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第一部 日露開戦編

建造の対価

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 革新的なドレッドノート級戦艦だったが、戦力となること――実戦証明は出来ていない。
 革新的すぎて旧式戦艦を保有している列強相手に戦争を仕掛けて証明する事が出来ない。
 そして大英帝国はボーア戦争で疲弊しており、戦争も対立している余裕はない。
 そこで、日本がロシアと戦う事で、海援隊が購入建造した準同型艦の皇海で戦う事で、ドレッドノートの卓越性を、実戦証明を行おうというのだ。
 そのために皇海建造費の一部を極秘に英国に負担して貰っている。
 英国の主要産業の一つに戦艦の売却がある。
 革新的な戦艦ならば、旧式戦艦を上回る戦力をもつのだから高額で売却できる。
 しかも高額であればあるほど、購入資金の需要、貸し付けも行える。世界の銀行として資本輸出――貸し付けを行っている英国は、軍艦売却と購入資金の貸し付けを抱き合わせて行い国益に繋げようと考えている。
 現代でも中国が途上国へインフラ整備に資本と技術を貸し付けているのと同じでありこの構造は百年前から変わらなかった。
 中国とは違い、英国は良心的で契約内容も良い内容である事も、同盟国としての援助もある事はありがたかった。

「だから売りつける時、実戦証明として戦闘詳報を提供しようというのさ。カタログスペックの一環さ」

 プラモを作る時、制作物の物語、軍艦だとどのような戦闘を繰り広げたか書き記されていると製作意欲が湧く。
 車の購入の際に何か物語があると、使うところを想像しやすくなり、購入しようとする。
 戦艦も同じであり、購入者はどのように戦うか、戦えるのかを知りたい。
 実戦に参加しているとなればなおさら欲しくなる。
 英国もそこを理解しており、鯉之助の提案を受け入れた。

「とんでもないものを売りつけておるのう。戦いの経験を売るとは」

 話を聞いていた秋山は思わず呟いた。
 戦艦は分かるが、戦闘の詳細まで売ることは理解の外だった。
 情報の収集が必要なのは観戦武官を務めた経験からも分かる。自分の見聞が海軍の、ひいては大日本帝国の将来を決めるもので有るという思いがあったからだ。
 だが、その情報を売り物にするのは想像の埒外だ。
 いくら頭脳が優れている秋山でも思いつかない。

「資本主義社会じゃ何でも商品に出来る。どのように商品にするのか考える必要があるがな」
「それだけで十分に凄い」

 戦闘詳報を売る事を思いつく鯉之助も凄かったが、それを受け入れ買い取った英国も頼もしくも恐ろしい国だと秋山は思った。
 鯉之助は情報社会となった二一世紀での記憶があり、情報の売買を肌感覚で知っている。
 だが、英国は長年の老獪さから情報の重要性を知っており、鯉之助の提案を受け入れた。
 それだけでも英国が大国となった理由が分かる。
 心強い同盟国だが、同時にその強大な力に身震いする。
 秋山は背筋が凍り、話題を切り替えた。

「しかし防護巡洋艦まで購入・建造するのはどうかと思うぞ」

 防護巡洋艦とは垂直装甲を持たず、舷側の石炭庫と水平甲板の装甲で船体を防備する巡洋艦だ。装甲が薄い分、戦艦、装甲巡洋艦の戦いには向かないが、安く建造できるためイギリスは大量に建造していた。
 七つの海を支配するイギリスは海上輸送路も長大でその全てを守るには多数の艦艇が必要であり、最低限の武装で任務を遂行できる安価な艦を大量に欲していた。
 防護巡洋艦はその条件に合うため、一九〇〇年までに百隻近くが英国で建造された。
 しかし防御力は無きに等しく、強力なロシア艦隊を相手にする日本海軍での導入はここ最近行われていなかった。
 日清戦争前は購入していたが、創設されたばかりで艦艇の数自体が足りなかったためやむをえず購入したものだ。
 だが海援隊はここ最近、建造は勿論、旧式になった防護巡洋艦を英国から購入していた。

「ウチは通商路が長いんだよ。日本近海のみの帝国海軍と違って、海龍商会は太平洋中に航路を持っているんだ」

 東アジアは勿論、アラスカ、ハワイ、赤道まで通商路を持つ海龍商会は長い輸送路を持っており、通商路の保護――敵からの防備だけでなく、事故防止や救難などの任務にも必要で二本煙突、二本マストを持つ多数の防護巡洋艦を購入・建造していた。

「しかし、防護巡洋艦じゃと戦艦同士いや装甲巡洋艦相手でさえ海戦では役に立つまい。水雷は強化しておるようじゃが」
「なに、戦い方は他にもある」
「何か企んどるな」
「知謀湧くが如しの秋山参謀ほどではない」
「海援隊と海龍商会をここまででかくした麒麟児が何を言う」
「親父に比べれば俺はまだひよこよ。建造するよう仕向けたのは無茶ぶりだがな」

 日英同盟の中に海軍条項――日本は極東海域のロシア海軍と同等のトン数の艦艇を保有する義務を有する、という条項がある。
 その条項を入れて海軍に軍艦を購入するよう仕向けたのが父親である龍馬である事を鯉之助は知っている。
 英国のみならず、海龍商会の造船所にも軍艦の発注が入るので利益になるからだ。
 相変わらず、父親はなかなかの武器商人だった。

「何か言ったか?」
「いや、なにも」

 そう言って、秘密事項――海援隊と海龍商会が設けるように仕向けたことを話さないよう鯉之助はごまかした。
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