101 / 319
第一部第四章
モンロー会戦 後編
しおりを挟む
「全部隊前進せよ!」
ユーエル率いる部隊が前進を開始し、アクスム軍を攻撃し始めた。
貨物列車を複数編成後続させ、一個師団分の兵力を送り込んできた。
この辺りの地形に詳しく、迅速に部隊を移動させる事が出来るだろうというラドフォードの考えから、彼女が指揮官となった。
その目論見は見事に当たり一挙に側面を突いた彼女たちは、アクスム軍を追撃して行く。
大規模な操車場のない、線路脇での作業のため、送り込める兵力は少なかったが、着実に増えてゆき、アクスム軍を圧迫。
敵船団が逃走したこともあり、簡単に潰走させた。
「やむを得ん。全軍急速離脱」
離脱を次席指揮官は命じ、本隊と合流するべく西に走った。
敵の数は少ないが、装甲列車の支援を受けている上、補給がないので長時間の交戦は無理だ。損害が出る前に脱出する事にした。
だが、敵の前進が早い。このままでは部隊の多くが敵に捕捉されてしまう。
「妨害を続けろ!」
状況不利であり、少しでも敵の追撃を抑え、モンローにいる味方と合流しなければならない。
だが、問題はモンローの王国軍が自分たちを通してくれるかどうかだ。
「敵が接近してくる。全大隊迎撃用意!」
モンローの東側に配置されていたアデーレの連隊に迎撃命令が下った。
彼女たちの連隊は前進しドラッヘ率いるアクスム軍を迎え撃つ。
「ライフル中隊は出すな! 獣人の方が能力は上だ。大隊方陣を敷いて迎撃せよ」
全ての中隊が方陣を組んで迎撃の準備を整えた。
一辺が一個中隊、二百人程の歩兵で作られた人間の壁がアクスム軍を迎え撃つ。
「四方に大砲を配備して敵を迎え撃て」
「敵に頂点が向いていますけど」
ガブリエルが質問した。出来た方陣を頂点毎に繋いで横一列に並ばせている。
結果、歩兵は敵に対して斜めに向いている事になり、真っ直ぐ撃つことが出来ない。
「良いんだよ。これで」
アデーレはガブリエルを落ち着かせると敵の様子を探った。
思った通りこちらが斜めに向いているのをチャンスと見て不用意に接近してきた。
「大砲撃て!」
まず敵に対して正面に配置した連隊砲と大隊砲が火を噴いた。最大の弱点である頂点に正面から突撃してきた敵を散弾の雨が襲い撃滅した。
アクスム兵は正面からの攻撃を避けて大砲の射界から離れ、左右に散った。
「続いて歩兵、射撃開始」
斜めの隊列に突っ込んできたアクスム兵もタダでは済まなかった。左右斜め前方の戦列から銃撃が放たれクロスファイアーを喰らい次々と倒れて行く。
しかも大砲の射界に入るのを嫌がり左右の兵が集まり密集していたこともより被害を増大させることに繋がった。
アデーレの作戦は見事に嵌まり、アクスム兵は次々と倒れて行く。
「上手く行ったねえ」
アデーレは満足して、戦果を見ていた。
敵はあまりの被害を受けて後退している。このまま膠着状態になるかと思われたが、敵の後ろからオスティアから出撃した部隊が攻めてきた。
徹底した攻撃で、次々とアクスム軍を撃破して行く。アデーレの部隊が金床となり、攻めてきた部隊がハンマーとなってアクスム軍を追い上げ、キリングゾーンに追い込んでいる。
「やりますね。一体何処の人達でしょう」
「さあな」
ガブリエルが感嘆するが、アデーレは淡泊、と言うか少し表情固めに答える。
やがて目に見える敵を撃破した後、前線で指揮をしていた指揮官がやって来た。
見ると、何と女性で中将の階級章を付けていた。
軍団長レベルで前線に立つ事はない。
「肝っ玉のある人だな」
とガブリエルは思ったがアデーレはいよいよ無口になった。そして、向こうがこちらに気が付くと、駆け寄ってきた。
「お姉様!」
大声で叫ぶとアデーレに抱きついてきた。
「お会いしたかったですわ」
「ユーエル……」
「お、ユーエル」
「あ、ユーエルちゃんだ。おひさー」
アデーレと合流したテオドーラ、クリスタがそれぞれユーエルに挨拶した。
「……知り合いなんですか?」
顔を引きつらせながらガブリエルが尋ねた。
「私のお姉様ですわ!」
「士官学校時代の後輩だ」
「あたし達の同期だよ。姉御の一期下」
元気よく答えるユーエル、気のない返事のアデーレ、淡々と話すテオドール、その周りで子犬のように走るクリスタと中々、カオスな状況だ。
