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第一部第四章

モンロー会戦 後編

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「全部隊前進せよ!」

 ユーエル率いる部隊が前進を開始し、アクスム軍を攻撃し始めた。
 貨物列車を複数編成後続させ、一個師団分の兵力を送り込んできた。
 この辺りの地形に詳しく、迅速に部隊を移動させる事が出来るだろうというラドフォードの考えから、彼女が指揮官となった。
 その目論見は見事に当たり一挙に側面を突いた彼女たちは、アクスム軍を追撃して行く。
 大規模な操車場のない、線路脇での作業のため、送り込める兵力は少なかったが、着実に増えてゆき、アクスム軍を圧迫。
 敵船団が逃走したこともあり、簡単に潰走させた。

「やむを得ん。全軍急速離脱」
 離脱を次席指揮官は命じ、本隊と合流するべく西に走った。
 敵の数は少ないが、装甲列車の支援を受けている上、補給がないので長時間の交戦は無理だ。損害が出る前に脱出する事にした。
 だが、敵の前進が早い。このままでは部隊の多くが敵に捕捉されてしまう。
「妨害を続けろ!」
 状況不利であり、少しでも敵の追撃を抑え、モンローにいる味方と合流しなければならない。
 だが、問題はモンローの王国軍が自分たちを通してくれるかどうかだ。


「敵が接近してくる。全大隊迎撃用意!」

 モンローの東側に配置されていたアデーレの連隊に迎撃命令が下った。
 彼女たちの連隊は前進しドラッヘ率いるアクスム軍を迎え撃つ。

「ライフル中隊は出すな! 獣人の方が能力は上だ。大隊方陣を敷いて迎撃せよ」

 全ての中隊が方陣を組んで迎撃の準備を整えた。
 一辺が一個中隊、二百人程の歩兵で作られた人間の壁がアクスム軍を迎え撃つ。

「四方に大砲を配備して敵を迎え撃て」

「敵に頂点が向いていますけど」

 ガブリエルが質問した。出来た方陣を頂点毎に繋いで横一列に並ばせている。
 結果、歩兵は敵に対して斜めに向いている事になり、真っ直ぐ撃つことが出来ない。

「良いんだよ。これで」

 アデーレはガブリエルを落ち着かせると敵の様子を探った。
 思った通りこちらが斜めに向いているのをチャンスと見て不用意に接近してきた。

「大砲撃て!」

 まず敵に対して正面に配置した連隊砲と大隊砲が火を噴いた。最大の弱点である頂点に正面から突撃してきた敵を散弾の雨が襲い撃滅した。
 アクスム兵は正面からの攻撃を避けて大砲の射界から離れ、左右に散った。

「続いて歩兵、射撃開始」

 斜めの隊列に突っ込んできたアクスム兵もタダでは済まなかった。左右斜め前方の戦列から銃撃が放たれクロスファイアーを喰らい次々と倒れて行く。
 しかも大砲の射界に入るのを嫌がり左右の兵が集まり密集していたこともより被害を増大させることに繋がった。
 アデーレの作戦は見事に嵌まり、アクスム兵は次々と倒れて行く。

「上手く行ったねえ」

 アデーレは満足して、戦果を見ていた。
 敵はあまりの被害を受けて後退している。このまま膠着状態になるかと思われたが、敵の後ろからオスティアから出撃した部隊が攻めてきた。
 徹底した攻撃で、次々とアクスム軍を撃破して行く。アデーレの部隊が金床となり、攻めてきた部隊がハンマーとなってアクスム軍を追い上げ、キリングゾーンに追い込んでいる。

「やりますね。一体何処の人達でしょう」

「さあな」

 ガブリエルが感嘆するが、アデーレは淡泊、と言うか少し表情固めに答える。
 やがて目に見える敵を撃破した後、前線で指揮をしていた指揮官がやって来た。
 見ると、何と女性で中将の階級章を付けていた。
 軍団長レベルで前線に立つ事はない。

「肝っ玉のある人だな」

 とガブリエルは思ったがアデーレはいよいよ無口になった。そして、向こうがこちらに気が付くと、駆け寄ってきた。

「お姉様!」

 大声で叫ぶとアデーレに抱きついてきた。

「お会いしたかったですわ」

「ユーエル……」

「お、ユーエル」

「あ、ユーエルちゃんだ。おひさー」

 アデーレと合流したテオドーラ、クリスタがそれぞれユーエルに挨拶した。

「……知り合いなんですか?」

 顔を引きつらせながらガブリエルが尋ねた。

「私のお姉様ですわ!」

「士官学校時代の後輩だ」

「あたし達の同期だよ。姉御の一期下」

 元気よく答えるユーエル、気のない返事のアデーレ、淡々と話すテオドール、その周りで子犬のように走るクリスタと中々、カオスな状況だ。

「色々と面倒を見てくださったんです」

「先輩として指導しただけだ。商家出身で貴族の多い士官学校は大変だったろう」

「あー」

 士官学校は下級とはいえ貴族出身者が殆どだ。その中に商家出身の女性が入るのは浮くだろう。姉御肌のアデーレの事だから色々面倒を見たに違いない。それが不安でいっぱいだった彼女に懐かれる原因になったんだろう。

「じゃあ、大隊長も貴族」

「子爵家のご出身です」

「半ば家出同然で出てきたからもう関係ない」

「家に帰らないんですか」

「社交界デビューが嫌だったんだよ。もっともこれじゃあデビュー出来ないだろうが」

 そう言って眼帯を指して言った。

「お姉様酷いですわ。自分だけサッサと予備役に入ってしまうなんて」

「目を失ったからな。お前は大丈夫だろう」

「お店を開いていて毎日通っていましたのに、突然へ移転してどこかへ行ってしまうなんて」

「地方の方が活気があったんだよ」

 ウンザリした表情でアデーレが答えた。
 どう見てもユーエルの行動に辟易して逃れてきた、としか見えない。色々な理由が彼女だったのか。

「お姉様、お久しぶりにお姉様の食事を頂きたいですわ」

「夕食後馳走してやるから、合流したことを上官に報告してこい」

「はい!」

 そう言うとユーエルは、すぐさま上官であるラザフォードに向かった。

「……何というか凄い人ですね」

「優秀なんだがな。何故か懐かれた」

 しかし大佐に促されて行動する将軍とは、中々シュールな光景だ、とガブリエルは思った。
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