意識転送装置

廣瀬純一

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信長になった女子高生

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女子高生の葵は、放課後に友人と訪れた科学博物館で、不思議な装置を目にした。「意識転送装置」と書かれたその機械は、過去の偉人の意識体験ができるという。「なんか面白そう!」という軽い気持ちで、友人とともに受付を済ませた葵は、リストの中から「織田信長」を選んだ。

「葵が信長?勇ましすぎない?」と友人に笑われたが、歴史好きで戦国時代に興味を持っていた葵は満足気に微笑んだ。そして装置に座り、まどろむように目を閉じると、やがて視界がぼんやりと暗くなっていった。

***

気がつくと、葵は見知らぬ場所に立っていた。周りは広い武家屋敷のようで、重々しい甲冑を身に着けた侍たちが整然と並んでいる。そして、自分の体を確認しようと手を見ると、手はしっかりとした大人の男のもので、まるで「本物の信長」そのものだった。

「え、嘘でしょ!?どうしてこんなにリアルなの…!」

動揺していると、周囲の侍たちが彼女に向かって深々と頭を下げ、「信長様、そろそろ出陣の準備が整っております」と低く言った。どうやら彼女は本物の「織田信長」として、この戦国の世に降り立ったらしい。

***

信長としての生活が始まると、彼女はすぐにこの役割の重さを実感した。朝から武将たちとの会話が続き、戦の計画や政務、領土の維持についての詳細な話が次々と投げかけられる。彼らが信長としての「自分」を無条件で信頼し、指示を求めていることが伝わってくると、葵は一層緊張してしまった。

そんな彼女の心情を読み取るように、側近の家臣がふと助言をくれた。「信長様、次の戦では、奇策を用いるべきかと存じます。正面から突撃するのではなく、敵の裏をかく策が有効かと」

「奇策…うん、それいいかも!」

葵は知識を総動員し、「桶狭間の戦い」を彷彿とさせるような戦術を提案してみることにした。すると家臣たちは、彼女の「決断」に真剣な表情で頷き、準備を進めていった。彼らは自分が信長であると信じきっており、一人ひとりが使命感に満ちた表情で動き始めた。

「私の言葉ひとつでみんなの運命が変わるんだ…信長って、ほんとに凄かったんだな」

***

戦に向かう日々の中で、葵は信長としての重圧に耐えながらも、自らの勇気と判断力を試されているように感じていた。しかし、ふと夜空を見上げるとき、現代での友人や家族の顔が浮かび、戻りたい気持ちが湧き上がることもあった。

ある夜、家臣たちが酒を酌み交わしながら話している中、葵は自分の中で「信長としての志」を再確認する機会を得た。

「信長様、我らはこの国を変える覚悟でお仕えしております。信長様の志こそが我らの灯でございます。」

その言葉にハッとした葵は、「志」とは何かを深く考えた。信長は決して個人の欲望のために戦ったのではなく、戦国の混乱を治め、新しい時代を創ろうとした。その気概を理解した瞬間、葵の中にも不思議な勇気が湧いてきた。

「私も信長として、この時代のために、精一杯できることをやろう」

***

次の日、彼女は家臣たちの前で決意を新たにした。信長の強い意志と共に、「戦いを通して新しい秩序を築く」という目標を掲げ、皆の士気を高めた。その言葉に家臣たちは再び敬意を表し、全力で彼女の指示に従うことを誓った。

しかし、やがて彼女が知るところとなる「本能寺の変」の運命の日が近づいてきた。どうにか避けられないかと考えたが、歴史を変えることは恐ろしく、また容易ではない。悩み抜いた末に、彼女は心を決めた。

「信長の志を守るために、ここでの役目を全うする。それが私にできる最後のことかもしれない」

***

その後、本能寺の変の運命に身を投じ、すべてを見届けたその瞬間、彼女の意識は再び光に包まれ、科学博物館の展示室に戻ってきた。時計を見ると、わずか数分しか経っていなかった。

戻ってきた葵は、信長としての記憶と決意を胸に、現代の生活を改めて考え直すようになった。「歴史の中で生きた人たちの志は、こんなにも重いものだったんだ」と。その経験から、彼女は自分の将来や、周囲との関わりに対しても責任を感じるようになり、「自分にできることは何か」を常に考えるようになった。

そして、同じように志を持つ仲間を集め、学校でのリーダー役として活躍していくことを決意したのだった。
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