「色々と面倒を見てくださったんです」
「先輩として指導しただけだ。商家出身で貴族の多い士官学校は大変だったろう」
「あー」
士官学校は下級とはいえ貴族出身者が殆どだ。その中に商家出身の女性が入るのは浮くだろう。姉御肌のアデーレの事だから色々面倒を見たに違いない。それが不安でいっぱいだった彼女に懐かれる原因になったんだろう。
「じゃあ、大隊長も貴族」
「子爵家のご出身です」
「半ば家出同然で出てきたからもう関係ない」
「家に帰らないんですか」
「社交界デビューが嫌だったんだよ。もっともこれじゃあデビュー出来ないだろうが」
そう言って眼帯を指して言った。
「お姉様酷いですわ。自分だけサッサと予備役に入ってしまうなんて」
「目を失ったからな。お前は大丈夫だろう」
「お店を開いていて毎日通っていましたのに、突然へ移転してどこかへ行ってしまうなんて」
「地方の方が活気があったんだよ」
ウンザリした表情でアデーレが答えた。
どう見てもユーエルの行動に辟易して逃れてきた、としか見えない。色々な理由が彼女だったのか。
「お姉様、お久しぶりにお姉様の食事を頂きたいですわ」
「夕食後馳走してやるから、合流したことを上官に報告してこい」
「はい!」
そう言うとユーエルは、すぐさま上官であるラザフォードに向かった。
「……何というか凄い人ですね」
「優秀なんだがな。何故か懐かれた」
しかし大佐に促されて行動する将軍とは、中々シュールな光景だ、とガブリエルは思った。
ユーエル率いる部隊が前進を開始し、アクスム軍を攻撃し始めた。
貨物列車を複数編成後続させ、一個師団分の兵力を送り込んできた。
この辺りの地形に詳しく、迅速に部隊を移動させる事が出来るだろうというラドフォードの考えから、彼女が指揮官となった。
その目論見は見事に当たり一挙に側面を突いた彼女たちは、アクスム軍を追撃して行く。
大規模な操車場のない、線路脇での作業のため、送り込める兵力は少なかったが、着実に増えてゆき、アクスム軍を圧迫。
敵船団が逃走したこともあり、簡単に潰走させた。
「やむを得ん。全軍急速離脱」
離脱を次席指揮官は命じ、本隊と合流するべく西に走った。
敵の数は少ないが、装甲列車の支援を受けている上、補給がないので長時間の交戦は無理だ。損害が出る前に脱出する事にした。
だが、敵の前進が早い。このままでは部隊の多くが敵に捕捉されてしまう。
「妨害を続けろ!」
状況不利であり、少しでも敵の追撃を抑え、モンローにいる味方と合流しなければならない。
だが、問題はモンローの王国軍が自分たちを通してくれるかどうかだ。
「敵が接近してくる。全大隊迎撃用意!」
モンローの東側に配置されていたアデーレの連隊に迎撃命令が下った。
彼女たちの連隊は前進しドラッヘ率いるアクスム軍を迎え撃つ。
「ライフル中隊は出すな! 獣人の方が能力は上だ。大隊方陣を敷いて迎撃せよ」
全ての中隊が方陣を組んで迎撃の準備を整えた。
一辺が一個中隊、二百人程の歩兵で作られた人間の壁がアクスム軍を迎え撃つ。
「四方に大砲を配備して敵を迎え撃て」
「敵に頂点が向いていますけど」
ガブリエルが質問した。出来た方陣を頂点毎に繋いで横一列に並ばせている。
結果、歩兵は敵に対して斜めに向いている事になり、真っ直ぐ撃つことが出来ない。
「良いんだよ。これで」
アデーレはガブリエルを落ち着かせると敵の様子を探った。
思った通りこちらが斜めに向いているのをチャンスと見て不用意に接近してきた。
「大砲撃て!」
まず敵に対して正面に配置した連隊砲と大隊砲が火を噴いた。最大の弱点である頂点に正面から突撃してきた敵を散弾の雨が襲い撃滅した。
アクスム兵は正面からの攻撃を避けて大砲の射界から離れ、左右に散った。
「続いて歩兵、射撃開始」
斜めの隊列に突っ込んできたアクスム兵もタダでは済まなかった。左右斜め前方の戦列から銃撃が放たれクロスファイアーを喰らい次々と倒れて行く。
しかも大砲の射界に入るのを嫌がり左右の兵が集まり密集していたこともより被害を増大させることに繋がった。
アデーレの作戦は見事に嵌まり、アクスム兵は次々と倒れて行く。
「上手く行ったねえ」
アデーレは満足して、戦果を見ていた。
