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第二部 第二章
王都再開発
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再び閣議の日となった。
この日の議題はアクスム、デルモニア、東方、王都の今後についてだ。
アクスムは内乱が平定されつつあり小規模な襲撃事件を除けば安定している。最大の抵抗勢力だった猿人族も降伏し、警戒線の撤去も進んでいる。
寧ろ警戒線沿いにゴムや香辛料の木を植え始め、産業の発展に寄与している。
ゴムの方の売り上げも好調だ。
現在は鉄道会社のゴムホースぐらいしか活用は無いが、それを利用した貫通ブレーキにより長大な列車編成を可能としているため、産業の底上げに使われている。
その他の産業への応用も期待されており、さらなる発展が見込まれる。
デルモニアは併合して間もないが、鉱物資源に期待が持たれつつあり、発展が期待される。
最後に東方だが。
ユーフラテス川周辺に入植地を作っているが、あまり進んでいない。
九龍王国にも、協定を結んで入植地を作ってはいるが、発展は遅々として進んでいない。
入植者はいるし、鉄道も結ばれているのだが、アクスムに比べると少なかった。
周への警戒と対抗という目的から開発を進めたいというハレック元帥の主張だったが、投資額以上の収入が見込めずにいた。ルビコン川流域とユーフラテス川流域の作物が同じであるため、競合しているためだ。値段を同等にしても消費地はルビコン川流域のため輸送費が掛かる。鉄道で運んでも、ルビコン川流域も鉄道で運ぶ上、距離が短く安い。
そんのため価格では勝負にならなかった。
料金低減をハレックは求めたが、経営に問題が出るので昭弥は拒否した。
実は遠距離に関しては徐々に低減して最大四分の一程値引きをして居るのだが、それでも輸送費が高い。
そのため現状維持を継続することとなった。
ただ、西方への高速線の建設については昭弥が請け負うことを約束することになった。
王国を短時間で結ぶ必要があり、いずれは伸ばす必要があると考えて認めた。
とりあえず纏まったところで宰相のラザフォード公爵が次の議題を伝えた。
「さて、次は今回の重要議題である王都の土地問題についてです」
王都の土地問題とは、簡単に言うと空き屋問題だ。
先の反乱に参加した貴族への尋問と処罰がようやく終わった。
とはいえ首謀者が奴隷に落とされたために、あまり重い処罰は行われなかった。
だが、それだけに容赦の無い処罰が行われた。
領地没収、削減、兵権没収、爵位剥奪など、命だけは助けた、と言った処分だ。
その中に、王都に与えられた屋敷地の没収というのもあり、王国による接収が進んでいた。
「その空いた貴族の土地をどうするか、皆さんの意見をお聞きしたい」
その土地をどうするかが、問題だった。
下手をすればゴーストタウンになりかねないだけに、切実と言えた。
「軍用地として接収するべきでしょう」
発言したのはハレック元帥だった。
「現在、王国軍は再編成中であり、その中核となる王都配備の中央軍の駐屯地が足りません。王国の平和の為にも駐屯地とするべきです」
「異議あり」
反対したのは昭弥だった。
「鉄道を敷きたいと思います。鉄道が発展しているとは言え、王都の外れです。中心市街地に近い場所まで敷くのがこれからの課題だと考えます」
「それだと、王都へ不審人物が大挙して押し寄せてくるではありませんか。絶対反対です」
昭弥の意見にハレックは異議を唱えた。
「しかし、現状は戦時以外で城門が閉じられることは無く。入り放題です」
「ぐっ。し、しかし中心部までどうやって入れるのですか。それに鉄道に必要な強度のある地盤を整えるのにどれくらいの時間が掛かるのか」
「大丈夫です、内壁を使いますから」
「何だと!」
王都は中心部から王城、内壁、外壁の三重構造になっている。
王城から内壁までの間は貴族の上屋敷、当主が王都に滞在するときの屋敷になっている。
内壁から外壁の間は王都民の家々が並ぶいわゆる下町だ。そして外壁近くに貴族の下屋敷が立ち並んでいる。この下屋敷は、貴族の家臣達の住む場所であり、貴族の隠居場所にもなっている。
