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第一部第四章
東方機動戦 前編
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「正面の敵の数は?」
アッシュール正面にいた周の軍勢の司令官は尋ねた。
「偵察の報告だと、一〇〇〇程だとの事です」
「先の戦では、二万はいたが」
「岸の奥に隠れているのかもしれません。あるいは、毛将軍の軍勢を撃破するために南下したのかもしれません」
「ふむ、あり得るな」
バビロン攻撃部隊からの報告では、毛の軍勢を襲撃した敵部隊に、自分の正面にいた第九師団も参加していたと言う。
「敵は少数だろう。翌朝、渡河を行い橋頭堡を確保する。さあ準備せよ」
「将軍様、川船は一万人分しか有りませんが」
「十分だ。正面の敵は一〇〇〇程度。蹴散らせる」
アッシュールに残った砦に配置された独立守備隊を率いていたのは王国軍でも有名なオリバー・ミード中佐だった。
何故、有名かというとスコット中将と同年齢の士官だからだ。
スコット中将と違い、男爵位を持つ貴族だったが、軍人が天職であり、前線任務を好んだため、昇進に必要な中央での勤務を拒み続けてきたため、中佐のままだった。
また、若い頃一度反乱軍に加わり、捕らえられて牢獄に入れられ降格、降爵処分を受け、出世コースから外れたという理由もあった。
彼が牢から出ることが出来たのは、外国からの侵略があったため指揮官が必要だったからである。
領地を持っていたが、軍人が性に合っているため、早々に長男に譲り、自分は望んだ軍人ライフを過ごしている。
ただ周囲は、特に彼より階級の高い指揮官は迷惑だと思っていた。
自分の父親と同年齢の戦歴豊富な部下というのは、命令しづらい。
そのため、同年齢のスコット中将の元に押しつけられるように配属された。
そのミード中佐は攻撃が始まる前、砦の自室にて椅子に座って
「……ぐーっ」
寝ていた。
居眠りではない。熟睡である。
その証拠に自ら毛布にくるまり、椅子に座っていた。書類整理の途中で寝たのではない。
だが、夜明け近くになって目を見開き呟いた。
「戦だ」
毛布をはね除けると、立ち上がって副官を呼んで指示した。
「非常呼集! 総員戦闘態勢。ただし頭を出すな。砲撃を喰らうぞ」
砦内の部隊が次々と配置に付く。開戦時の攻撃で主な施設は破壊されていたが、鉄道建設員の協力もあり迅速な応急修理を行い最低限戦う準備は整えていた。
「敵接近」
「まだじゃ。敵が浜に着いたとき大砲を撃つんじゃ」
焦る部下をミード中佐は抑えて、時機を待つ。
やがて周の軍勢が川船を浜に着けた。
「撃て!」
ミードの命令と共に浜に着いて船が止まったところに砲撃を浴びせた。
集まっていた周軍にとってはたまったものではない。
「敵の砦に向かって突撃せよ」
だが、周軍の数は多く、生き残った者は多かった。
「砦に向かって突撃しろ」
後続を援護するためにも、上陸した部隊は砦を排除しようと突撃した。
幸いにも銃撃は少なく砦に接近できたが
「な、なんだこれは」
二〇メルほど前で鉄条網によって足止めされた。
そして二〇メルは、マスケット銃の有効射程だった。
「撃てッ」
一斉射撃を浴びた周軍は次々と倒れて行く。前進しようにも鉄条網が邪魔。後退しようにも味方が多くて下がれない。
集まったところに、大隊砲も射撃に加わり散弾の雨が降り注ぐ。
「敵を撃退しました」
「よし、敵はまだまだいる。負傷者を収容。弾薬を補充しろ。直ぐに敵は来るぞ」
「はい」
部下が気のない返事で答えたのを聞いたミードは言った。
「心配するな味方は直ぐに来てくれる。それにこの砦は簡単には落ちん」
「は、はい」
「南側が手薄ですが」
「構わん。中央と北側に集めろ」
その後数回に及ぶ突撃を行っても砦は落ちなかった。
