彼女の野球と彼のプール

廣瀬純一

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奇跡を信じて

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翔太と夏妃は、夕焼けに染まるグラウンドで黙々と練習を続けていた。二人はお互いの体に入れ替わったまま、日々のトレーニングに全力を注いでいた。翔太は野球のバットを握り、夏妃は水泳のフォームを繰り返す。お互いの本来の競技に慣れない体で挑む日々だったが、二人には一つの共通した目標があった。

「全国大会で優勝すれば、きっと元に戻れるはず…」

それは二人の仮説だった。入れ替わってからしばらく経ったある日、翔太と夏妃は、もしかしたらこの異常な状況は何か特別なきっかけで元に戻るのではないかと話し合った。そしてそのきっかけこそが、全国大会での優勝なのではないかと信じるようになったのだ。

「よし、もう一度打ってみる!」

翔太の体でバッターボックスに立つ夏妃が、意気込んでバットを振った。バットは力強くボールを捉え、見事に遠くまで飛んだ。その瞬間、翔太が笑みを浮かべて拍手を送る。

「ナイスショット、夏妃!その調子で行けば、全国大会でも絶対に通用する!」

翔太は自分の体がこの数週間で見違えるほど強くなっているのを感じていた。夏妃の運動神経は抜群で、元々の自分の野球のセンスとも相まって、彼女はどんどん上達していた。彼は自分の体が夏妃の手で強く、しなやかに成長していくのを感じながら、その頼もしさに感謝していた。

「でも、まだ満足できない。翔太、次の球を頼む!」

夏妃はバットを再び構え、集中力を研ぎ澄ませた。彼女は翔太の体をうまく使いこなせるようになってきたが、まだ完璧ではない。全国大会で優勝するためには、さらに練習が必要だと感じていた。

一方、プールでは、夏妃の体で泳ぐ翔太が、力強いストロークを続けていた。夏妃が見守る中、翔太はターンをしてから一気に加速し、水を切り裂いて進んでいく。彼の顔には必死さと決意が浮かんでいた。

「夏妃、この体すごいよ…泳ぐたびに感じる。この軽さ、速さ、すべてが自分の体より優れている。でも、それに甘えてたら勝てないよな…もっともっと、うまく操らないと!」

プールサイドに戻った翔太は息を整えながら、そう言って夏妃に向かって笑った。彼は夏妃の体を完璧に使いこなすため、毎日プールに通い、フォームを練習していた。水泳の経験は少なかったが、夏妃のアドバイスを受けながら、どんどんスピードを上げていた。

「そう、もう少しリズムを意識して。あなたならできるわ、翔太!」

夏妃は笑顔で励ましながらも、自分の体が水中でどう動いているのかを慎重に観察していた。翔太の努力のおかげで、少しずつ自分の体が大会に向けて最適なコンディションに仕上がっているのを感じていた。

「お互い、本当にここまでよくやってるよな」

翔太がプールサイドで息をつくと、夏妃が頷いた。二人とも心の中には不安があった。それでも「優勝すれば元に戻れる」という信念だけで、ここまでやってこれた。

「もし本当に優勝すれば…元に戻れるんだよな?」

翔太は自分の体を見下ろしながら、少し戸惑いながら尋ねた。夏妃も一瞬視線を落とすが、すぐに力強く頷く。

「戻れるよ、絶対に。だから、私たちができることは一つ。とにかく練習して、全国大会で勝つこと。それ以外は考えない!」

夏妃の言葉に、翔太は決意を新たにした。お互いの体で、それぞれの競技に挑むという奇妙な状況にありながらも、二人は同じ目標に向かって走り続けていた。そしてその目標を達成するために、できる限りの努力を惜しまず、全力で立ち向かう覚悟だった。

「じゃあ、もう一セット泳ぐよ!夏妃もバッティング練習、もう少し付き合ってくれるか?」

「もちろん!今日の練習、最後まで全力でやるわ!」

二人は再びそれぞれの練習に集中した。翔太が水を切り裂いて進み、夏妃が力強くバットを振り抜くたびに、彼らの中の不安が少しずつ薄れていく。全国大会で優勝すれば、きっとすべてが元に戻る。その希望を胸に、彼らは限界を超えるように自分たちを追い込んでいった。

「俺たち、絶対に元に戻れる!」

その決意を胸に、夕暮れの空の下、二人は共に汗を流し続けた。
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