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第二部第一章

魔王

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 昭弥が連れてこられたのは、巨大なホールと言うべき空間だった。
 そこに居たのは異形の魔族達だった。
 堅い鱗に覆われた龍のような姿をした者。猪のような顔と身体をした者。骸骨。
 ファンタジーゲームの悪役が一堂に会したような場所だった。
 その中央、青白い肌と精悍な身体、頭部から二本の角を生やし黒い甲冑を着込んだ青年。
 彼が魔王のようだ。

「私が第一六八代魔王デダンだ」

 傲岸不遜に、魔王は口を開き自己紹介した。

「アクスム総督玉川昭弥か」

「そうです私が玉川昭弥です」

 尋ねられたので思わず答えたが、疑問に思った事を尋ねた。

「どうして私を誘拐したんですか?」

「貴様を抑えればルテティアもリグニアも容易にデルモニアに攻撃をする事は出来まい」

「それは過剰な期待では?」

 侵略拡大政策を持つリグニアとルテティアが標的を前にして躊躇するとは思えない。
 精々気候的地理的に難しいとか、国内事情で動けないから攻めない、といった程度でしかないと昭弥は考える。

「だが、鉄道が無ければここまで大軍を送ってこられまい」

「そうですかね」

 確かに昭弥は王国鉄道の社長をしている。経営を行っているが実務を担っているのは、現場の技術者達だ。経験豊富な彼らなら、困難が生じようとも開通させてくれるだろう。

「しかし、お前が居なければ彼らは集まらず、鉄道も作られまい」

「そうかな?」

 皇帝か国王の大号令が出たら攻め込んでくる、と昭弥は思うのだが。

「それに貴様が居れば動けまい」

「何でです?」

「重要人物が握られているのだ。下手に手出し出来まい」

「人質という訳ですか」

 いきなりやる事が小悪党に見えてきた。人質を取って、自分の要求を通そうとするなど小さすぎる。

「そんなの関係なしに攻めてくると思いますけど」

「強がるな、貴様と女王が懇意であるというのは知っているぞ」

「そりゃあ……大事にして貰っていますけど」

 召喚されてしまって、孤独となった昭弥にユリアは、なにかと気を遣ってくれた。
 何より鉄道オタである昭弥に、鉄道の最高責任者に据えて貰い、思う存分活躍させて貰った。

「だからといって私のために要求を呑むとは思えないんですが」

「さて、どうかな。それにお前にはやって貰うことがあるしな」

「なんです」

「鉄道の知識と力を出して貰う」

「え?」

 思いもよらない言葉を聞いて昭弥は呆気にとられた。だが、昭弥の気持ちは決まっている。

「お断りします」

「敵に協力する事は出来ないと」

「いや、王国の鉄道の仕事があるので」

 タダでさえアクスムへの敷設という仕事が佳境に入っているのに他の事をしている余裕など無かった。更に、新たな鉄道関連の仕事を立ち上げたいと考えていたし、余裕もない。

「ふん、見上げた忠誠心だが力尽くで協力して貰う」

 そう言って、周りを囲んできたのはオーガやホブゴブリンなど巨漢の魔物だった。

「果たして何時まで持つかな」

 どれも拳で昭弥を痛めつけ、言うことを聞かせようとしている。

「無理です」

 向きになって昭弥は拒否した。
 嫌がる事を無理矢理やらされて失敗すると責められた、前の世界での記憶が蘇り、強要されると反発してしまう。

「ふむ、その様子だと聞きそうに無いな」

 そんな昭弥の様子を見て魔王は方法を変えた。

「ならば別の方法を取るまでだ」

「え?」

 昭弥が呆気にとられていると、オークやオーガの間から、コウモリの翼を生やした女性サキュウバスや下半身が蛇の女性ラミア、蛸のように何本も触手を持つ女性スキュラ、鳥の体を持った女性セイレーンなどなど。
 神話に出てくる女性の妖怪や魔族が現れてきた。

「な、なにを……」

 嫌な予感がして昭弥に冷や汗が流れた。

「力で従うように思えないから色仕掛けで支配しようとな」

 下卑な笑いを浮かべて魔王が言うと昭弥は蒼白になった。
 昭弥は一応男だし、鉄オタだが健全な精神を持っている。だが、彼女たちを相手にした後の事を考えると原始的な恐怖がこみ上げてきた。

「まっぴらゴメンです」

 そのまま走って逃げようとしたが、と当然現れた糸に手足を絡まれて倒れた。

「あたしの糸からは逃げられないよ」

 そう言ったのは、下半身が蜘蛛の女性アラクネだった。
 自ら出した糸で昭弥を絡め取り、引き寄せる。

「さあ、楽しい事をしましょう」

 そう言って体中に触手を絡めるスキュラ。
 馬乗りになるサキュウバス。
 耳元に囁くセイレーン
 昭弥を籠絡しようとあの手この手で、攻めてくる。

「や、やめて」

 昭弥が言ったとき、ホールの入り口から爆音が響いた。
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