上 下
40 / 319
第一部第三章

襲撃

しおりを挟む
 視察のために、オスティアに向かった昭弥たちの乗った列車はその日の終着駅に到着した。

「さて、今日はここで泊まりか」

 現在、王国鉄道では夜間運転は行っていない。
 列車の数が足りないし、長時間の運転についてまだデータが揃っていない。それに駅員の確保も十分ではない。万が一、夜に何かあっても対応できない。
 貨物列車による試験走行は行っているが、不十分だ。
 いずれ寝台列車、ブルートレインをこの異世界に走らせたいが、まだ先になりそうだ。
 昭弥はホテルに向かおうとしたが、冒険者のグループが駅前でたむろしていた。

「どうしたんですか?」

 昭弥は彼らに声を掛けた。

「ホテルに行って泊まらないんですか?」

「節約ですよ。ホテルに泊まる金を浮かせているんですよ」

「あー……」

 昭弥にも経験があった。宿に泊まる予算を浮かせて鉄道に乗っていたことがある。ただ、冷える夜だと風邪を引きやすい。

「安いところがありますよ」

「それでもね」

 冒険者達は、顔を見合わせた。

「軒先で泊まれる分、道ばたで野宿するよりここの方が上等だから」

「うーん」

 昭弥にとっては利用して貰い、頼って貰って嬉しいが、駅の安全とか経営と考えるとホテルに泊まって欲しい。

「だが、利用されてこそ鉄道だ」

 昭弥は決断した。
 直ぐに駅事務所に行って駅長に命じた。

「駅長、待合室を開放して彼らを泊めてくれ」

「良いのですか?」

「病気になられても困る。それに明日の列車のお客様だ。少しでも快適に利用して貰いたい」

「はい」

 駅長は待合室を開放し、彼らを中に入れた。
 彼らは驚き、感謝しながら移動してくる。

「本社に帰ったら規約を変更だな」

 一番良いのは全員がホテルを利用することだが、格安でも泊まれるとは限らない。だからと言って皆が利用する鉄道から、はね除けるわけにはいかない。

「これは大急ぎで夜行列車の準備が必要だな」

 駅員が蝋燭の付いたランプを持ってきて彼らに渡した。
 彼らは、自分たちのランプがあると言っていたが、駅員がこれを使うように言っている。火事になる可能性があるからだ。

「これがなければな」

 夜行列車を運転できない最大の理由が灯りだ。
 眠るのに暗がりが必要とは言え、トイレや緊急時に足下を照らす照明が無いと危険だ。
 蝋燭や油のランプだと列車の揺れで倒れたり、壊れて火災になる可能性がある。
 機関車や車掌車だけの貨物列車なら監視も簡単だが、乗客一人一人が灯りを必要とする旅客列車は無理だ。

「何とかしないと」


 翌日、ホテルを出た昭弥は前日の列車に乗り込み、オスティアに向かった。
 列車は昨日のように順調にオスティアに向かっている。
 だが、途中で急停止した。

「どうしたんだ」

 昭弥は、席を立ち上がり、車掌に尋ねた。

「前方の線路に置き石があったそうです。現在、撤去作業中です」

「嫌がらせかな」

 鉄道建設反対派を抑えたとはいえ、全員では無い。少数の反対派がいて未だに抗議している。だが、このような妨害行為は重罪に指定しているからよほどの事が無い限り、行わないはず。

