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第二部 第四章

パビリオン紹介

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 博覧会は初めてと言うこともあって、誰もが好んで参加した訳では無かった。
 何しろ、始めてなのでどのように展示すれば良いのか解らないという人が多く、タダ自分の商品を並べるだけ、あるいは目録を置いて交渉して翌日納入しますという参加者もいて、頭を悩ませた
 だが、力を入れている参加者も多い
 パビリオンは主に農協だとか漁協だとか自分たちの商品を見せたり、それを使った料理などが主だ。
 オスティア産の海産物を使った鍋とか、豚肉と野菜の炒め物など自分達が作った作物で料理を作るのが主だ。
 次に多いのが中小零細、あるいは個人の職人達だ。
 彼らは自分たちの商品を何とか売り込もうと必死だ。少しでも客を獲得するべく自分の作品や商品を見せる。
 細かい象牙細工、金細工、意匠を凝らした家具類、一寸した刺繍を施したハンカチなど、小物だが熾烈な同業者間の競争を勝ち抜いてきた彼らの製品はきらりと光る物だ。
 他にも、周辺国などから自国の商品を売り込もうと躍起になっている人々もいた。
 彼らは新たな商売のチャンスを物にしようと、躍起になっていた。
 中でも、人気が高かったのは大道芸人や芝居の劇団だ。
 本来は産物を見せる博覧会だが、余興や気分転換として野外音楽堂や劇場を完成させていたのだが、客寄せも兼ねて有名人を集めたため、彼らを目的とする観客が多数やって来るという本末転倒な事態になってしまった。
 ただ、彼らも帰り際に各パビリオンに足を運んでいったので、目的は達成したと言うべきだろうか。
 人を集めたと言えば写真もそうだった。目的のパビリオンの前で写真撮影を行い、パビリオンを見終わった頃に、現像が終了して手渡すというサービスは、驚かれ人気となった。
 それまで自分の姿を見るには鏡を見るか、細密画を描いて貰うしかなかった。だが、鏡は常に映っていないといけないし、細密画は高いし直ぐには出来ない。
 しかし、写真は好きな場所で撮れるし、絵画より短時間で完成する。そんのため写真に写ることが流行して写真店が発展することになる。
 こうなると、力を入れていなかった参加者も力を入れる様になり、各パビリオンの力のいれ具合は高くなっていく。

 しかし、一番力を入れていたのは王国鉄道の関連パビリオンだった。
 中でも、開催に合わせて開館した美術館と博物館、展示館は、盛況だった。
 先の内戦により反乱貴族が処罰され、多くの財産が没収された。
 その中には、絵画や彫刻などの芸術品も含まれていた。
 戦時国債の発行もあって財政に余裕がなかったこともあり売り飛ばすという案が出たが昭弥の強烈な反対意見により却下となる。
 昭弥は、これだけの芸術品が集まることは歴史上殆ど無く活用するべきだと熱心に説得して回った。
 昭弥は芸術に関しては鉄道関連、鉄道の創設者達が美術品を集めて美術館博物館を作り文化活動を行って鉄道の発展に寄与していたことを知っていた。
 東急の五島慶太の五島美術館、東武の根津嘉一郎親子の根津美術館、阪急の小林一三のコレクションを元にした逸翁美術館などだ。
 これらが、私鉄沿線の文化的価値を高めたことは疑いなかった。
 昭弥もそれを行おうとしたのだ。
 はじめは、疑問に思っていた閣僚も、昭弥が芸術品、美術品の全買い取りを宣言したため、それならばと認められた。
 没収された貴族の邸宅を改装増築し美術館を完成させて、一般公開に至った。
 貴族の持つ美術品が目の前で、見られると言うことで多くの見物人が集まった。
 これは非常に優れた計画だった。
 例えばルーブル美術館は、フランス革命政府が受け継いだ王室の美術コレクションを一般に開放したことが始まりであり、今でも多くの人々が訪れ、海外からの旅行客も多い。
 一方、英国のナショナルギャラリーは、良い美術館なのだが知名度も作品もイマイチだ。その遠因としてクロムウェルの独裁政権時代に貴族の美術コレクションを没収して、財政再建の為に海外に二束三文で売り飛ばしたということがある。そのため、英国の美術コレクションが海外に流失して目玉になるような作品が、無くなってしまったということもある。
 昭弥はそのような事例も考えて、美術品を流出させず公開することを選んだ。
 勿論、美術品目的に来館する人が鉄道を使ってくるように差し向けるためである。
 そのような、目論見があったとは言え、美術品の散逸を免れた事は確かであり、美術館は今後も多くの来館者を呼び込み、その多くは鉄道を使ってやってくることになる。
 続いて、人気だったのは博物館だ。
 主にルテティアの産出物と民族を展示する博物館だが、珍しい果物とか植物、動物を見せており、人気だった。
 特にアクスムの各部族の民芸品は人気で多くの人だかりが出来た。
 帝国本土では珍しい獣人が実際に民芸品を身につけて、説明して回るという姿は良かった。
 中でも人気だったのが、鉄道博物館だ。
 鉄道関連の展示を行い、解りにくい鉄道の裏側を見せるこの博物館は、特に人気だった。
 昭弥の発案で体験型を目指したこの博物館は、実際に乗れるだけでなく信号を操作したり、機関車を操作したり出来るため人気だった。
 軽便鉄道とは言え、実際に機関車へ石炭を入れて走らせるのは、子供だけでなく大人も大喜びだった。
 特に圧巻と言えるのが軽便鉄道の敷設だった。
 広い敷地に三十分ほどで三〇〇メートルのレールを敷いた上、信号器を設置して機関車を乗せ、客車を引かせる様は観客達を驚かせた。
 はじめから整地してあることもあるが、簡単に敷設できる軽便の利点を知らせるには、もってこいの出し物だった。
 さらに機関車の構造を教えるべく、機関車を真ん中でカッとしたカットモデル、実物車両の展示は人々を楽しませる。
 産業展示館も賑やかだった。
 出来た製品を展示するのだが、機関車や、試作したガソリン自動車は、目を引いた。
 何より人々を驚かせたのは、入り口に展示した一〇トンもの鋼鉄の塊だ
 これだけの現代日本なら数百トン単位で作ることの出来る巨大な鋼鉄だが、成功技術に劣るこの世界では十トン物鋼鉄を作れることは卓越した技術であり、度肝を抜くには十分だ。
 更に、その鋼鉄を使って作った巨大な大砲。
 まるで小さな水車小屋から兵器メーカーに発展したクルップのような感じだが、やっていることは同じだ。
 他にも電話機の実演を行っていた。離れたところにいる人の声が、聞こえるというのは人々にとって驚きだった。
 更にスイッチ一つで付く電灯。火を付けずに灯りがともるのは、驚きでしかない。
 これらの製品を見せつけて商談に持ち込むのも、目的の一つだ。
 正式なパビリオンではないが、工場見学も人気だった。
 溶鉱炉から溢れてくる溶けた赤い鉄が流れる様は、見学者の度肝を抜いた。
 更に、数十両の機関車を同時に作るライン式の生産工場。次々と本を印刷する印刷工場。
 様々な製品が流れるように生み出され、配送されて行く姿を見て人々に新しい時代の到来を教える格好の宣伝材料となった。
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