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第二部第一章
最終討伐前
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ブラウナー准将の指示や、ハインツの機転などによって無事に生還した昭弥一行。彼らの乗った列車は無事にアムハラに到着した。
アムハラに帰った昭弥は、再び猿人族族長との連絡を取り、双方が協定を遵守することを確認。正式に承認した。
公式に猿人族が恭順する事が決まり、猿人族のテリトリーとの境界線で調印式が行われた。
「何とかなったね」
「まだ終わっていませんよ」
ホッとしている昭弥をブラウナーが注意した。
そう、終わった訳ではなかった。猿人族の過激派の連中がまだ、行動しているのでその討伐が残っている。
しかも、割譲される予定のクソウズの近くに陣取っている。
これを撃破しない限り、終わらない。と言うより、手に入れないと昭弥としては拙い。
「准将、出動の準備は?」
「出来ています」
交渉前から猿人族の中に過激派が居るのは知らされていた。なので昭弥は討伐を命じ、ブラウナーは部隊の準備をしていた。
今度は猿人族が多くが味方なので、補給線の確保などが確実に行えそうなので、大変楽だ。それに過激派の拠点は一箇所の最大拠点に半数以上が集まっていることも分かっている。
これを叩きつぶすだけなので本当に楽だ。
「後は司令官の承認のサインが入った命令書あれば大丈夫です」
「あ、それなら私が貰っているよ」
「へ?」
「ここに来る前に挨拶したらブラウナーに討伐に関する一切の権限を渡すと言っていた」
「あのリュウマチ持ち何処まで動かない気だ」
自分の司令官に悪態をついてから、ブラウナーは命令書を確認した。
「確かに命令書を確認しました。しかし、お手数を掛けて申し訳ありませんね」
「いや、構いませんよ。それより討伐をお願いします」
昭弥は何としてもクソウズを確保したくてブラウナーにお願いした。
「全軍進め」
討伐作戦の事実上最後の作戦行動が開始された。
参加兵力は、一四個歩兵大隊、一〇個アクスム軽歩兵大隊、四個騎兵大隊の合計二八個大隊、人員一万八〇〇〇名だ。
これを五つの部隊に分けて、四つを独立部隊として前進させ敵の本拠地で合流させる。
残りは安全が確保され次第、迅速に移動し本拠地を攻撃する、若しくは独立部隊が不利な状況に陥ったときに送る予備兵力の位置づけだ。
それぞれスコット大佐、アグリッパ大佐、ミード大佐、ティーグル中佐が率いて前進する。
獣人主力のアクスム軽歩兵大隊を混ぜることになるが、だいぶわだかまりが無くなってきたようでトラブルは少なくなっている。
やはり共同作戦が仲をよくしたようだ。
移動と輸送には、軽便鉄道がフル稼働した。何より、猿人族のテリトリーを分断するように敷設したため、移動経路に事欠かず、部隊や物資を迅速に移動させる事が可能だった。
新たな路線建設でも融和派の猿人族の支援が受けられ、目的地まで伸ばすことが可能だった。
そして過激派猿人族の抵抗が殆ど無いことが進撃を容易にしていた。
「あそこか」
短期間の内にブラウナー率いる討伐軍は過激派が根拠地に到着した。
過激派が根城にしているのは険しい岩山で、登り口が限定される上、容易に上ることも出来ない。所々、横穴もあり、防御力は高い。
平押しでは攻略は困難とみられていた。
「攻撃準備だ。攻城戦準備」
ブラウナーは岩山を城と想定して攻撃準備を始めた。
全兵力を動員して、包囲網を敷くと共に、平行壕、塹壕を作り、敵の攻撃を防ぐ陣地にする。同時に徐々に岩山に近づけさせ突撃の準備を整えさせた。
更に軽便鉄道を延長して、陣地近くに集積所を設けて、長期戦に備えることにした。そして、攻城戦の主力となる攻城砲を持ってこさせた。
