貴女伝説 呉羽

葉山宗次郎

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健児

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「やはり来たか」

 山道を通って水無瀬へ攻め込んでくる軍勢を力寿丸は見下ろしながら呟いた。

「呉羽の言ったとおりになったな」

 自分達を征伐するための軍勢であり、国府に止まっていれば攻められる。
 だから軍勢が来たという知らせを聞くと大急ぎで逃げるように呉羽は言った。
 そして、いずれ水無瀬にもやってくるだろうから防備を固めるようにと指示を出した。
 最後の一人を水無瀬に入れると、柵を築いて道を塞いだ。
 そこへ朝廷の軍勢が押し寄せてきていた。

「皆、防ぐぞ!」

 力寿丸が仲間に言うと全員が大声で答えた。



「なかなかやりおるな」

 狭い山道を塞ぐように柵が設置されており、そこから弓矢を放たれ、岩を投げ落とされる。
 盾で防いでいるが、激しい攻撃の前に、いくらも持たないだろう。

「健児達に前に出るように命令しろ。そして武士達にも命じて他の尾根から向かうように伝えよ」
「はい」



「連中を近寄らせずに済んでいるな」

 柵の裏側から力寿丸は朝廷軍の様子を見ていた。
 前の国司と同じく、山道を塞ぐことで水無瀬への侵入を防いでいた。

「しかし、このまま退くとも思えないな」

 呉羽が言うには阿部は非常に優秀で激しい攻撃を加えてくる上に、攻めるのを止めないだろう。

「厳しい戦いになるのは分かっていたがなんとかなりそうだな」

 ある作戦のために少ない人数で守らなければならない力寿丸は苦戦を覚悟していたが、なんとか防いでいる。
 少しは、勝ち目があると安堵していた。
 しかし、すぐにそれが間違いであると思い知らされた。

「なんだ?」

 変な木片、長いいたの先に弓を取り付けたような者を持った集団が前に出てきた。
 彼らは弓の部分に張られた弦を引っ張り、引っかかりに掛けると矢を乗せ、力寿丸の方に向けた。

「伏せろ!」

 力寿丸が叫んだ瞬間、朝廷軍の兵士達は一斉に弩を放った。
 集められた兵士の中で体格、力に優れた者を選抜して訓練された兵士達は健児と呼ばれる。彼らは最精鋭部隊として用いられ、最新の武器を与えられる。
 今回の遠征では大陸からもたらされた弩を渡され、放たれた。
 急斜面で長弓が使えない山では持ち運びに優れ、狭い場所からでも威力のある矢を放てる弩が活躍した。

「畜生! 頭を出せねえ」

 下から放たれる雨のような矢の前に、力寿丸達は稜線の影に隠れるしか無かった。

「連中が来るぞ! 迎え撃つ準備をしろ!」

 地面から響いてくる多数の集団の足の振動から朝廷軍の接近を知った力寿丸は全員に伝えた。

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