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第二部第五章 政治戦争
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「何をやっていたのだ!」
近衛兵の隊長の報告を聞いて皇帝フロリアヌスは、激怒した。
「王国鉄道が会議で優位に立つために事故を仕組んだという噂を流し、ようやく逆転出来そうだったというのに」
公開実験まで諜報員を使うなりして帝都内に噂を流していたのだが、これで疑いは払拭されてしまった。
それどころか注目を浴びていた分、王国鉄道の株が上がっている。
「標準規格は王国鉄道規格で、と言う話しが上がり始めている。元老院でも法制化すべきという話しが出始めており、一部の議員が法案を提出しようとしているぞ」
「陛下、そのぐらいに」
傍らに控えていた帝国宰相のガイウスが、皇帝フロリアヌスを落ち着かせた。
「はっ」
自分が隊長に向かって八つ当たりをしていることに気が付いて、乱れた服装を整え、気持ちを静めて答えた。
「任務ご苦労だった。下がって休め」
「は、はい」
恐縮した隊長は、逃げるように下がっていった。
「どうするのだガイウス!」
隊長が出て行ったのを確認してフロリアヌスは詰問した。
「はい、王国鉄道の規格を認めるしか無いかと」
「気は確かか!」
フロリアヌスはガイウスの言葉に怒りの余り立ち上がったが、ガイウスは臆せず話しを続けた。
「ですが、王国鉄道の規格が優れていることが証明されております。導入するべきかと」
「どうしてだ」
「事実この規格は優れております。帝国鉄道の事故も減るでしょう。何よりたとえ属国や奴隷が作った物でも良いものを認め取り入れることこそ、帝国の真の強さであります」
「ユリアに頭を下げるのか」
「鉄道の規格でございますし、ユリア様がお作りになった訳では」
「ユリアの男が作った規格だ! その規格を許すのはユリアに頭を下げるのも同じだ! 断じて認めんぞ!」
「それでは、ここは会議を一時中断し沈静化を図るしか無いかと」
「敗北を認めることにならないか」
「ですが、このまま会議を行えば王国鉄道の規格が通るのは間違いございません」
「ぐっ」
ガイウスの話しは確かにそうだ。だがそれでも皇帝は認めたくなかった。
「だが、日を置いて工作を行い認めさせては」
「いいえ、時を置けば王国に有利です。先日の実験結果が燎原の炎の様に広がっております」
「だが、噂など直ぐに消えるだろう」
「こちらをご覧下さい」
そう言ってガイウスが出したのは一枚のパンプレットだった。
「これは何だ」
「王国鉄道が発行した今回の事故と規格について説明したパンフレットです」
本の数ページの短いパンフレットだったが、今回の事故の原因と解決策、帝国鉄道と王国鉄道の違いについて、詳細に書き記してあった。
「実験前から帝都内に配られていましたが、実験後に多くの民が求めております」
「こんなもので帝国が変わるというのか」
「実は既に帝国中に広がっております。彼らが商船網を使い、広めております」
王国鉄道は帝都だけで無く、鉄道に接続する商船網を使い帝国中へ配布して回っていた。
「更に今回の実験についても書いたパンフレットを作成し、広げております。一部では王国鉄道規格にするよう求める意見書を出してくる者もおり、収まる気配はありません」
話しを聞いた皇帝は力なく玉座に身を預けた。
「……直ぐに会議を中止しろ」
「このような混乱の中、規格を決めては帝国に災いをもたらすことになる。今回の会議を中止し、これまで討論された内容と現状を比較して改めて開催するものとする」
混乱が続く中、宰相の命令と言う形で規格会議の中止が命じられた。
「残念でしたね」
トラキアへ向かう鉄道船舶の客船<海の女王>号の中でセバスチャンが昭弥をねぎらった。
「まあ、帝国規格が成立しなかった分、上々と見なければ」
一方の昭弥は残念に思いながらも帝国規格が成立するのを防止できたことが嬉しかった。
確かにこの混乱の中で規格を決めたとしても、上手く行かないのは目に見えており、参加者の間では命令に納得する者も多かった。
あまりにも情報が多すぎて皆、精査する時間を欲していた。
「まあ良かったんやないか?」
商談で帝都で合流したサラが昭弥を見舞った。
「今回の事故や昭弥はんの演説のお陰で王国鉄道の車両を購入すべし、と言う雰囲気が流れとるわ。帝国の規格が揃う前に兎に角建設しようと注文がひっきりなしや」
実際、王国規格での鉄道建設の請願が多くなってきていた。
帝都での鉄道事故の影響と、流れたとはいえ標準規格の既存鉄道適用外の条項を最大限に生かすために各地で王国規格での建設が盛んとなっていた。
そのため、王国鉄道への注文が殺到し、ラインがフル稼働でも対応しきれない状態が続いていた。
「更に拡大することも考えなければならへんな」
「うーん、頭が痛いな」
注文が多くなり、鉄道が各地に広がるのは嬉しいことだ。
だが、生産ラインの増強は生産に関わる人の増大、雇用者の増大でもあり、責任を持たなければならない人数の増大を招いてしまう。
そもそも、労働力をどうやって確保するかという問題がある。
「最近好景気だしね」
鉄道のお陰で商業活動が盛んになり、あちらこちらで新規出店や開業が増えている。
その中で、新たな作業員を募集するのは難しい。