ジャングルの中を普通に通すとすると、泥濘に嵌まるなりして輸送が困難だが、軽便鉄道は輸送力が小さくても、大砲のような重量物を運ぶことに優れている。
それに攻城砲は分解して運ぶことが可能であり、一つ一つの部品は簡単に運ぶことが出来た。
「順調に出来たな」
ブラウナーとしては満足のいく結果だった。後は総攻撃を開始するだけだった。
それは、攻撃開始前夜の事だった。ブラウナーは中々眠れず、ベットから起き上がり、自分のテントを出て司令部のテントに向かおうとしたときだった。
「司令官は慎重すぎではありません?」
「確かに度が過ぎているところがあるわね」
「とっとと突撃しちまえばいいのに」
将校クラブとして使われているテントの中から指揮下にいる連隊長達の話し声が聞こえてきた。
「たかが獣人の為にこれほどの攻城戦が必要とは思えません」
「兵力過多よね。密林の中に入れて待つようにだって。本人はアムハラでゆっくりしているだけだし。まあモフモフを堪能出来るのは良いけど」
羊人族の村に駐留していたとき、羊人族の少女のモフモフ感を思い出しながらスコット大佐は答えた。
「これまでも兵力を集めて大半を後ろで遊ばせたり、守備に回したりして、やる気があるのか疑問だったぜ。森を切り開いて鉄条網を作って線路を敷くだけだぜ」
「まあ今回は久方ぶりの大規模戦闘だから不満は無いけど」
「これでも過剰なくらいですわ」
「暴れられるのは歓迎だけどな」
「それは同意見だけど、あなたは少し抑えなさい。でも一寸過剰なように思えるわ。連中が十分な武器を用意出来るはずないのに」
「今までも十分戦果を上げているんです。もっと自由に戦闘が行いたいものです」
大規模な戦闘が無いため、不満が高まっているようだった。久々の大規模戦闘も、苦情線でブラウナーが統制を取っていて自由な選択肢が少ないのが不満なようだ。
敵が一箇所に集まっていて素早く叩きつぶしたいという焦りもあるのだろう。
「たしなめましょうか?」
突然ブラウナーの背後から声を掛けたのはティアナ・ティーグル中佐だった。
一瞬驚いたが、ブラウナーは無理して笑ってから答えた。
「いや、良いよ。下手に言っても良い訳にしかならないし。事実だし」
「いいえ、ブラウナー司令官はしっかりやっておられています。駐留させているのは村の防衛の他に交流を図るため、相手に離反しないようにするためです。警戒線も猿人族の行動を阻害するためです。彼らに任せたら、敵を追いかけて疲弊して逃げ帰ってくるのがオチです」
ブラウナーの作戦は消極的だったが、ティアナの指摘するとおり、各所を守り村々が離反するのを防ぐ効果があった。
反発が生まれたことも確かだったが、兵士相手の商売などが行われた事もあり、概して好意的に思われている。
「しょうが無いよ。後ろにいたのも事実だ」
だが、軍で有る限り、そして特に尚武の気風の強い王国軍ではブラウナーのやり方は泥臭く、明確な戦闘も勝敗もない地味なものだ。
「ですが確実に成果を上げています。状況が改善されているのは事実で先日は猿人族が帰順しました。それに後方にいたのも物資の発注や手配、輸送などで彼らが飢えないようにするためです。飢えて動けなくなれば戦いどころではありません」
「ありがとう。けど、これは俺の問題だ。自分で何とかするよ。まあ、出来ない事があったら一寸手伝ってくれ」
「はい」
そう言ってティアナと別れた。
「まあ、仕方ない面もあるけどな」
ブラウナーは、兵士出身で士官学校を出ていない。彼らとほぼ同年代で兵士からの昇進で上官と言うことにも不満があるようだ。
「さてどうしたものかね」
推薦で少尉に任官したときも似たような事があった。回りの士官から白い目で見られて居心地が悪かった。
「まあ、気にしてもしょうが無い」
