが好きだったの…」
美咲は最初は冗談だと思って笑ったが、真奈の真剣な顔を見て次第に混乱し始めた。そして、ゆっくりと真奈の言葉の真実を理解していった。
「じゃあ、今までの隆也は…真奈だったの?どうしてそんなことが…」
真奈は全てを打ち明けた。自分たちがどうして入れ替わったのかは分からないが、この数週間、彼女が隆也として美咲と過ごしていたこと。そして、本当の気持ちを隠すことができなくなったこと。
美咲は困惑しつつも、真奈の正直な思いを受け止めた。そして、しばらく考えた後、彼女は静かに答えた。
「正直に言って、混乱してる。でも、この数週間の間、私はあなたと過ごす時間が心地よかった。それが隆也じゃなくて、真奈だったとしても…私はあなたに惹かれている気がする」
その言葉を聞いた瞬間、真奈の胸にこみ上げる喜びがあった。これが愛なのか、まだはっきりとは分からない。ただ、一つ確かなのは、二人の間に何か特別なものが生まれていたということだった。
---
結婚式の日、真奈と隆也は最終的に入れ替わったままの姿で新しい生活を始めることを決めた。隆也もまた、妹としての新しい人生を歩み始めた。美咲と真奈はそのまま結婚し、誰もが祝福する愛の形を築いていった。
運命は、時に予想外の方向に導いていく。だが、それは誰にとっても最良の結末だったのかもしれない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる