ボディスワップ

廣瀬純一

文字の大きさ
上 下
3 / 7

逆転したふたりの魂

しおりを挟む


---

「ついにこの日が来たんだ…!」

妻の美咲は、手術室の前で震える声をあげた。夫の亮介は、美咲の体の中で、彼女の視線を共有しながら、その瞬間を共に待っていた。

数年前、二人が交通事故に巻き込まれてから、亮介の精神は美咲の体に奇跡的に宿った。医者たちは驚き、科学者たちは興奮し、この現象を研究対象とした。しかし、二人にとってそれは祝福ではなく、苦悩の日々だった。亮介は自分の体に戻りたかったが、その方法は長らく見つからなかった。

そして、ついに最新の科学技術が開発され、二人はその実験的な施術を受ける決心をした。

「大丈夫よ、亮介。もうすぐ元に戻れるわ。」美咲は自分の心の中に響く亮介の声を聞きながら、優しく励ました。

「お前が一番辛かったんだろう、俺がこんなに長く体に居座って…」亮介は申し訳なさそうに言ったが、美咲は微笑んで首を横に振った。

「そんなことないよ。私たちは一緒に頑張ったもの。今度こそ成功するわ。」

---

手術室では、科学者たちと医師たちが慎重に準備を進めていた。新技術は、亮介の精神を元の体に戻すことを目指していた。精密な機械が二人の脳波を解析し、意識の転送を実現するというものだった。誰もが緊張していたが、期待に満ちていた。

「始めましょう。」主治医が小さく呟くと、手術が始まった。

---

数時間後、美咲は目を開けた。周りはぼやけていたが、手足の感覚が微妙に違っていることに気づく。自分の体に違和感がある。

「成功したのかしら…?」と自分に問いかけた瞬間、低く男らしい声が耳に響いた。

「…美咲?」

彼女は驚いて周りを見回すが、誰もいない。いや、違う…声は、彼女の口から出ていた。

「嘘…でしょ?」

鏡を見た美咲は、自分の体ではなく、亮介の体が映っているのを目にした。愕然とする美咲。

「どういうこと?」亮介の声が自分の体で響く。

「私…亮介の体に入ってる…!」

一方、亮介も目を覚ましたが、彼の精神は美咲の体に残ったままだった。

---

「どうしてこうなったの…」病院の待合室で、美咲(亮介の体)は頭を抱え込んでいた。医者たちは説明を繰り返していたが、原因は未だに不明だった。全ての手順は正しかったが、結果だけが間違っていたのだ。

「精神の戻し方は一度試みたが…何かが干渉して、逆の結果が生まれたようだ」と医者が苦しげに説明した。

「今度は私があなたの体に…」美咲は亮介の体から深いため息をつく。亮介は心の中で呆然としていたが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「まあ、こうなることも覚悟していたさ。いずれまた解決策が見つかるだろう。」

「でも、これからどうするの?」美咲は焦りと戸惑いを隠せなかった。

亮介は少し間を置いてから答えた。「俺たち、また新しい形で生きてみよう。これが終わりじゃない。」

その言葉に美咲は思わず笑った。「そうね、私たち二人ならきっと乗り越えられる。」

---

それからの日々は、また新たな試練だった。二人は再び自分の体に戻れる方法を探し続けたが、今度は逆転した体の中で、お互いの存在に慣れていくことが必要だった。

美咲(亮介の体)は、自分の体力が思いのほか強く、筋肉を動かす感覚に戸惑いながらも少しずつ慣れていった。一方で、亮介(美咲の体)は繊細な感覚に戸惑いつつも、日常生活を取り戻していった。

二人は互いに助け合い、また新たな絆を築き始めた。体は違えど、魂はいつも共にあり、困難を乗り越える力を持っていると信じて。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

入れ替わり家族

廣瀬純一
大衆娯楽
家族の体が毎日入れ替わる話

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...