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第一部第四章

戦時下へ

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 ルテティア王国の皆さん。私、ユリア・コルネリウス・ルテティアヌスは老若男女を問わず一人一人に語りかけます。
 今、王国は未曾有の危機に瀕しています。アクスム、周、エフタル、そして北方貴族の反乱。これらの軍勢は合わせて一〇〇万以上に上り、王国を攻め滅ぼそうとしています。対して王国の現有兵力は全てを足し合わせても二五万。帝国からの援軍を頼もうにも、セント・ベルナルドの峠は封鎖され、やって来る見込みはありません。
 だから、皆さんに頼みます。
 王国に協力して下さい。
 建国以来四〇〇年、我々はこの大地に進み、開墾し、発展させ、今日に至りました。
 最近では一事衰退も危惧されましたが、再び盛り返し未曾有の繁栄を遂げました。
 それを彼らは奪い、破壊しようとしています。
 私は決してこれを許しません。
 何故なら、それらは王国の国民全てが享受すべき物であり、他の何者であろうとそれを奪い破壊する権利は無いからです。
 ですが、彼らはやってきます。奪い破壊するためにです。
 私は、守ろうと決意し、徹底的に戦う事としました。
 しかし、敵はあまりに強大です。そのため私は王国の全てを動員して戦うことにしました。
 皆さんが驚き困惑するのは分かります。ですが、敵の攻撃に対して屈服することは、全てを奪われることとなり自分自身の破滅です。それを回避するためには、戦うしかありません。
 まして、我々が何代にも渡り、築き上げてきた王国を崩壊させないためにも。
 その意味を国民の一人一人が、魂に刻みつけているものであり、故に王国という抽象的な存在の危機では無く、自分自身の危機であると理解しているでしょう。
 だから、私は全ての国民をこの戦争に動員します。
 辛い時、苦しい時、悲しい時が訪れるでしょう。しかし、それらの試練に耐えて、結束を強め、戦い続けられると私は信じています。
 この国を存続させるため、自らの未来を掴むため、我々だけの力で戦い抜く覚悟を決め、進んで行きましょう。
 そして勝利し、平和な朝を迎えましょう



 ユリアの宣戦布告は、王国中に公布され国民の知るところとなった。
 カンザスの町にも魔術師のテレパシーを通じて受信され、町中に伝わった。
 同時に志願制だが義勇軍及び自警団の編入が発布され、町の義勇軍や自警団が軍の指揮下に入り、戦争に参加することとなる。

「トム、出征が決まった。俺も大尉として出ていくことになった」

 カンザスの町も自警団を中心に予備役などを集め、義勇軍を編成、参戦することになった。
 ガブリエルも農協青年部の部長として参加することとなり、これまでの農協での活動から新たに編成される義勇大隊の大尉、中隊長として参加することとなった。
 そんな中、ガブリエルはトムの下を訪れた。

「お前も行くよな」

 尋ねたのは新たに編成される義勇大隊の名簿にトムの名前が無かったからだ。
 トムの真意を確かめるために駅を訪れた。

「いや俺は行かない」

「何でだよ。行ってくれると心強い。大隊長が鉄兜酒場のアデーレさんなんだ。お前の事を買っているから、俺と同級の大尉にしてくれるよ」

「そうしたいんだが、出来ない」

「どうして」

「宣戦布告文とほぼ同時に、これが送られてきた」

 王国鉄道員諸君。
 先の宣戦布告文を聞き、現状を知っていると思う。我が王国鉄道の存在意義は王国への貢献であり、いかなる問題にも王国と共に解決することが使命だ。
 そのために我々は短い期間ながら全力で取り組み、多大な成果を上げる事が出来た。
 故に王国は発展し、鉄道も発展した。
 だが、この戦争はそのような関係を破壊しようとしている。
 我が王国鉄道は全力で王国に協力する。
 故に全ての鉄道員に命じる。いかなる階級、職務にかかわらず、兵員への志願を禁止する。何故なら、鉄道こそがこの戦争の勝敗を決する存在だからだ。
 鉄道は既に王国の一部となっており、鉄道なしには王国は存在せず、王国なしに鉄道は存在しない。
 そのため、鉄道が機能不全に陥ることは王国が崩壊することであり、戦争の敗北となる。
 鉄道を支えるのは、一部の人間では無く、現場で活躍する鉄道員諸君だ。部品が一つ欠けても機関車が動けないように、誰かが抜けても円滑な運行が出来ないのが鉄道だ。
 だから、決して志願してはならない。
 自分の職場が戦争の最前線であり、勝敗を決する鍵となる。
 この言葉を理解せず、愛国心だと言って兵員になるのは敵前逃亡に等しい。
 忘れるな。鉄道こそ、戦争に勝つために必要な事だと。諸君らが己の職務を果たすことが、勝利への近道であると。

「とね。だから、この駅から離れる事は出来ない」

 確かに、現在鉄道はこの町に無くてはならない存在だ。
 聞けば貴族連合は鉄道を廃止するよう求めている。
 だからこそ王国側に付く事をカンザスの町は決めた。
 しかし、鉄道が戦争によって動かなくなることは避けなければならない。
 ガブリエルは納得し、トムに答えた。

「……わかった。本当は出てきてくれたら心強いんだが」

「ありがとう。俺は、ここで皆が戦えるように頑張る。ここが俺の戦場だ」

「頼むぜ戦友」

「ああ戦友」

 トムとガブリエルは固く握手した。
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