ブラウナーは、厄払いとばかりに、兵隊の集まる酒保に向かった。
兵隊出身なので兵隊相手の方が気楽だ。
勝利を目前にブラウナーは部下達と共に大いに酒を飲んだ。
アムハラに帰った昭弥は、再び猿人族族長との連絡を取り、双方が協定を遵守することを確認。正式に承認した。
公式に猿人族が恭順する事が決まり、猿人族のテリトリーとの境界線で調印式が行われた。
「何とかなったね」
「まだ終わっていませんよ」
ホッとしている昭弥をブラウナーが注意した。
そう、終わった訳ではなかった。猿人族の過激派の連中がまだ、行動しているのでその討伐が残っている。
しかも、割譲される予定のクソウズの近くに陣取っている。
これを撃破しない限り、終わらない。と言うより、手に入れないと昭弥としては拙い。
「准将、出動の準備は?」
「出来ています」
交渉前から猿人族の中に過激派が居るのは知らされていた。なので昭弥は討伐を命じ、ブラウナーは部隊の準備をしていた。
今度は猿人族が多くが味方なので、補給線の確保などが確実に行えそうなので、大変楽だ。それに過激派の拠点は一箇所の最大拠点に半数以上が集まっていることも分かっている。
これを叩きつぶすだけなので本当に楽だ。
「後は司令官の承認のサインが入った命令書あれば大丈夫です」
「あ、それなら私が貰っているよ」
「へ?」
「ここに来る前に挨拶したらブラウナーに討伐に関する一切の権限を渡すと言っていた」
「あのリュウマチ持ち何処まで動かない気だ」
自分の司令官に悪態をついてから、ブラウナーは命令書を確認した。
「確かに命令書を確認しました。しかし、お手数を掛けて申し訳ありませんね」
「いや、構いませんよ。それより討伐をお願いします」
昭弥は何としてもクソウズを確保したくてブラウナーにお願いした。
「全軍進め」
討伐作戦の事実上最後の作戦行動が開始された。
参加兵力は、一四個歩兵大隊、一〇個アクスム軽歩兵大隊、四個騎兵大隊の合計二八個大隊、人員一万八〇〇〇名だ。
これを五つの部隊に分けて、四つを独立部隊として前進させ敵の本拠地で合流させる。
残りは安全が確保され次第、迅速に移動し本拠地を攻撃する、若しくは独立部隊が不利な状況に陥ったときに送る予備兵力の位置づけだ。
それぞれスコット大佐、アグリッパ大佐、ミード大佐、ティーグル中佐が率いて前進する。
獣人主力のアクスム軽歩兵大隊を混ぜることになるが、だいぶわだかまりが無くなってきたようでトラブルは少なくなっている。
やはり共同作戦が仲をよくしたようだ。
移動と輸送には、軽便鉄道がフル稼働した。何より、猿人族のテリトリーを分断するように敷設したため、移動経路に事欠かず、部隊や物資を迅速に移動させる事が可能だった。
新たな路線建設でも融和派の猿人族の支援が受けられ、目的地まで伸ばすことが可能だった。
そして過激派猿人族の抵抗が殆ど無いことが進撃を容易にしていた。
「あそこか」
短期間の内にブラウナー率いる討伐軍は過激派が根拠地に到着した。
過激派が根城にしているのは険しい岩山で、登り口が限定される上、容易に上ることも出来ない。所々、横穴もあり、防御力は高い。
平押しでは攻略は困難とみられていた。
「攻撃準備だ。攻城戦準備」
ブラウナーは岩山を城と想定して攻撃準備を始めた。
全兵力を動員して、包囲網を敷くと共に、平行壕、塹壕を作り、敵の攻撃を防ぐ陣地にする。同時に徐々に岩山に近づけさせ突撃の準備を整えさせた。
更に軽便鉄道を延長して、陣地近くに集積所を設けて、長期戦に備えることにした。そして、攻城戦の主力となる攻城砲を持ってこさせた。
ジャングルの中を普通に通すとすると、泥濘に嵌まるなりして輸送が困難だが、軽便鉄道は輸送力が小さくても、大砲のような重量物を運ぶことに優れている。