壁近くに貴族の屋敷があるのは、籠城時、兵力の集結場所として建設されたからだ。
昭弥は内壁とその内側の屋敷を潰して鉄道関連の施設にしてしまおうというのだ。
例が無い訳では無い。
東京の中央線四谷、御茶ノ水間は江戸城の外堀を通っているし、東京駅の丸の内は武家屋敷だった。
名古屋の瀬戸電もお濠の跡を通っているし、真田丸で有名な上田城も空堀に上田電鉄が通っていた。
海外でもウィーンのリングは元々城壁だった跡地を道路にして路面電車を走らせている。
「それでは王都の防衛はどうなるのだ! 四〇〇年以上にもわたり王都、ひいては王国を守ってきた城壁だぞ」
「残念ながら、最早城壁の役割は終わりました」
「どういう事だ!」
「城壁、外壁の外側に重要な工業地帯が広がっています。現在、王国の富の殆どはその工業地帯が担っています」
事実工業地帯で生産されるルテティア鋼は王国に多くの富をもたらしていた。
「そういって自分の口上を守りたいだけではないか」
「否定はしません」
ハレックの詰問を昭弥は肯定した。
「しかし、もう一つ問題があります」
「なんだ」
「兵器の性能が上がっています。大砲の能力が向上しており、籠城戦を行っても長距離砲で外壁の外から王城を狙うことが出来る様になりました」
事実、先の大戦で実戦投入された王国軍の列車砲は一キロ先まで砲弾を飛ばせる。その気になれば五キロくらいは余裕だ。
王城は外壁の外側からでも十分に狙える。
そして、それ以上の射程を持つ新型の大砲の開発も進んでおり、城壁の意味が無くなりつつある。
「なので城壁を廃止しても問題無いのではないかと」
「だが」
「何より王国軍の改革により、王都から離れた場所で戦闘が行えるようにして居るのですから城壁を維持するだけ無駄でしょう。寧ろ、その費用を改革に使うべきでは?」
「ぐっ」
昭弥の意見にハレックは黙り込んだ。
「それでは、決を採ろうと思います。只今鉄道大臣より提出された城壁の鉄道転用案及び王都再開発案に賛成の方、挙手を」
ハレック以外の全員が手を上げた。
「賛成多数。よって本案は可決しました」
「待って下さい。このような重要なことは、陛下にもお尋ねしないと」
ハレックが振り返ると女王はにっこり笑って伝えた。
「鉄道大臣の案をよしとします」
かくして昭弥の案は承認された。
「お疲れ様です社長。いや、大臣」
セバスチャンが迎えた。
「社長で良いよ。それより案が採用されたんだから、これから忙しくなるぞ」
「しかし良く通せたな。どうやったのだ」
オーク族の秘書であるムワイが尋ねた。
「ああ、簡単だよ。他の省庁、大臣に言ったんだ。鉄道会社による王都再開発を認めて貰えれば、新庁舎に必要な用地を無償で提供するってね」
現在、王国は中央集権体制に向けて改革が進んでいる。取り潰した貴族領の権限を王国中央の各省庁へ集中させているため、その処理に多くの職員が必要であり、既存の建築物、王城内の建物が手狭になってきており、新たに建てる必要があった。
「それって賄賂じゃ?」
「取引材料だよ」
セバスチャンの意見を昭弥はぴしゃりとはね除けた。
「しかし、気前が良いですね。何の見返りも無く渡すとは」
「いや、タダで渡す訳じゃ無い。見返りは確実に頂く」
「? どういう事だ?」
「王都の中心街だが、他にも貸しオフィスなど作るんで官庁街を作っても住宅までは土地が少ない。そこで土地の余っている王都の外に住宅を建てる」
「遠いのに住む奴がいるのか?」
「そこで鉄道の出番だ。その住宅、公務員用の住宅を沿線に提供することで列車を使った通勤を行って貰う。鉄道会社には彼らの運賃が毎日入ってくる寸法だ。まあ、定期券を発行していくらか割り引くけど、莫大な収入になるよ」
沿線に公共機関や大学を誘致して通勤通学客を呼び込むのは鉄道会社が良くやる手段だ。慶應義塾大学は東急が無償提供して日吉に移転してきたし、東京工業大学も浅草の蔵前にあったが、東急が大岡山の土地が提供されて移転。以来、乗客を大量に確保し安定収入の礎となった。
勿論他にも収入源はあるが、安定した収入となったのは確かだ。
「……抜け目が無いな」
「これぐらいやらないと、巨大な鉄道は維持出来ないよ」
「そんなことをして良いのか」
「良いだろう。無理して狭い場所に住むより、広い場所でのびのび暮らした方が精神的にも良いよ」