「あんな小さな砦に何を手間取っている!」
「鉄の茨が邪魔して突撃できません」
「迂回しろ」
いくら大河とは言え上陸できる地点は限られている。更に川船が足りないため、効率よく兵を運ぶために、移動距離を短くしようと集結地から離れないように設定するしかなかった。そのため砦の正面に突撃することになってしまった。
だが、被害が大きいと迂回せざるを得なかった。
昼過ぎには、迂回部隊を編成し、手薄な南側、川下に上陸し進軍を開始した。
だが、そこにアッシュール救援のため鉄道輸送で急行してきた第九師団の突撃を周の軍勢は受けてしまう。
横腹を見せていたこともあり、周軍は大損害を受けて撃退された。
「どういう事だ! 偵察では敵は一〇〇〇程度ではなかったのか!」
迂回部隊が壊滅した報告を聞いた彭は、部下を問い詰めた。
「はい、昨日の偵察では確認できませんでした」
「では何故これほど多くいるのだ!」
「敵は後方に隠れていたのかも知れません。兵は平坦な場所なら、一刻の間に六里(周の単位で六キロ)を歩めます。早馬による報告を受けて、早足で駆けつけて来たに違いありません」
偵察では川の周辺を捜索するのが限界だ。最長でも三〇里(三〇キロ)までが限界で、それより遠くの敵を見つける事は出来まい。
「仕方ない。他の部隊の渡河を急がせろ」
こうなれば敵の増援以上の兵力を投入して強引に攻め落とすしかない。
敵は強行軍で移動してきており兵力が少ないと判断してのことだ。
しかし、王国軍は鉄道輸送により更に増強を進め最終的には三個師団三万人に増強され、橋頭堡を攻撃。
確保出来る見込みが無いため彭は撤退を決断し夕方までに、撤退した。
「どういう事だ! 敵は二万程度では無かったのか。三万はいたぞ!」
「はい、敵の増援があったようです」
「信じられん」
ユーフラテス川はルビコン川から離れている。増援は最短でも一月はかかると計算していた。
「まだ増援があるかもしれん。暫く様子を見る」
川船の数が足りないので上陸を見合わせたのは、当然だった。
アッシュール正面にいた周の軍勢の司令官は尋ねた。
「偵察の報告だと、一〇〇〇程だとの事です」
「先の戦では、二万はいたが」
「岸の奥に隠れているのかもしれません。あるいは、毛将軍の軍勢を撃破するために南下したのかもしれません」
「ふむ、あり得るな」
バビロン攻撃部隊からの報告では、毛の軍勢を襲撃した敵部隊に、自分の正面にいた第九師団も参加していたと言う。
「敵は少数だろう。翌朝、渡河を行い橋頭堡を確保する。さあ準備せよ」
「将軍様、川船は一万人分しか有りませんが」
「十分だ。正面の敵は一〇〇〇程度。蹴散らせる」
アッシュールに残った砦に配置された独立守備隊を率いていたのは王国軍でも有名なオリバー・ミード中佐だった。
何故、有名かというとスコット中将と同年齢の士官だからだ。
スコット中将と違い、男爵位を持つ貴族だったが、軍人が天職であり、前線任務を好んだため、昇進に必要な中央での勤務を拒み続けてきたため、中佐のままだった。
また、若い頃一度反乱軍に加わり、捕らえられて牢獄に入れられ降格、降爵処分を受け、出世コースから外れたという理由もあった。
彼が牢から出ることが出来たのは、外国からの侵略があったため指揮官が必要だったからである。
領地を持っていたが、軍人が性に合っているため、早々に長男に譲り、自分は望んだ軍人ライフを過ごしている。
ただ周囲は、特に彼より階級の高い指揮官は迷惑だと思っていた。
自分の父親と同年齢の戦歴豊富な部下というのは、命令しづらい。
そのため、同年齢のスコット中将の元に押しつけられるように配属された。
そのミード中佐は攻撃が始まる前、砦の自室にて椅子に座って
「……ぐーっ」
寝ていた。
居眠りではない。熟睡である。
その証拠に自ら毛布にくるまり、椅子に座っていた。書類整理の途中で寝たのではない。
