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第二部 半島確保

第一二師団少尉 中田2

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「外人部隊」

 金村中佐の答えに中田は呟いた後、少し考え込んで思い出した。
 日清戦争後に、士官、下士官が日本人で兵士を外国人で運用するフランス外人部隊を元に帝国陸軍にも外人部隊が設立されたということに。
 かねてより海援隊が運用していた部隊を陸軍が取り入れたと。
 しかし金村は目の前の士官が日本人とは思えなかった。
 大きな顔に小さい目は朝鮮半島の出身に見える。
 そもそも外人部隊という存在が疑問だ。
 日本には十分な兵士適齢期の人間がいるのにどうして、外国人をそれも中国人や朝鮮人を兵隊として使う必要があるのか。
 いまでもそう中田は思っている。だが、少なくとも戦い方に関して彼らは優れている。
 そこは軍人として認めなければならない。

「負傷者はいますか? 列車で収容しますが」
「ありがとうございます。三百名中一二四名死傷ですが、この先にも孤立した部隊がいるのでそちらを優先していただけるとありがたい」

 金村の言うとおり、中田の耳には確かにかすかだが戦闘騒音が聞こえた。

「了解しました。直ちに救援に向かいます」

 中田は敬礼を終えると、すぐさま中隊長に現状を報告する。
 当然救援に向かうことになった。

「少尉、済みませんが我らも加えて貰えませんか?」

 驚いたことに金村中佐は、無傷の部下達をまとめ上げ、救援部隊に加わりたいと申し入れてきた。

「お休みになられては、戦闘を続けられたのでしょう」

 中田は金村に言った。
 これまで中田達が来るまで戦い続けた事もあるし、純粋な気遣いもある。
 純軍事的見地から見ても、死傷者の数が三分の一を超えている。
 これは軍事の世界では全滅判定――戦闘部隊としての能力を失っている、組織的な戦闘が出来ないと判定される。
 一割の死傷者でも支障が出るため戦闘不能と判定され、責任を問われる。
 だが、金村の場合、状況が特殊すぎる。
 たった一個中隊程の兵力で、敵の近くに配備され、開戦と同時に孤立、包囲攻撃を受けていたのだ。
 損害が激しすぎて、降伏してもおかしくない
 戦い続けただけで、賞賛に値する。
 彼らが戦い続ける必要は無いし、連れて行ったとしても、戦えるかどうか、言いたくないがお荷物になりかねない。
 だが金村は真剣な表情で答えた。

「仲間を見捨てることは出来ません」

 そう言って当然のように列車に乗り込んだ。彼の部下も乗り込みはじめた。
 駅には比較的軽傷の負傷者を守備に残し、残存部隊全員が乗り込む。
 中田達が乗ってきた列車であり当然のことながら入りきらず車体の側面や屋根にも乗っている。
 だが中田の隊長は許した。
 彼らが頼りになる戦友であり、仲間を助けようという思いは痛い程分かる。
 先の日清戦争に出征しており幾度も仲間を助けたし助けられた経験があり、彼らの為に車両を提供した。

「出発!」

 汽笛を鳴らすと慌ただしく列車が出発する。
 ゆっくりと前進し、戦闘騒音が近づくと停車した。

「降車! 散開して前進!」

 停止すると金村は飛び降りて仲間の陣地に向かっていった。
 部下達も分散して向かっていく。
 その光景に中田は驚いた。
 この頃の軍隊は密集隊形が多い。火力の増大により被害が大きくなっているが、命令伝達、指揮統制の面で優れているからだ。
 何より、脱走防止、兵隊が逃げ出すのを防ぐ事が簡単だ。
 昔の兵隊は、金で雇われたり無理矢理連れてこられたため、脱走することが多くそれを防ぐために密集隊形が採用されたほどだ。
 今でも事情は変わらず列強の軍隊では密集隊形が主だ。
 分散した方が被害が少ないのだが、バラバラに散開すると逃げ出しやすくなるし、命令が届きにくい、あるいは届いても負傷を恐れてその場に止まろうとしている。
 日本陸軍は徴兵によって自国民の愛国心に訴えかけ、また学校で高い教育が施されていることもあり、散開してもある程度だが個々に活動できる兵隊が殆どだ。
 だが、日本以外の出身である外人部隊に同じ事を出来る事が、それも散開して個々に敵に向かって前進していくことが出来る事が驚きだった。

「彼らに続け!」

 中田達も外人部隊の後に続く。
 追いかけていくと仲間の守備隊を攻撃しているロシア軍が見えた。
 金村中佐率いる外人部隊は、隊列を整えると銃撃する。
 背後から奇襲を受けたロシア兵は、混乱し退却した。

「突貫!」

 そこへ金村中佐は突撃を掛けた。
 ロシア兵へ銃剣を突き出し、次々と仕留めていく。

「まったく、すさまじい」

 外人部隊の存在に中田は疑問を今も持っている。
 しかし、彼らがともに戦うだけの技量と胆力を持っている事、戦列の隣に立ったら心強い存在であることだけは認めた。
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