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第二部 半島確保

江華島事件と海援隊 ……の火事場泥棒

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 海援隊による江華島への領海侵犯と侵略である、とのちの左翼系学者の間で非難される行為であるが事実は違う。
 日本が開国した当時李氏朝鮮は典型的な中華思想の国であり、国際法など締結していなかった。
 そのため、欧州列強は条約締結を求めたが、夷狄とは結ばないと拒絶した。
 国際法は相互主義であり、相手が守るから自分も守る。
 相手が自分の領海を認めるなら自分も相手の領海を認める。
 李氏朝鮮は中華主義のため王国の威光が届く場所が朝鮮という考え方のため、国境や領海の概念が無く、国際条約締結の必要性を認めなかった。
 そのため諸外国の領海も認めず、朝鮮の領海も認められない状況であった。
 また、給水に関しては国際法により、その国の管轄部署に通達すれば認められる。
 その交渉を行う前に朝鮮側が被害が無かったとはいえ攻撃したのだから自衛と報復の為に攻撃するのは許される。
 事実、辛未洋擾でも被害を受けていなくても砲撃されるとすぐさま上陸を伴う反撃を行っており、国際的に朝鮮の攻撃に対する反撃をした海援隊の行動は許される。
 国際法を知り尽くし悪用、もとい正当に行使する龍馬は朝鮮側の攻撃を予測し、反撃を行ったのだ。 
 だが、京城へ進軍し、朝鮮を屈服させるほどの力は海援隊にも無かった。
 そこでフランスの例に習い、江華島を拠点に周囲の船舶の臨検、接収を行った。
 多数の朝鮮の船を捕らえると、そのまま抑留し、物資は没収して日本に輸送、競りに掛けて販売してしまった。
 この利益は非常に大きく、台湾出兵で多額の費用が掛かっていた海援隊の資金源になった。
 明治六年の政変で下野した薩摩系士族たちが海援隊に流入した事もあり、彼らの活躍の場を与える為にも海援隊は朝鮮沿岸各地に所属艦艇を出撃させ次々と朝鮮の船舶を拿捕していった。
 時に、上陸し朝鮮王国の役所を襲撃して金品を強奪するまでしている。
 しかも、商人達には、不足する物資を海援隊が代わりに販売したり、朝鮮の船舶に代わり輸送を請け負うことまでしていた。
 さらに接収した朝鮮の船舶も競りに掛け、海援隊に友好的な朝鮮人に販売。海援隊の水先案内人を乗せ二曳きの旗を掲げることで通行を保証するという、戦国時代の水軍、海賊のようなやり方を行い、更に利益を確保し、朝鮮王国の沿岸航路を握った。
 最終的に日本政府の要請と朝鮮王国の泣きが入り、海援隊は引き上げた。
 だが、その後も朝鮮側の攻撃がある度に、海援隊は出撃し、朝鮮半島沿岸航路を封鎖、制圧。
 海援隊に友好的な者しか朝鮮沿岸の海運を許さなくなった。
 反撃してくる朝鮮軍――猟師を中心とした猟師隊はスナイパーであり宿営地を狙撃してくるため厄介だったので船で回避しつつ、居丈高な朝鮮の役所を襲撃し、その金品や重要書類を接収――合法的な強奪を行った。
 そして日本政府には度重なる朝鮮の攻撃に対する反撃であると説明し、朝鮮王国には海援隊の活動を認めなければ封鎖を続け、最後には京城へ進軍すると脅しをかけた。
 勿論嘘だが、封鎖は続けるつもりだった。やがて冬となり、海岸部は結氷し海援隊の艦艇も引き上げたが、朝鮮の物流も途絶えることを意味する。
 京城の住民は物資不足に陥り、餓死者も出かねない状況となった。
 大院君派はなおも持久策を推進したが、民衆の不満は高まりつつあり遂に朝鮮王国は折れて海援隊の通商と沿岸航路の航行を認めた。
 こうして朝鮮沿岸の通商路を手に入れる事に海援隊は成功した。
 この後、海援隊は朝鮮の物流を半分ほど影響下に置き、重要な資金源にしている。
 特に朝鮮半島の米を日本に輸出するのは非常に儲かる。
 近代化のため工場へ労働者が移動したことによる農業人口の減少による米の減産、工場労働者増加による米の需要増があり、日本に朝鮮の安い米を販売するのは海援隊の大きな収入源となっていた。
 役所を襲撃し接収するのも大きいがボーナス程度だ。
 そのため、海援隊は半島沿岸部に詳しい。
 幾度も上陸作戦などをしているため測量を頻繁に行っていて、詳しいデータが残っているのだ。
 開戦してすぐに半島各地に艦艇を派遣し陸軍部隊上陸を支援できたのは、明治初期に朝鮮半島を荒らし回ったからに他ならない。

「嘘とはったりと実力行使か」

 明治政府に丸め込み、朝鮮王国を恐喝し、海上封鎖で接収した物品で利益を得る。
 海援隊の典型的なやり口だった。
 このやり方が嫌で、鯉之助は海援隊、ひいては海龍商会が真っ当な商売で発展するように舵を切らせたのだ。
 明治初期の野盗的な考えを持つ維新志士たちの反発を受けながら
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