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第二部 第四章

リゾート地

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 チェニス近くにある風光明媚な海岸リビエラ。
 かつては寒村だったが、鉄道が付近を通るようになってからは違った。
 王国鉄道によって周辺の土地が購入され、昭弥の命令により一大リゾート地として、建設が始まっていた。
 駅直結のホテル、プライベートビーチ、歓楽街、土産物店、港などリゾート地に必要な物を作っていた。
 そして、この日昭弥は夏季休暇という名目で完成したばかりのこのリゾート地にやって来た。

「良いんですか? こんなもの作って」

 お供にやって来たセバスチャンが尋ねた。

「良いんだよ休暇にリゾートに行って羽を伸ばすと言うことを広めるにはトップが実戦しないと」

「そうですか?」

 当時はほぼ休み無く働く、精々安息日である日曜日に休むだけで他は働くのが普通だった。

「でも、働かないと生きて行けませんよ」

 働かなくてはならないのは、生活が維持できないからだ。賃金を得る仕事の他にも、水くみや薪拾い、畑の手入れなど、一日とて手を休めれば即生命の危機に繋がりかねない。
 だから皆懸命に働いていた。
 勿論一日二日なら大丈夫だろうが、それ以上は危険だ。特に家畜の世話は致命的だ。

「高額収入者、ひいては賃金労働者を狙っているからね」

 だが、賃金労働者は違う。賃金を使い生活費、薪の購入代金や食費に充てることが出来る。何よりある程度、金額が貯まれば少しばかり仕事を休むことも出来る。
 近年は鉄道の発展により、商業や工業が発展し、賃金収入が良くなってきている。とくに鉄道会社の給料は良くしてあった。さらに他の企業や組織にも広がりつつある。
 昭弥はそうした層を狙っていた。そしてその仕込みを済ませていた。

「ウチの会社で有給休暇や長期休暇の制度を整えたのは、彼らが休暇を取ってリゾート地に来れるようにしたからだよ」

「でも、払えるでしょうか?」

「社員割引きとか団体割引を入れたからね。それに宣伝もしているから、希望者は多いだろう?」

 昭弥は、職員に対し給料を引き上げるなどして、旅行に行きやすくしていた。また慰安旅行の積み立て金の制度も作り、利用しやすくしていた。

「確かに多いですが、身内だけというのも」

「まあ、彼らも宣伝の一種なんだけどね。それよりも、休暇を楽しもう」

 と言うのもここの所、働き詰めの彼らに対する慰安旅行をプレゼントしようと考えていて体験による視察も兼ねてほぼ全員でやって来ていた。

「しかし、鉄道でしか入れないプライベートビーチとは」

「外界から完全に隔離された空間を演出したくてね。勿論船や道もあるけど、基本は鉄道でやってくるんだ」

 鉄道による観光地開発の例は、結構多い。日本で言えば湘南、房総、南紀白浜、宮崎といったところか。海外でも、フランスのコートダジュールは英国貴族が冬のバカンスにとカレーから鉄道を繋げて出来たものだ。
 特にアメリカのフロリダは鉄道による恩恵を受けてリゾート地となった。でなければ湿地帯の多い半島になど誰も来なかっただろう。映画トゥルーライ〇に出てきた、キーウエストまで続く、島を結ぶ道路橋は、元々鉄道が走っていたのだが、嵐により堤防が落ちたのを契機に自動車用道路として再整備されて使われている。鉄道が通っていたときには東海岸からキーウエストまで、キューバ行きの船と接続できるようになっていた。
 それと同じ事を昭弥はしたいのだ。

「まあ鉄道一本で来れたのは良かったですけど」

 先日の夕方王都を出発、車中泊の後、朝にはこのプライベートビーチにやって来た。

「まさか、王室専用列車で来れるとは」

 駅に停車している紫色の列車を見てセバスチャンは溜息を付いた。

「プライベートビーチに行きませんかと誘ったら、付いていくと言ってくれてね。お陰で助かったよ」

「どういう事です?」

「おっと、今は休暇だったな。仕事の話しはなしだ。海で遊ぼう」

「はあ、けど、その水着ですが」

「これ?」

 昭弥は自分が特注で作らせたトランクス水着を履いていた。

「おかしい?」

「まあ」

 ボディースーツのような赤白横縞の水着を着たセバスチャンが答えた。
 この世界では肌を露出させることがタブーとまでは行かないが、かなり恥ずかしい行為らしい。まあ、昭弥の世界でも肌を見せるのが恥ずかしいという風潮が一部残っているが。