そう言って昭弥は二人を引き連れて会社に戻っていった。
この日の議題はアクスム、デルモニア、東方、王都の今後についてだ。
アクスムは内乱が平定されつつあり小規模な襲撃事件を除けば安定している。最大の抵抗勢力だった猿人族も降伏し、警戒線の撤去も進んでいる。
寧ろ警戒線沿いにゴムや香辛料の木を植え始め、産業の発展に寄与している。
ゴムの方の売り上げも好調だ。
現在は鉄道会社のゴムホースぐらいしか活用は無いが、それを利用した貫通ブレーキにより長大な列車編成を可能としているため、産業の底上げに使われている。
その他の産業への応用も期待されており、さらなる発展が見込まれる。
デルモニアは併合して間もないが、鉱物資源に期待が持たれつつあり、発展が期待される。
最後に東方だが。
ユーフラテス川周辺に入植地を作っているが、あまり進んでいない。
九龍王国にも、協定を結んで入植地を作ってはいるが、発展は遅々として進んでいない。
入植者はいるし、鉄道も結ばれているのだが、アクスムに比べると少なかった。
周への警戒と対抗という目的から開発を進めたいというハレック元帥の主張だったが、投資額以上の収入が見込めずにいた。ルビコン川流域とユーフラテス川流域の作物が同じであるため、競合しているためだ。値段を同等にしても消費地はルビコン川流域のため輸送費が掛かる。鉄道で運んでも、ルビコン川流域も鉄道で運ぶ上、距離が短く安い。
そんのため価格では勝負にならなかった。
料金低減をハレックは求めたが、経営に問題が出るので昭弥は拒否した。
実は遠距離に関しては徐々に低減して最大四分の一程値引きをして居るのだが、それでも輸送費が高い。
そのため現状維持を継続することとなった。
ただ、西方への高速線の建設については昭弥が請け負うことを約束することになった。
王国を短時間で結ぶ必要があり、いずれは伸ばす必要があると考えて認めた。
とりあえず纏まったところで宰相のラザフォード公爵が次の議題を伝えた。
「さて、次は今回の重要議題である王都の土地問題についてです」
王都の土地問題とは、簡単に言うと空き屋問題だ。
先の反乱に参加した貴族への尋問と処罰がようやく終わった。
とはいえ首謀者が奴隷に落とされたために、あまり重い処罰は行われなかった。
だが、それだけに容赦の無い処罰が行われた。
領地没収、削減、兵権没収、爵位剥奪など、命だけは助けた、と言った処分だ。
その中に、王都に与えられた屋敷地の没収というのもあり、王国による接収が進んでいた。
「その空いた貴族の土地をどうするか、皆さんの意見をお聞きしたい」
その土地をどうするかが、問題だった。
下手をすればゴーストタウンになりかねないだけに、切実と言えた。
「軍用地として接収するべきでしょう」
発言したのはハレック元帥だった。
「現在、王国軍は再編成中であり、その中核となる王都配備の中央軍の駐屯地が足りません。王国の平和の為にも駐屯地とするべきです」
「異議あり」
反対したのは昭弥だった。
「鉄道を敷きたいと思います。鉄道が発展しているとは言え、王都の外れです。中心市街地に近い場所まで敷くのがこれからの課題だと考えます」
「それだと、王都へ不審人物が大挙して押し寄せてくるではありませんか。絶対反対です」
昭弥の意見にハレックは異議を唱えた。
「しかし、現状は戦時以外で城門が閉じられることは無く。入り放題です」
「ぐっ。し、しかし中心部までどうやって入れるのですか。それに鉄道に必要な強度のある地盤を整えるのにどれくらいの時間が掛かるのか」
「大丈夫です、内壁を使いますから」
「何だと!」
王都は中心部から王城、内壁、外壁の三重構造になっている。
王城から内壁までの間は貴族の上屋敷、当主が王都に滞在するときの屋敷になっている。
内壁から外壁の間は王都民の家々が並ぶいわゆる下町だ。そして外壁近くに貴族の下屋敷が立ち並んでいる。この下屋敷は、貴族の家臣達の住む場所であり、貴族の隠居場所にもなっている。
壁近くに貴族の屋敷があるのは、籠城時、兵力の集結場所として建設されたからだ。
昭弥は内壁とその内側の屋敷を潰して鉄道関連の施設にしてしまおうというのだ。
例が無い訳では無い。
