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逆転したふたりの魂
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「ついにこの日が来たんだ…!」
妻の美咲は、手術室の前で震える声をあげた。夫の亮介は、美咲の体の中で、彼女の視線を共有しながら、その瞬間を共に待っていた。
数年前、二人が交通事故に巻き込まれてから、亮介の精神は美咲の体に奇跡的に宿った。医者たちは驚き、科学者たちは興奮し、この現象を研究対象とした。しかし、二人にとってそれは祝福ではなく、苦悩の日々だった。亮介は自分の体に戻りたかったが、その方法は長らく見つからなかった。
そして、ついに最新の科学技術が開発され、二人はその実験的な施術を受ける決心をした。
「大丈夫よ、亮介。もうすぐ元に戻れるわ。」美咲は自分の心の中に響く亮介の声を聞きながら、優しく励ました。
「お前が一番辛かったんだろう、俺がこんなに長く体に居座って…」亮介は申し訳なさそうに言ったが、美咲は微笑んで首を横に振った。
「そんなことないよ。私たちは一緒に頑張ったもの。今度こそ成功するわ。」
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手術室では、科学者たちと医師たちが慎重に準備を進めていた。新技術は、亮介の精神を元の体に戻すことを目指していた。精密な機械が二人の脳波を解析し、意識の転送を実現するというものだった。誰もが緊張していたが、期待に満ちていた。
「始めましょう。」主治医が小さく呟くと、手術が始まった。
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数時間後、美咲は目を開けた。周りはぼやけていたが、手足の感覚が微妙に違っていることに気づく。自分の体に違和感がある。
「成功したのかしら…?」と自分に問いかけた瞬間、低く男らしい声が耳に響いた。
「…美咲?」
彼女は驚いて周りを見回すが、誰もいない。いや、違う…声は、彼女の口から出ていた。
「嘘…でしょ?」
鏡を見た美咲は、自分の体ではなく、亮介の体が映っているのを目にした。愕然とする美咲。
「どういうこと?」亮介の声が自分の体で響く。
「私…亮介の体に入ってる…!」
一方、亮介も目を覚ましたが、彼の精神は美咲の体に残ったままだった。
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「どうしてこうなったの…」病院の待合室で、美咲(亮介の体)は頭を抱え込んでいた。医者たちは説明を繰り返していたが、原因は未だに不明だった。全ての手順は正しかったが、結果だけが間違っていたのだ。
「精神の戻し方は一度試みたが…何かが干渉して、逆の結果が生まれたようだ」と医者が苦しげに説明した。
「今度は私があなたの体に…」美咲は亮介の体から深いため息をつく。亮介は心の中で呆然としていたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「まあ、こうなることも覚悟していたさ。いずれまた解決策が見つかるだろう。」
「でも、これからどうするの?」美咲は焦りと戸惑いを隠せなかった。
亮介は少し間を置いてから答えた。「俺たち、また新しい形で生きてみよう。これが終わりじゃない。」
その言葉に美咲は思わず笑った。「そうね、私たち二人ならきっと乗り越えられる。」
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それからの日々は、また新たな試練だった。二人は再び自分の体に戻れる方法を探し続けたが、今度は逆転した体の中で、お互いの存在に慣れていくことが必要だった。
美咲(亮介の体)は、自分の体力が思いのほか強く、筋肉を動かす感覚に戸惑いながらも少しずつ慣れていった。一方で、亮介(美咲の体)は繊細な感覚に戸惑いつつも、日常生活を取り戻していった。
二人は互いに助け合い、また新たな絆を築き始めた。体は違えど、魂はいつも共にあり、困難を乗り越える力を持っていると信じて。
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