「気にしないでくれ」

 ただ水泳は別だ。ボディースーツだと圧迫されるようで動きにくく、泳げない。
 なのでトランクスタイプを特注で作らせた。

「さあ、行こう」

 昭弥は皆が待つ場所に向かった。
 ちなみにこの世界の女性用水着はドレスタイプ、普通のドレスが簡素になったような物でフリルなどで身体のラインを隠している。
 英国恋物語エ〇の外伝に出てきた水着のタイプだと思って貰いたい。
 刺激が少なくて済み、昭弥としては万々歳だ。

「あ、昭弥」

「社長」

「大臣」

 だが、迎えに来た獣人秘書達を見て、昭弥は絶句した。
 全員、昭弥のいた世界の水着を着ていた。
 カットの際どいハイレグ、ビキニ、ワンピース、タンキニ、中には首の辺りに付いた金具のみで付けた帯のような紐で恥部を隠しているだけのエロ水着まで。
 刺激の強い水着を着た彼女たちが待ち受けていた。

「あの、社長似合いますか?」

 恐る恐る尋ねてきたのは大人しいフィナだ。
 彼女はおとなしめの、セパレート水着を着ている。流石に恥ずかしいのか足を隠しつつモジモジとしている。

「あ、う、うん。良いよ」

「良かった」

 昭弥に褒められて嬉しかったのか尻尾が元気よく立ち上がった。そのため、腰から垂らして足を隠していた布がまくり上げられ、綺麗な御美脚が露わとなった。

「きゃあ!」

 慌てて布で隠そうとするティナの姿がより可愛く見え、一瞬昭弥は思考停止した。

「で、でもどうしてそんな水着が」

 ようやく再起動した脳みそを使い、昭弥は尋ねた。

「あー、その件ね」

 と言っていたずらっぽく話すのはマイクロビキニを身につけたフィーネだ。
 局部以外水着では隠していないが、狐人族特有の長くフサフサの尻尾を自分の身体に巻き付けることによって、エロさをより強調している。
 しかも、その尻尾が良く動く、身体の一部が見えたり隠れたり。おまけに、尻尾が動く度に水着の紐が動く、ズレる。それはもう取れてしまうかと言うくらい。

「はっ」

 思わずガン見しているところを、フィーネにクスリと笑われて我に返った昭弥は改めて尋ねた。

「どういう事だ?」

「ジャネットが記憶吸い取ったでしょ。その中に、昭弥が好みの水着のデータが」

「俺の好みの水着って事! そんなあ……」

 昭弥は絶望的な気持ちになった。
 確かに鉄オタだが、男であり、それなりに異性に興味はあるし、水着という物にもだ。
 同級生にそういうグラビア写真集を集める奴がいて見させて貰っていた。その時の記憶を吸い取って出して形にしたというのか。

「ホントキツい……」

 他にも拙い、恥ずかしい記憶、黒歴史を取られているんじゃ無いかと昭弥は少し鬱になった。

「昭弥」

 聞き覚えのある声を聞いて昭弥は振り返った。そこに居たのは、見覚えのある紺色の水着を着たユリアだった。

「どう。一番記憶の多かった水着を着てみたんだけど」

 確かに、よく見た水着、スク水、スクール水着だった。
 小中高と、水泳の授業で女子が着ていたので良く覚えている。そして同学年なのに発育が違うことも良く教えてくれるアイテムだった。

「……」

 なので昭弥は絶句した。
 ユリアの身体は本当に慎ましくお淑やかで、何故か心が優しい気持ちになる。
 先ほどまでの鬱な気分が晴れてしまうほどに。

「どう?」

「うん、いいですよ」

 自信満々のユリアに昭弥は正直に答えた。
 ただ、昭弥の目尻に水滴が何故か溢れてきた。
 女王でありながら、豊かな身体を持つ獣人秘書に囲まれて比べられてしまうユリアの現状に。
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