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科野の国の鬼
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都から遠く離れた山高く谷幽の国、科野。
自然豊かで産物の多い土地だが、いくつもの山に囲まれ、谷によって隔てられているため人の往来は少ない。
また土着種族が多く、都の威令も届きにくかった。
「命が惜しくば荷を捨ててされ!」
断崖の上から谷底の道を進む一団に声が響く。
人型をしていたが大人の男より二回りほど大きく筋骨隆々とした体躯。
肌は色白だが、頭の横から黄色い尖った角が出ていた。
「ひいいっっ、出たああああっ」
「鬼だあああああっ」
鬼。
人間より体格が大きく、遙かに上回る力を出す種族。
到底、人一人の力では勝てない。
数十にいても勝てるかどうか。
武士が十数人いれば勝てるかもしれないが、ほんの数人しかいないのでは到底勝ち目は無かった。
「ゆ、弓を射よ!」
騎馬に乗った長の命令で警護の武士達が弓をつがえ放つ。
しかし、鬼は矢が届く前に谷に向かって飛び降りた。
途中、突き出た岩や、生えていた木々を足場にして落下の衝撃を吸収しつつ谷底に向かう。
そして一団の目の前に立ち塞がった。
「俺と戦おうというのか?」
「ひっ」
牙を見せつけるように口の両端を吊り上げて、鬼は一団を睨み付けた。
「うおおおおっっっ」
武士の一人が太刀を振り上げ鬼に斬りかかる。
しかし、鬼は斬撃を簡単に避けると武士の腹に拳を入れた。
「ぐはっ」
「あー、武士の連中はやっぱり硬いな」
大鎧の上から殴ったが、衝撃で殴られた場所がへこんでいた。
「ぬおおおっ」
「ふんっ」
もう一人の武士が斬りかかるが、鬼は鼻で笑うと太刀を指先で摘まんで止めた。
「なっ、くっ、ぬっ」
太刀筋を指先で止められ驚き何とか引き抜こうとしたが、鬼に摘ままれた太刀はびくともしなかった。
「はあっ」
追いはおもむろに太刀を武士ごと振り上げた。
「わ、わあっ」
突如浮き上がった武士は驚いて太刀を放したが、地面には落ちなかった。
鬼が武士の鎧を掴んだからだ。
「ほらよ!」
鬼は武士を掴んだまま振りかぶり、斬りかかろうとした武士数人に向かって投げた。
勢いよく飛び込んできた大鎧を着込んだ武士一人を受け止めることは出来ず武士達は地面に倒れ込んだ。
「に、逃げろおおおっっ」
護衛の武士が倒され、鬼に適わないと思った長が叫ぶと一団は我先にと荷や輿を捨てて逃げ出した。
「ふん! 他愛もない!」
鬼は逃げていく一団を見て溜飲を下げると、残していった物に視線を移した。
「さて、何か良い物はあるかな」
鬼は捨て去られた物の見聞に入った。
「大した物はなさそうか」
酒樽や干物の入った長持などはあったが、殆どは巻物や書物、織物などで宝物類は少なかった。
「何だこれは?」
鬼は輿を見て訝しんだ。
これまで山奥に輿を使う人間はおらず初めて見たからだ。
不思議に思い、中を見ようと仕切りの布をめくると、そこには美女が一人座っていた。
自然豊かで産物の多い土地だが、いくつもの山に囲まれ、谷によって隔てられているため人の往来は少ない。
また土着種族が多く、都の威令も届きにくかった。
「命が惜しくば荷を捨ててされ!」
断崖の上から谷底の道を進む一団に声が響く。
人型をしていたが大人の男より二回りほど大きく筋骨隆々とした体躯。
肌は色白だが、頭の横から黄色い尖った角が出ていた。
「ひいいっっ、出たああああっ」
「鬼だあああああっ」
鬼。
人間より体格が大きく、遙かに上回る力を出す種族。
到底、人一人の力では勝てない。
数十にいても勝てるかどうか。
武士が十数人いれば勝てるかもしれないが、ほんの数人しかいないのでは到底勝ち目は無かった。
「ゆ、弓を射よ!」
騎馬に乗った長の命令で警護の武士達が弓をつがえ放つ。
しかし、鬼は矢が届く前に谷に向かって飛び降りた。
途中、突き出た岩や、生えていた木々を足場にして落下の衝撃を吸収しつつ谷底に向かう。
そして一団の目の前に立ち塞がった。
「俺と戦おうというのか?」
「ひっ」
牙を見せつけるように口の両端を吊り上げて、鬼は一団を睨み付けた。
「うおおおおっっっ」
武士の一人が太刀を振り上げ鬼に斬りかかる。
しかし、鬼は斬撃を簡単に避けると武士の腹に拳を入れた。
「ぐはっ」
「あー、武士の連中はやっぱり硬いな」
大鎧の上から殴ったが、衝撃で殴られた場所がへこんでいた。
「ぬおおおっ」
「ふんっ」
もう一人の武士が斬りかかるが、鬼は鼻で笑うと太刀を指先で摘まんで止めた。
「なっ、くっ、ぬっ」
太刀筋を指先で止められ驚き何とか引き抜こうとしたが、鬼に摘ままれた太刀はびくともしなかった。
「はあっ」
追いはおもむろに太刀を武士ごと振り上げた。
「わ、わあっ」
突如浮き上がった武士は驚いて太刀を放したが、地面には落ちなかった。
鬼が武士の鎧を掴んだからだ。
「ほらよ!」
鬼は武士を掴んだまま振りかぶり、斬りかかろうとした武士数人に向かって投げた。
勢いよく飛び込んできた大鎧を着込んだ武士一人を受け止めることは出来ず武士達は地面に倒れ込んだ。
「に、逃げろおおおっっ」
護衛の武士が倒され、鬼に適わないと思った長が叫ぶと一団は我先にと荷や輿を捨てて逃げ出した。
「ふん! 他愛もない!」
鬼は逃げていく一団を見て溜飲を下げると、残していった物に視線を移した。
「さて、何か良い物はあるかな」
鬼は捨て去られた物の見聞に入った。
「大した物はなさそうか」
酒樽や干物の入った長持などはあったが、殆どは巻物や書物、織物などで宝物類は少なかった。
「何だこれは?」
鬼は輿を見て訝しんだ。
これまで山奥に輿を使う人間はおらず初めて見たからだ。
不思議に思い、中を見ようと仕切りの布をめくると、そこには美女が一人座っていた。
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