王国鉄道は、給与や待遇がよいので応募者は多いが、その中から採用できる人を見つけ出すのは大変だし、得がたい人間は少ない。
「何とかしなければ」
近衛兵の隊長の報告を聞いて皇帝フロリアヌスは、激怒した。
「王国鉄道が会議で優位に立つために事故を仕組んだという噂を流し、ようやく逆転出来そうだったというのに」
公開実験まで諜報員を使うなりして帝都内に噂を流していたのだが、これで疑いは払拭されてしまった。
それどころか注目を浴びていた分、王国鉄道の株が上がっている。
「標準規格は王国鉄道規格で、と言う話しが上がり始めている。元老院でも法制化すべきという話しが出始めており、一部の議員が法案を提出しようとしているぞ」
「陛下、そのぐらいに」
傍らに控えていた帝国宰相のガイウスが、皇帝フロリアヌスを落ち着かせた。
「はっ」
自分が隊長に向かって八つ当たりをしていることに気が付いて、乱れた服装を整え、気持ちを静めて答えた。
「任務ご苦労だった。下がって休め」
「は、はい」
恐縮した隊長は、逃げるように下がっていった。
「どうするのだガイウス!」
隊長が出て行ったのを確認してフロリアヌスは詰問した。
「はい、王国鉄道の規格を認めるしか無いかと」
「気は確かか!」
フロリアヌスはガイウスの言葉に怒りの余り立ち上がったが、ガイウスは臆せず話しを続けた。
「ですが、王国鉄道の規格が優れていることが証明されております。導入するべきかと」
「どうしてだ」
「事実この規格は優れております。帝国鉄道の事故も減るでしょう。何よりたとえ属国や奴隷が作った物でも良いものを認め取り入れることこそ、帝国の真の強さであります」
「ユリアに頭を下げるのか」
「鉄道の規格でございますし、ユリア様がお作りになった訳では」
「ユリアの男が作った規格だ! その規格を許すのはユリアに頭を下げるのも同じだ! 断じて認めんぞ!」
「それでは、ここは会議を一時中断し沈静化を図るしか無いかと」
「敗北を認めることにならないか」
「ですが、このまま会議を行えば王国鉄道の規格が通るのは間違いございません」
「ぐっ」
ガイウスの話しは確かにそうだ。だがそれでも皇帝は認めたくなかった。
「だが、日を置いて工作を行い認めさせては」
「いいえ、時を置けば王国に有利です。先日の実験結果が燎原の炎の様に広がっております」
「だが、噂など直ぐに消えるだろう」
「こちらをご覧下さい」
そう言ってガイウスが出したのは一枚のパンプレットだった。
「これは何だ」
「王国鉄道が発行した今回の事故と規格について説明したパンフレットです」
本の数ページの短いパンフレットだったが、今回の事故の原因と解決策、帝国鉄道と王国鉄道の違いについて、詳細に書き記してあった。
「実験前から帝都内に配られていましたが、実験後に多くの民が求めております」
「こんなもので帝国が変わるというのか」
「実は既に帝国中に広がっております。彼らが商船網を使い、広めております」
王国鉄道は帝都だけで無く、鉄道に接続する商船網を使い帝国中へ配布して回っていた。
「更に今回の実験についても書いたパンフレットを作成し、広げております。一部では王国鉄道規格にするよう求める意見書を出してくる者もおり、収まる気配はありません」
話しを聞いた皇帝は力なく玉座に身を預けた。
「……直ぐに会議を中止しろ」
「このような混乱の中、規格を決めては帝国に災いをもたらすことになる。今回の会議を中止し、これまで討論された内容と現状を比較して改めて開催するものとする」
混乱が続く中、宰相の命令と言う形で規格会議の中止が命じられた。
「残念でしたね」
トラキアへ向かう鉄道船舶の客船<海の女王>号の中でセバスチャンが昭弥をねぎらった。
「まあ、帝国規格が成立しなかった分、上々と見なければ」
一方の昭弥は残念に思いながらも帝国規格が成立するのを防止できたことが嬉しかった。
確かにこの混乱の中で規格を決めたとしても、上手く行かないのは目に見えており、参加者の間では命令に納得する者も多かった。
あまりにも情報が多すぎて皆、精査する時間を欲していた。
「まあ良かったんやないか?」
商談で帝都で合流したサラが昭弥を見舞った。
「今回の事故や昭弥はんの演説のお陰で王国鉄道の車両を購入すべし、と言う雰囲気が流れとるわ。帝国の規格が揃う前に兎に角建設しようと注文がひっきりなしや」
実際、王国規格での鉄道建設の請願が多くなってきていた。
帝都での鉄道事故の影響と、流れたとはいえ標準規格の既存鉄道適用外の条項を最大限に生かすために各地で王国規格での建設が盛んとなっていた。
そのため、王国鉄道への注文が殺到し、ラインがフル稼働でも対応しきれない状態が続いていた。
「更に拡大することも考えなければならへんな」
「うーん、頭が痛いな」
注文が多くなり、鉄道が各地に広がるのは嬉しいことだ。
だが、生産ラインの増強は生産に関わる人の増大、雇用者の増大でもあり、責任を持たなければならない人数の増大を招いてしまう。
そもそも、労働力をどうやって確保するかという問題がある。
「最近好景気だしね」
鉄道のお陰で商業活動が盛んになり、あちらこちらで新規出店や開業が増えている。
その中で、新たな作業員を募集するのは難しい。
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