男が出産する社会

涼介の妊娠

世界には、日常的に男女の体が入れ替わるという、驚くべき現象が存在する。それは人々にとって当たり前であり、受け入れられていた。ある朝目を覚ますと、男性が女性の体に、女性が男性の体に入れ替わっていることが日常茶飯事なのだ。性別の入れ替わりはランダムで、いつ起こるかも予測できないが、奇妙なことに社会全体がこの変化に適応していた。性別による固定的な役割は存在せず、夫婦はお互いの体で日常生活を送ることが珍しくなかった。

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私、久美子は朝目覚めると、自分の体が夫である涼介のものになっているのに気づいた。今日もまた入れ替わった。涼介の肩幅の広い体に不思議な感覚を覚えながら、ベッドから起き上がる。

「久美子、起きたか？」隣で寝返りを打つ、私の体に入っている涼介が眠そうな声でつぶやいた。

「うん、今日も入れ替わってるね」と私は苦笑する。

涼介と私はこの状況に慣れていたが、今日の入れ替わりには特別な意味があった。というのも、私たちは子どもを授かることになっており、今日から私、つまり今は涼介の体に入っているが、妊娠が始まるのだ。いつもなら、妻が妊娠するのが一般的だが、この世界では誰が妊娠するかは運次第。つまり、今日の私は夫の体で妊娠することになる。

「なんだか不思議な感じだね、僕の体で君が妊娠するなんて」と涼介が笑顔で言う。

「本当ね。あなたの体だから、私もどうなるのか想像がつかないわ」と私は言いながら、鏡に映る夫の姿を見つめた。

妊娠が進むにつれて、私の体は次第に変化を始めた。涼介の強い腕や筋肉質な体に、丸みを帯びた妊婦の特徴が少しずつ現れていく。最初は違和感があったが、次第にそれが自然なことのように感じられるようになっていった。

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妊娠が進むにつれて、日常生活も変わっていった。夫の体で妊婦として過ごす日々は、普通の妊婦生活とは異なる挑戦があった。体力はあるが、重心が変わり、動きにくくなることも多かった。それでも、涼介の体にいることで、自分自身を強く保つことができた気がする。

「今日はどう？お腹の赤ちゃん、元気かな？」と涼介は優しく私のお腹に手を当てた。今は私の体にいる彼も、私たちの子どもがどう成長しているのか興味津々だった。

「うん、元気だよ。少し動いてるみたい」と私は微笑んだ。

その日々は、二人にとって絆を深める特別な時間だった。互いの体にいることで、これまで以上にお互いの気持ちや体の感覚を理解することができた。

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そして、いよいよ出産の日が近づいてきた。私の体は大きくなり、涼介の強い体でも出産が近いという兆しを感じるようになった。病院では、看護師や医師たちが特に驚くこともなく、私を迎えてくれた。この世界では、男女どちらが妊娠していてもそれは普通のことだったからだ。

「よし、深呼吸して。もう少しだよ」と涼介が励ます。今は私の体にいる彼が、隣で私の手を握りしめている。

「うん、分かってる…！」私は深呼吸し、全身に痛みが走るのを感じた。夫の体であっても、出産の痛みは想像以上だった。だが、その痛みを乗り越える度に、私は新しい命がこの世界に誕生するという喜びに満たされていった。

やがて、赤ちゃんの泣き声が響き渡り、私は涙ぐんだ。私たちの子どもが無事に生まれたのだ。

「よく頑張ったね」と涼介が私の頬に優しく手を添える。

「ありがとう…あなたも」と私は彼に微笑んだ。

私たちの体は日常的に入れ替わる。それでも、この子は私たち二人の愛の結晶だ。どちらの体であろうと、家族としての絆は変わらない。

新しい命を抱きしめながら、私はこの不思議な世界に感謝した。どんな体に入れ替わろうとも、私たちは共に歩んでいけるという確信があった。