それに攻城砲は分解して運ぶことが可能であり、一つ一つの部品は簡単に運ぶことが出来た。
「順調に出来たな」
ブラウナーとしては満足のいく結果だった。後は総攻撃を開始するだけだった。
それは、攻撃開始前夜の事だった。ブラウナーは中々眠れず、ベットから起き上がり、自分のテントを出て司令部のテントに向かおうとしたときだった。
「司令官は慎重すぎではありません?」
「確かに度が過ぎているところがあるわね」
「とっとと突撃しちまえばいいのに」
将校クラブとして使われているテントの中から指揮下にいる連隊長達の話し声が聞こえてきた。
「たかが獣人の為にこれほどの攻城戦が必要とは思えません」
「兵力過多よね。密林の中に入れて待つようにだって。本人はアムハラでゆっくりしているだけだし。まあモフモフを堪能出来るのは良いけど」
羊人族の村に駐留していたとき、羊人族の少女のモフモフ感を思い出しながらスコット大佐は答えた。
「これまでも兵力を集めて大半を後ろで遊ばせたり、守備に回したりして、やる気があるのか疑問だったぜ。森を切り開いて鉄条網を作って線路を敷くだけだぜ」
「まあ今回は久方ぶりの大規模戦闘だから不満は無いけど」
「これでも過剰なくらいですわ」
「暴れられるのは歓迎だけどな」
「それは同意見だけど、あなたは少し抑えなさい。でも一寸過剰なように思えるわ。連中が十分な武器を用意出来るはずないのに」
「今までも十分戦果を上げているんです。もっと自由に戦闘が行いたいものです」
大規模な戦闘が無いため、不満が高まっているようだった。久々の大規模戦闘も、苦情線でブラウナーが統制を取っていて自由な選択肢が少ないのが不満なようだ。
敵が一箇所に集まっていて素早く叩きつぶしたいという焦りもあるのだろう。
「たしなめましょうか?」
突然ブラウナーの背後から声を掛けたのはティアナ・ティーグル中佐だった。
一瞬驚いたが、ブラウナーは無理して笑ってから答えた。
「いや、良いよ。下手に言っても良い訳にしかならないし。事実だし」
「いいえ、ブラウナー司令官はしっかりやっておられています。駐留させているのは村の防衛の他に交流を図るため、相手に離反しないようにするためです。警戒線も猿人族の行動を阻害するためです。彼らに任せたら、敵を追いかけて疲弊して逃げ帰ってくるのがオチです」
ブラウナーの作戦は消極的だったが、ティアナの指摘するとおり、各所を守り村々が離反するのを防ぐ効果があった。
反発が生まれたことも確かだったが、兵士相手の商売などが行われた事もあり、概して好意的に思われている。
「しょうが無いよ。後ろにいたのも事実だ」
だが、軍で有る限り、そして特に尚武の気風の強い王国軍ではブラウナーのやり方は泥臭く、明確な戦闘も勝敗もない地味なものだ。
「ですが確実に成果を上げています。状況が改善されているのは事実で先日は猿人族が帰順しました。それに後方にいたのも物資の発注や手配、輸送などで彼らが飢えないようにするためです。飢えて動けなくなれば戦いどころではありません」
「ありがとう。けど、これは俺の問題だ。自分で何とかするよ。まあ、出来ない事があったら一寸手伝ってくれ」
「はい」
そう言ってティアナと別れた。
「まあ、仕方ない面もあるけどな」
ブラウナーは、兵士出身で士官学校を出ていない。彼らとほぼ同年代で兵士からの昇進で上官と言うことにも不満があるようだ。
「さてどうしたものかね」
推薦で少尉に任官したときも似たような事があった。回りの士官から白い目で見られて居心地が悪かった。
「まあ、気にしてもしょうが無い」
ブラウナーは、厄払いとばかりに、兵隊の集まる酒保に向かった。
兵隊出身なので兵隊相手の方が気楽だ。
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