「隣の線路にはありましたか?」

 セバスチャンが尋ねた。

「いいえ、この線路だけです」

「おかしい」

 もし嫌がらせなら、両方に石を置くはず。

「片側だけなのは、こちら側だけを止めようとしているとしか思えない」

 盗賊としての勘が働いているようだ。

「それもおかしいでしょう。こちらは川側なので止めても逃げ場所が無い。船でもあれば別ですが、船がいる様子はありません」

 対向列車が来るのは希だが、万が一やってきたら逃げ道を塞がれる可能性がある。なので反対方向の線路に置き石をするのが普通だ。だが、今回は逆だ。

「まさか」

 その時、川側から槍が列車に投げ込まれた。

「な、なんだ」

 外を覗き込むと緑色の肌をした人型がこちらに向かって槍を投げていた。

「かっぱ?」

「リザードマンです」

 緑色の肌をして水かきのある水棲人型生物だ。通常は川の中で暮らしているが時折、陸に上がってくる。昭弥も端の基礎工事で雇った事があるのだが

「襲撃するほど凶暴なのか?」

「中には」

 だが、これで理解出来た。彼らが襲撃するために置き石をしたのだ。川側に置いたのは川の方向に逃げられるからだ。

「反撃します」

 車掌が車掌室から銃を持ちだして撃ち始めた。
 盗賊対策として防御用に装備してある。載せたくなかったが、今は載せといて良かったと思う。
 だが、数挺だけでは対抗できない牽制になるが、十数人いるリザードマン相手には不十分だ。
 それに置き石を何とかしなくてはならないが、外に出られる状況じゃ無い。

「どうしたら」

 その時、客車から数人の団体がリザードマンに向かって出ていった。

「だれだ」

 見ると先日の冒険者達だった。彼らは魔術師の魔法、ファイアーボールで一撃を加えると突撃。弓と銃で牽制しつつ槍と剣を持った戦士と騎士が突っこみ倒して行く。数匹を殺されたリザードマンは、退却に移り川へ逃げ帰っていった。

「助かったのか」

 昭弥は安堵して席に腰を下ろした。
 その後、列車は置き石を撤去すると数分遅れで出発した。

「セバスチャン。彼らに報奨金を出して。あと鉄道公安隊に入らないか誘ってくれ。それと優秀な冒険者のグループには車内に武器を持ち込む許可を。他の乗客はダメだけどね。冒険者グループに何か許可書とか、車内のルールを教える講習を。それと車掌や駅員が分かりやすいように何か目印を」

「わかりました」

 セバスチャンは昭弥の言葉をメモに残した。
 列車はオスティアに向かって走り続け、無事に到着した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう
ファンタジー
なろう様でも投稿しています。 真夏の昼下がり歩道を歩いていた「加賀」と「八木」、気が付くと二人、見知らぬ空間にいた。 そこに居たのは神を名乗る一組の男女。 そこで告げられたのは現実世界での死であった。普通であればそのまま消える運命の二人だが、もう一度人生をやり直す事を報酬に、異世界へと行きそこで自らの持つ技術広めることに。 「転生先に危険な生き物はいないからー」そう聞かせれていたが……転生し森の中を歩いていると巨大な猪と即エンカウント!? 助けてくれたのは通りすがりの宿の主人。 二人はそのまま流れで宿の主人のお世話になる事に……これは宿屋「兎の宿」を中心に人々の日常を描いた物語。になる予定です。

俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラス転移したが、目覚めたジョブが最弱職だった件~

おさない
ファンタジー
ごく普通の高校生である俺こと観音崎真城は、突如としてクラス丸ごと異世界に召喚されてしまう。   異世界の王いわく、俺達のような転移者は神から特別な能力――職業(ジョブ)を授かることができるらしく、その力を使って魔王を討伐して欲しいのだそうだ。 他の奴らが『勇者』やら『聖騎士』やらの強ジョブに目覚めていることが判明していく中、俺に与えられていたのは『観光客』という見るからに弱そうなジョブだった。 無能の烙印を押された俺は、クラスメイトはおろか王や兵士達からも嘲笑され、お城から追放されてしまう。 やれやれ……ここが死ぬほどやり込んだ『エルニカクエスト』の世界でなければ、野垂れ死んでいた所だったぞ。 実を言うと、観光客はそれなりに強ジョブなんだが……それを知らずに追放してしまうとは、早とちりな奴らだ。 まあ、俺は自由に異世界を観光させてもらうことにしよう。 ※カクヨムにも掲載しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

処理中です...