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第二部 第四章

ロザリンドの報告

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 路線が拡大するある日、王国鉄道では臨時の取締役会が行われた。

「実は早急に対応するべきと思われる事があるんや」

 サラが昭弥に緊急提案を行った。

「何でしょう」

「帝国鉄道にシェアが一部奪われているんや」

「まあ、そうでしょうね」

 最近並走するように帝国鉄道が路線を広げている。路線だけでは無く、車両数も増えており、彼らの輸送量が増えている。
 一方、昭弥の王国鉄道は輸送量が減り始めていた。

「やはり安値で売り出していますから」

「どうしましょう」

 秘書役になりつつあるオーレリーが昭弥に尋ねた。

「どうするというと」

「いや、シェアを奪い返すとかそういうことを考えるべきじゃ」

「何でだ?」

 昭弥はオーレリーに尋ね返した。

「え? 奪い返すんじゃ」

「なぜだ」

「鉄道の輸送するものが奪われたんですよ」

 どうも社長に覇気が無いようにオーレリーは思えて改めて尋ねた。

「そうだ。それがどういう意味か解るかい?」

「いや、取られたとしか」

「違う。王国鉄道の線路に新しい列車を走らせることが出来るという事だよ」

 昭弥は、熱烈に言った。

「これまでずっと王国鉄道の輸送量はほぼ満杯だった。そのため全力で運ばざるを得ず、新たな列車やサービスを行う余裕など無かった。それが帝国鉄道のお陰で一部が移り、我々に新たな事業を行う余裕が出来たんだ」

 やっぱりいつもの社長だった。全員が一寸した安堵をついたとき、昭弥は演説を始めた。

「王国鉄道は鉄道、人と物の輸送を行うことで王国に貢献している。だが、ただ動かすだけでは意味が無い。それに如何に付加価値を付けることが出来るか。その移動をより充実した物に、素晴らしい物に出来るか。素晴らしい物を作り出して送ることが出来るか。これからはそこに重点を置いていく。勿論、路線の拡充は行うし車両の増備もこれまで通りだ。だが、それ以上に素晴らしいサービス、事業を展開することによって、より王国を発展させ貢献する。それがこれからの王国鉄道の事業だ」

 昭弥の宣言に全員が震えた。
 これまでの王国鉄道の拡充でさえほんの数年前には想像も出来なかったことだ。
 いや、鉄道が開通しただけで十分な驚きであった。何しろ一月掛かっていた移動がほんの一日か二日で行けるように、なってしまったからだ。
 それが、王国中に広がり、王都に広がり移動が容易になったことで取引量が何十倍にも増えた。
 特にサラは実家である商家の取引量が何倍にも増えている。
 これまで沿岸部しか取引相手がいなかったが、現在はこの王都や更に北方の商人と直接取引を行っている。
 鉄道開通以前では考えられないことだった。
 今でも夢のような世界なのに、社長は、昭弥は更に新たな未来を、見たことの無い世界を創造するという。
 それがどんな世界か見えず彼らは恐れによる戦慄と興奮で身体が震えた。
 だが彼らの震えに気が付くこと無く昭弥は更に演説を続ける。

「そういう意味では本当に帝国鉄道には感謝している。ようやく、ようやく、やりたいことが出来る様にしてくれたんだ。よくぞ奪うまでに成長してくれた感謝状を贈りたいくらいだ」

「やめて下さい」

 会議室にいた全員が唱和してやめさせた。
 自分のシェアを奪ってくれてありがとうなんて言う人など居ないだろう。いや、セバスチャンの目の前にいるが、実行しないで欲しかった。



「以上が取締役会でのやりとりです」

 王城に登城したロザリンドは、女王に向かって報告した。
 昭弥に送ったメイドであり、監視、女性関係のあれこれを監視する為に、少々幼いがロザリンドを送っている。少し頭の回転が遅いが、忠実で記憶力の良い彼女の事をユリアは信頼していた。

「ありがとうございますロザリンド」

 ユリアは笑顔で答えたが、直後に深く溜息を付いた。

「帝国鉄道に感謝って……何を考えているのかしら」

 ユリアの主君であり、王国を庇護しているリグニア帝国、その皇帝フロリアヌス。
 ユリアの従兄弟であり昔から何かしら、突っかかっていた。

「そんな奴に協力するなんて」

 この前まで連中の求めに応じて、レールやら車両やら器械やらを売っていたが、他の購入先が見つかってから納入を打ち切られている。
 更に、売られ、生産されているレールや車両が王国内に伸びて帝国鉄道を支えている。
 その事実が、ユリアに不快感を与えている。
 今のところ、王国鉄道の方が収益は多いが、ハッキリ言って良い感じはしない。

「あの女王陛下……」

「あらごめんなさいロザリンド」

 怖い顔をしてロザリンドを怖がらせてしまった。
 忠実に任務を果たしてくれた忠臣は心からねぎらわなければ。

「報告ありがとうございます、こちらに来てお菓子とお茶をどうぞ」

「ありがとうございます!」

 ロザリンドは喜んで女王の元に行くと、エリザベスが用意したお菓子とお茶を貰い、満足した。

「ふう、美味しいです」

 全て平らげたロザリンドは、満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を述べる。

「それは良かった」

 ユリアは、ロザリンドの満面の笑顔に付いた、お菓子のカスを取りながら、ねぎらう。

「はい、お手紙の報告だけで無く、こうして直接報告してお菓子をいただけるのは、嬉しいです」

「え?」

 ロザリンドの言葉にユリアは疑問符を浮かべた。

「どうしました?」

「いえ、手紙の事を指示した覚えは無いわ。直接報告すれば済むもの」

「へ?」

 お菓子を片づけていたエリザベスを含め三人に戸惑いの色が加わった。
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