だが、夜明け近くになって目を見開き呟いた。
「戦だ」
毛布をはね除けると、立ち上がって副官を呼んで指示した。
「非常呼集! 総員戦闘態勢。ただし頭を出すな。砲撃を喰らうぞ」
砦内の部隊が次々と配置に付く。開戦時の攻撃で主な施設は破壊されていたが、鉄道建設員の協力もあり迅速な応急修理を行い最低限戦う準備は整えていた。
「敵接近」
「まだじゃ。敵が浜に着いたとき大砲を撃つんじゃ」
焦る部下をミード中佐は抑えて、時機を待つ。
やがて周の軍勢が川船を浜に着けた。
「撃て!」
ミードの命令と共に浜に着いて船が止まったところに砲撃を浴びせた。
集まっていた周軍にとってはたまったものではない。
「敵の砦に向かって突撃せよ」
だが、周軍の数は多く、生き残った者は多かった。
「砦に向かって突撃しろ」
後続を援護するためにも、上陸した部隊は砦を排除しようと突撃した。
幸いにも銃撃は少なく砦に接近できたが
「な、なんだこれは」
二〇メルほど前で鉄条網によって足止めされた。
そして二〇メルは、マスケット銃の有効射程だった。
「撃てッ」
一斉射撃を浴びた周軍は次々と倒れて行く。前進しようにも鉄条網が邪魔。後退しようにも味方が多くて下がれない。
集まったところに、大隊砲も射撃に加わり散弾の雨が降り注ぐ。
「敵を撃退しました」
「よし、敵はまだまだいる。負傷者を収容。弾薬を補充しろ。直ぐに敵は来るぞ」
「はい」
部下が気のない返事で答えたのを聞いたミードは言った。
「心配するな味方は直ぐに来てくれる。それにこの砦は簡単には落ちん」
「は、はい」
「南側が手薄ですが」
「構わん。中央と北側に集めろ」
その後数回に及ぶ突撃を行っても砦は落ちなかった。
「あんな小さな砦に何を手間取っている!」
「鉄の茨が邪魔して突撃できません」
「迂回しろ」
いくら大河とは言え上陸できる地点は限られている。更に川船が足りないため、効率よく兵を運ぶために、移動距離を短くしようと集結地から離れないように設定するしかなかった。そのため砦の正面に突撃することになってしまった。
だが、被害が大きいと迂回せざるを得なかった。
昼過ぎには、迂回部隊を編成し、手薄な南側、川下に上陸し進軍を開始した。
だが、そこにアッシュール救援のため鉄道輸送で急行してきた第九師団の突撃を周の軍勢は受けてしまう。
横腹を見せていたこともあり、周軍は大損害を受けて撃退された。
「どういう事だ! 偵察では敵は一〇〇〇程度ではなかったのか!」
迂回部隊が壊滅した報告を聞いた彭は、部下を問い詰めた。
「はい、昨日の偵察では確認できませんでした」
「では何故これほど多くいるのだ!」
「敵は後方に隠れていたのかも知れません。兵は平坦な場所なら、一刻の間に六里(周の単位で六キロ)を歩めます。早馬による報告を受けて、早足で駆けつけて来たに違いありません」
偵察では川の周辺を捜索するのが限界だ。最長でも三〇里(三〇キロ)までが限界で、それより遠くの敵を見つける事は出来まい。
「仕方ない。他の部隊の渡河を急がせろ」
こうなれば敵の増援以上の兵力を投入して強引に攻め落とすしかない。
敵は強行軍で移動してきており兵力が少ないと判断してのことだ。
しかし、王国軍は鉄道輸送により更に増強を進め最終的には三個師団三万人に増強され、橋頭堡を攻撃。
確保出来る見込みが無いため彭は撤退を決断し夕方までに、撤退した。
「どういう事だ! 敵は二万程度では無かったのか。三万はいたぞ!」
「はい、敵の増援があったようです」
「信じられん」
ユーフラテス川はルビコン川から離れている。増援は最短でも一月はかかると計算していた。
「まだ増援があるかもしれん。暫く様子を見る」
川船の数が足りないので上陸を見合わせたのは、当然だった。
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