結婚後に性別を選ぶ社会

廣瀬純一

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美咲の告白

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拓也と美咲は、小さな田舎町で育ち、数年前に結婚した。二人の暮らす社会では、結婚後にそれぞれの性別を選べるという文化が長い間続いていた。結婚前は「性別を決める前」の期間と呼ばれ、夫婦は相互の理解と愛情を深め、どちらがどの性別を選ぶかを話し合う。夫婦のどちらも自由に性別を選べるため、ある夫婦はそのまま現在の性別を選び、別の夫婦は二人とも異性になることを選ぶこともあった。

拓也と美咲もこの「性別を決める」時期に差し掛かっていた。彼らの結婚生活は順調で、笑顔が絶えず、お互いを大切に思っていたが、この大きな決断が迫っていることを二人とも心のどこかで意識していた。

ある夜、夕食後に二人はリビングで向かい合って座った。美咲は深呼吸をしてから、静かに口を開いた。

「拓也、私…男になりたいの。」

拓也は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに顔を和らげ、彼女に目を向けた。「どうしてそう思ったの?」と、静かに尋ねる。

美咲は少し緊張している様子で、ゆっくりと自分の気持ちを話し始めた。「私、子供のころからずっと、自分が男性である方が自然だって感じてたの。女性であることが悪いわけじゃないけど、なんだか自分の内側と外側が一致してない気がしてたの。それに、結婚してからもずっと、自分の性別について考えてきたんだけど、やっぱり私は男性として生きていきたいんだと思うの。」

拓也は黙って聞いていた。美咲の言葉には、深い悩みと決意が感じられた。美咲は、真剣な眼差しで拓也の反応を待っていたが、彼の顔にはまだ迷いがあった。

「それで、拓也はどう思う?」美咲がそう尋ねると、彼は少し考え込んでから言葉を選んだ。

「正直言って、驚いたよ。でも…美咲がそう感じているなら、それを否定することはできない。今まで一緒に過ごしてきた中で、美咲が何を大切にしているか、どういう人間か、俺は知っているつもりだ。だから、性別が変わっても美咲は美咲だし、それは変わらない。」

美咲はホッとしたように微笑んだ。「ありがとう、拓也。あなたがそう言ってくれることが、私にとっては本当に大きな意味があるの。」

拓也は少しだけ笑みを浮かべた。「でも、もし美咲が男になるなら…俺はどうしようかな。男でいるべきか、それとも女になるべきか、考えないといけないな。」

美咲は、少し驚いたように目を見開いた。「え?拓也は男でいたいと思ってたんじゃないの?」

「それがね、実は少し迷ってたんだよ。自分がどう生きるのが一番自然なのかって。美咲が男になりたいって聞いて、ますます悩むようになった。でも、焦ることはないよね。二人でじっくり考えればいい。」

その言葉に、美咲は安心したようにうなずいた。「そうだね。私たちはまだ時間があるし、急ぐ必要はないよね。」

その夜、二人は長い時間をかけて話し合い、お互いの気持ちをさらに深く知ることができた。性別をどう選ぶかはまだ決まっていなかったが、それが彼らの愛や信頼を揺るがすことはないと、二人とも感じていた。美咲がどの性別を選んでも、拓也はそれを受け入れ、支えるつもりであった。そして、拓也自身の選択についても、ゆっくりと考え、最善の決断をする準備をしていた。

結局のところ、性別の選択は彼らの絆を強めるための新たなステップに過ぎなかった。
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