敵はあまりの被害を受けて後退している。このまま膠着状態になるかと思われたが、敵の後ろからオスティアから出撃した部隊が攻めてきた。
徹底した攻撃で、次々とアクスム軍を撃破して行く。アデーレの部隊が金床となり、攻めてきた部隊がハンマーとなってアクスム軍を追い上げ、キリングゾーンに追い込んでいる。
「やりますね。一体何処の人達でしょう」
「さあな」
ガブリエルが感嘆するが、アデーレは淡泊、と言うか少し表情固めに答える。
やがて目に見える敵を撃破した後、前線で指揮をしていた指揮官がやって来た。
見ると、何と女性で中将の階級章を付けていた。
軍団長レベルで前線に立つ事はない。
「肝っ玉のある人だな」
とガブリエルは思ったがアデーレはいよいよ無口になった。そして、向こうがこちらに気が付くと、駆け寄ってきた。
「お姉様!」
大声で叫ぶとアデーレに抱きついてきた。
「お会いしたかったですわ」
「ユーエル……」
「お、ユーエル」
「あ、ユーエルちゃんだ。おひさー」
アデーレと合流したテオドーラ、クリスタがそれぞれユーエルに挨拶した。
「……知り合いなんですか?」
顔を引きつらせながらガブリエルが尋ねた。
「私のお姉様ですわ!」
「士官学校時代の後輩だ」
「あたし達の同期だよ。姉御の一期下」
元気よく答えるユーエル、気のない返事のアデーレ、淡々と話すテオドール、その周りで子犬のように走るクリスタと中々、カオスな状況だ。
「色々と面倒を見てくださったんです」
「先輩として指導しただけだ。商家出身で貴族の多い士官学校は大変だったろう」
「あー」
士官学校は下級とはいえ貴族出身者が殆どだ。その中に商家出身の女性が入るのは浮くだろう。姉御肌のアデーレの事だから色々面倒を見たに違いない。それが不安でいっぱいだった彼女に懐かれる原因になったんだろう。
「じゃあ、大隊長も貴族」
「子爵家のご出身です」
「半ば家出同然で出てきたからもう関係ない」
「家に帰らないんですか」
「社交界デビューが嫌だったんだよ。もっともこれじゃあデビュー出来ないだろうが」
そう言って眼帯を指して言った。
「お姉様酷いですわ。自分だけサッサと予備役に入ってしまうなんて」
「目を失ったからな。お前は大丈夫だろう」
「お店を開いていて毎日通っていましたのに、突然へ移転してどこかへ行ってしまうなんて」
「地方の方が活気があったんだよ」
ウンザリした表情でアデーレが答えた。
どう見てもユーエルの行動に辟易して逃れてきた、としか見えない。色々な理由が彼女だったのか。
「お姉様、お久しぶりにお姉様の食事を頂きたいですわ」
「夕食後馳走してやるから、合流したことを上官に報告してこい」
「はい!」
そう言うとユーエルは、すぐさま上官であるラザフォードに向かった。
「……何というか凄い人ですね」
「優秀なんだがな。何故か懐かれた」
しかし大佐に促されて行動する将軍とは、中々シュールな光景だ、とガブリエルは思った。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~
有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。
主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
異世界宿屋の住み込み従業員
熊ごろう
ファンタジー
なろう様でも投稿しています。
真夏の昼下がり歩道を歩いていた「加賀」と「八木」、気が付くと二人、見知らぬ空間にいた。
そこに居たのは神を名乗る一組の男女。
そこで告げられたのは現実世界での死であった。普通であればそのまま消える運命の二人だが、もう一度人生をやり直す事を報酬に、異世界へと行きそこで自らの持つ技術広めることに。
「転生先に危険な生き物はいないからー」そう聞かせれていたが……転生し森の中を歩いていると巨大な猪と即エンカウント!? 助けてくれたのは通りすがりの宿の主人。
二人はそのまま流れで宿の主人のお世話になる事に……これは宿屋「兎の宿」を中心に人々の日常を描いた物語。になる予定です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる