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第二部 第三章

外伝 昭弥の家 2

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 自分の家を設計して、修正して貰うために送ったら、数十倍の規模に拡大していました。
 そんな馬鹿なことが、起こってツッコミ疲れた昭弥は、そのことで呼び出されて王城に向かった。
 しかも向かった先は、建物担当の部署では無く、ユリアの私室。
 ユリア陛下に会うことになってしまったのだ。
 しかも謁見の間では無い。正式な会合なら謁見の間だが、私的なものは私室や応接室で行う。
 だが、それ以上に重要で極度の機密事項の話しでは、私室や応接室に通される。

「お召しにより、只今参りました」

 一応公爵であり大臣である昭弥は主君であるユリアに深く頭を下げた。

「顔をお上げになって」

「はい」

 そういって昭弥が顔を上げると、ユリアが何故か嬉しそうな顔をしていた。
 ユリアは昭弥に座るよう促して話しは始まった。

「実は公爵邸の事でお話しがありまして」

「はあ」

 王城から帰ってきた設計図には、巨大な迎賓館があった。
 その迎賓館について話そうというのだろうか。
 自分が使うから巨大な施設にしろとかそういう話しなのだろうか。

「その公邸に、非常時用の避難トンネルを作って貰いたいのです」

「はい?」

 斜め上の提案に昭弥は驚いた。

「あの、どうしてでしょうか」

「万が一、王城に危急の事態があった際には、直ちに避難できるように用意しておくためです」

「はあ」

 確かに、ルテティアは征服国家で不安定で、この王都が戦火に覆われたことも両手両脚の指では足りない。
 だが、最近は周辺の平定も進み、貴族の数も少なくなって不安定要素が無くなりつつある。と言うより、王城が何かあった時点でルテティアはおしまいである。
 緊急事態に備えるのは必要だが、昭弥の作ろうとしている公邸にトンネルを作る必要があるのだろうか。

「本当に必要なのでしょうか」

「はい」

 ユリアは、断言した。

「これは信頼の方にしか頼めないことなのです」

「へえ」

 確かに王城の外から直接内部に入れるトンネルの入り口など、完全に秘匿するか、信頼の置ける貴族の屋敷にしない限り安心できない。
 逆用されて、攻め込まれクーデターを行われる可能性が有るからだ。
 しかし、このような事を一貴族に頼むのか。
 そのような疑問が昭弥の頭を過ぎったとき、ユリア付のメイドであるエリザベスが答えた。

「これは屋敷を与えられる貴族が謝礼として王家に対して行う事です。与えられる事業はその貴族の格に応じて割り振られますが」

 なるほど貴族が王家に対する税金とか契約に対する履行行為というわけか。

「私の場合は、トンネル掘りと?」

「はい」

  掘るのは良い、最近鉄道のトンネル工事が多くて優秀な技師が育っているので大丈夫だろう。
 しかし、こんな国家機密級の事業を行った作業員は、消されるのが相場になっている。そんなことを彼らに強いるのは勘弁願いたい。

「えー、それで出口なんですけど、非常に重要なので昭弥の寝室にして貰えないでしょう
か?」

「え?」

 思わぬユリアの提案に昭弥は驚いた。

「いや、それは」

 何というか、落ち着かない。いきなり王城から兵隊が入って来て捕らえるとかあり得そうで怖い。
 なので勘弁願いたい。

「それと、寝室ですけどダブルベッドとか置いて、他にも……」

「いや、一寸待って下さい」

「はい?」

「何でそういうことになるんですか?」

 これまで散々、新たな要求やら変更やらが行われてきたのに寝室の事まで言われるのか。

「新たな公爵邸なのですから色々と修正を」

「どうしてそうなるんです」

「昭弥が王国にとって重要人物だからです」

「だからって必要ですかね」

「はい! 何かあったとき直ぐに駆けつけて守れるようにするためです」

「寝室の配置とか必要ですか」

「絶対に必要です!」

 ユリアがいつになく強く断言してくる。思わず昭弥が頷き掛けたとき、私室の扉が開いた。

「待って下さい!」

 大声で叫んで入って来たのは獣人秘書のフィーネとティナだった。

「貴方たち……どうやって入ったの」

「緊急の用件で入って来ました」

 ユリアが詰問するが二人はたじろがない。

「何が緊急なの」

「新たな公爵邸です」

「今、国家機密の話しをしていたのよ。打ち首されることも覚悟の上でしょうね」

「夜這い用のトンネル作らせることが国家機密ですか」

「ぎくっ」

 女子が言ってはならない台詞が聞こえたが、スルーして彼女たちの話しを聞くことにした。

「ところで緊急って?」

「寝室と私たちの部屋が離れすぎています。これでは緊急時に対応できません!」

「緊急事態って何よ」

「鉄道事故などの初動対応です。離れすぎては、指示を受けるのに時間が掛かります」

「そんなことどうでも良いでしょう」

「良くありません! 対応は迅速に行わなければ信頼を失います。このことは社長が常日頃から指摘していることであり、実行できません」

「なら私の部屋を近くにしなさい」

「あなたは、賓客扱いなので迎賓館で十分です」

「私は女王よ。そこらの貴族と一緒にしないで、主自らがもてなすべきよ」

「そんなの権威の乱用です!」

「何ですって、奴隷女が!」

「ええ、私たちはご主人様の物ですわ」

 挑発するようにフィーネが言う。一種の人質なのだが、奴隷のように扱われる事があるのが獣人の人質の扱いだ。勿論、昭弥はそのような事はしないが、彼女たちの意識が、違うので日々、すれ違いが起こっている。

「昭弥! どうなの!」

「ご主人様!」

「社長!」

「あーっ! 五月蠅い!」

 遂に昭弥は怒鳴って黙らせた。



 結局、様々な部署からの要求に耐えかねた昭弥は、本社近くの駅にあるステーションホテルの一室を自分の住まいにすることにして、公邸には必要に応じて帰り、通常はステーションホテルで寝泊まりをすることにしてしまった。
 トンネルは計画通り、信頼の置けるトンネル技師と工員に行わせ寝室に出口を作り、王城の奥から通じるよう出来たが、使われたかどうかは、不明である。
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