東京の中央線四谷、御茶ノ水間は江戸城の外堀を通っているし、東京駅の丸の内は武家屋敷だった。
名古屋の瀬戸電もお濠の跡を通っているし、真田丸で有名な上田城も空堀に上田電鉄が通っていた。
海外でもウィーンのリングは元々城壁だった跡地を道路にして路面電車を走らせている。
「それでは王都の防衛はどうなるのだ! 四〇〇年以上にもわたり王都、ひいては王国を守ってきた城壁だぞ」
「残念ながら、最早城壁の役割は終わりました」
「どういう事だ!」
「城壁、外壁の外側に重要な工業地帯が広がっています。現在、王国の富の殆どはその工業地帯が担っています」
事実工業地帯で生産されるルテティア鋼は王国に多くの富をもたらしていた。
「そういって自分の口上を守りたいだけではないか」
「否定はしません」
ハレックの詰問を昭弥は肯定した。
「しかし、もう一つ問題があります」
「なんだ」
「兵器の性能が上がっています。大砲の能力が向上しており、籠城戦を行っても長距離砲で外壁の外から王城を狙うことが出来る様になりました」
事実、先の大戦で実戦投入された王国軍の列車砲は一キロ先まで砲弾を飛ばせる。その気になれば五キロくらいは余裕だ。
王城は外壁の外側からでも十分に狙える。
そして、それ以上の射程を持つ新型の大砲の開発も進んでおり、城壁の意味が無くなりつつある。
「なので城壁を廃止しても問題無いのではないかと」
「だが」
「何より王国軍の改革により、王都から離れた場所で戦闘が行えるようにして居るのですから城壁を維持するだけ無駄でしょう。寧ろ、その費用を改革に使うべきでは?」
「ぐっ」
昭弥の意見にハレックは黙り込んだ。
「それでは、決を採ろうと思います。只今鉄道大臣より提出された城壁の鉄道転用案及び王都再開発案に賛成の方、挙手を」
ハレック以外の全員が手を上げた。
「賛成多数。よって本案は可決しました」
「待って下さい。このような重要なことは、陛下にもお尋ねしないと」
ハレックが振り返ると女王はにっこり笑って伝えた。
「鉄道大臣の案をよしとします」
かくして昭弥の案は承認された。
「お疲れ様です社長。いや、大臣」
セバスチャンが迎えた。
「社長で良いよ。それより案が採用されたんだから、これから忙しくなるぞ」
「しかし良く通せたな。どうやったのだ」
オーク族の秘書であるムワイが尋ねた。
「ああ、簡単だよ。他の省庁、大臣に言ったんだ。鉄道会社による王都再開発を認めて貰えれば、新庁舎に必要な用地を無償で提供するってね」
現在、王国は中央集権体制に向けて改革が進んでいる。取り潰した貴族領の権限を王国中央の各省庁へ集中させているため、その処理に多くの職員が必要であり、既存の建築物、王城内の建物が手狭になってきており、新たに建てる必要があった。
「それって賄賂じゃ?」
「取引材料だよ」
セバスチャンの意見を昭弥はぴしゃりとはね除けた。
「しかし、気前が良いですね。何の見返りも無く渡すとは」
「いや、タダで渡す訳じゃ無い。見返りは確実に頂く」
「? どういう事だ?」
「王都の中心街だが、他にも貸しオフィスなど作るんで官庁街を作っても住宅までは土地が少ない。そこで土地の余っている王都の外に住宅を建てる」
「遠いのに住む奴がいるのか?」
「そこで鉄道の出番だ。その住宅、公務員用の住宅を沿線に提供することで列車を使った通勤を行って貰う。鉄道会社には彼らの運賃が毎日入ってくる寸法だ。まあ、定期券を発行していくらか割り引くけど、莫大な収入になるよ」
沿線に公共機関や大学を誘致して通勤通学客を呼び込むのは鉄道会社が良くやる手段だ。慶應義塾大学は東急が無償提供して日吉に移転してきたし、東京工業大学も浅草の蔵前にあったが、東急が大岡山の土地が提供されて移転。以来、乗客を大量に確保し安定収入の礎となった。
勿論他にも収入源はあるが、安定した収入となったのは確かだ。
「……抜け目が無いな」
「これぐらいやらないと、巨大な鉄道は維持出来ないよ」
「そんなことをして良いのか」
「良いだろう。無理して狭い場所に住むより、広い場所でのびのび暮らした方が精神的にも良いよ」
そう言って昭弥は二人を引き連れて会社に戻っていった。
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