13 / 50
第一部 日露開戦編
連合艦隊旗艦三笠
しおりを挟む
旅順攻撃の翌日の夕方、集結予定地である旅順東方四五海里にある円島沖に停泊していた鯉之助は連合艦隊旗艦三笠に呼び出された。
「東郷艦長……いや司令長官に呼び出されるとは」
戸惑いながらも内火艇で三笠に行きタラップを登った。
「戦勝おめでとうございます長官!」
甲板に上がると中佐の肩章を装着した知り合いから敬礼を受けた。
「ありがとう中佐。だが、堅苦しいのは止めてくれよ」
同い年の気安い言葉で鯉之助は話しかける。
後ろにいる沙織も黙って見ている。海軍将兵の目があるが放っておく。
長年の友人の再会を邪魔するほど沙織は野暮ではなかった。
「そうはいうがお前さんの方が階級は上じゃ」
「親の七光りだし、組織も違うよ。堅苦しくしないでくれ。予備門で学び、日清とサンチャゴで戦陣を共にした仲だろう。そういうのは抜きだ」
「それでも階級は上じゃ」
「何時からそんな律儀になったんだよ。予備門時代は子規や熊楠と悪ふざけや野球ばかりしていたくせに」
「学問は性に合わないからな。というよりおぬしも野球に変な方にのめり込みおって」
予備門で同級生だった正岡子規が野球にのめり込み学友を巻き込んで試合を行った。
それに二人は巻き込まれたが、鯉之助は少し違った方向へ向かった。
試合はするが、むしろその後、記録を作ったり試合内容の紹介記事を書くことに熱中した。
ホームラン、ストライク、ボールなどそのままの英語表記も多かったが、満塁打、右中間、左中間、走者一掃などの訳語を作り出し、口語調で書き上げ実況中継のような記事が出来た。
読んだ子規は大いに喜び、印刷して周りに配った。
そして多くの人々が野球に興味を持つ事となった。
「周りを巻き込んだ方がこちらに被害が少ない」
「お主のそういうところが恐ろしいんじゃ」
記事が好評だったのを見て文学志向だった子規は自ら記事を書くようになった。
こうして鯉之助は子規の魔の手から逃れ、大学を中退し海援隊に戻って世界に飛び出した。
「ならお前も一緒に海援隊に来れば良いだろうが」
「頭が良すぎるお主と一緒に入るなんて嫌だから築地の兵学校の門を叩いたんじゃ。お主は元から予備門なぞ似合わんかったが」
「大学ぐらいは出ておいた方が良いと思ったんだよ。まあ、海外の方が面白いから飛び出したが」
「確かに、出て行って正解じゃ。お主は親父さんのように世界で暴れ回る方が似合いじゃ。どうして長官なんぞになったんじゃ。世界を回った方が良かろう」
「一応、日本人だからな。半分しか流れていなくても、人生の半分しか住んでいなくても日本に愛着がある。この国難に出征しないでどうする」
というよりこの国難をより良く克服するためにこの人生を捧げてきたと言っても良い。
それが転生者としての醍醐味でもあり自分の存在証明だと鯉之助は思っていた。
「さあ、東郷艦長いや長官に会わせてくれ秋山中佐」
「おう、長官が、お待ちじゃ」
一発屁をかましてから艦尾にある長官公室へ連合艦隊参謀秋山真之中佐は鯉之助を案内した。
「失礼いたします。才谷長官をお連れしました」
公室内は連合艦隊の幕僚や司令官達が集まっていた。だが部屋の主は直ぐに分かった。
小柄だが、整った白い髭に知性が煌めく目を持つ男。
日本の命運をその双肩に担いだ東郷平八郎中将その人だった。
「参陣感謝いたします。緒戦での成果は貴方のお陰です」
短い敬礼と答礼の後、東郷長官は鯉之助に感謝の言葉を述べた。
「いえ、私は祖国の為に義務を果たしただけです」
「これまでのご貢献を考えれば、言葉では足りないくらいです。まして上げた戦果を考えれば」
鯉之助の夜戦の後、夜明けより連合艦隊主力による砲撃戦が行われた。
旅順砲台の反撃もあり大した成果は挙げられなかったが夜襲の戦果は確認できた。
戦艦
ペレスヴェート撃沈、ツェザーレヴィチ大破、レトウィザン大破、ポルタワ大破、ペトロハブロフクス中破、ポペーダ中破、
防護巡洋艦
アスコリド撃沈、ポヤーリン撃沈、ディアナ撃沈、ノヴィーク大破
機雷敷設艦
アムール撃沈、エニセイ撃沈
その他損傷艦多数
十分過ぎるほどの戦果だった。
ロシア太平洋艦隊の戦力は戦艦七隻、装甲巡洋艦四隻、巡洋艦一〇隻、総トン数二六万トン
対する連合艦隊の戦力は戦艦六隻、装甲巡洋艦六隻、巡洋艦一二隻、総トン数一九万トン
ほぼ互角の戦力だが、ロシア海軍は太平洋艦隊と同規模のバルト艦隊をヨーロッパに配置しており、合わせれば日本の倍の保有量を誇っている。
そして今回の戦争は日本の安全保障上最重要地域である朝鮮半島確保のために始まった戦争であり、朝鮮半島確保の為に制海権は絶対に保持しなければならない。
開戦劈頭で互角では制海権を保持出来るかどうか危うい。
そこで奇襲攻撃を敢行し撃破するのが作戦だった。
奇襲は成功し戦艦一隻を撃沈、他の艦を撃破できたのは非常に大きな戦果であり、日本側が優位に立てる環境となった。
「なにより貴官を始め様々な人員、艦船、物資を提供してくれた海龍商会と海援隊には感謝しきれません」
「ありがとうございます。父、いや坂本龍馬総帥も喜ぶでしょう」
海援隊中将才谷鯉之助は連合艦隊司令長官東郷平八郎海軍中将に礼を述べた。
「東郷艦長……いや司令長官に呼び出されるとは」
戸惑いながらも内火艇で三笠に行きタラップを登った。
「戦勝おめでとうございます長官!」
甲板に上がると中佐の肩章を装着した知り合いから敬礼を受けた。
「ありがとう中佐。だが、堅苦しいのは止めてくれよ」
同い年の気安い言葉で鯉之助は話しかける。
後ろにいる沙織も黙って見ている。海軍将兵の目があるが放っておく。
長年の友人の再会を邪魔するほど沙織は野暮ではなかった。
「そうはいうがお前さんの方が階級は上じゃ」
「親の七光りだし、組織も違うよ。堅苦しくしないでくれ。予備門で学び、日清とサンチャゴで戦陣を共にした仲だろう。そういうのは抜きだ」
「それでも階級は上じゃ」
「何時からそんな律儀になったんだよ。予備門時代は子規や熊楠と悪ふざけや野球ばかりしていたくせに」
「学問は性に合わないからな。というよりおぬしも野球に変な方にのめり込みおって」
予備門で同級生だった正岡子規が野球にのめり込み学友を巻き込んで試合を行った。
それに二人は巻き込まれたが、鯉之助は少し違った方向へ向かった。
試合はするが、むしろその後、記録を作ったり試合内容の紹介記事を書くことに熱中した。
ホームラン、ストライク、ボールなどそのままの英語表記も多かったが、満塁打、右中間、左中間、走者一掃などの訳語を作り出し、口語調で書き上げ実況中継のような記事が出来た。
読んだ子規は大いに喜び、印刷して周りに配った。
そして多くの人々が野球に興味を持つ事となった。
「周りを巻き込んだ方がこちらに被害が少ない」
「お主のそういうところが恐ろしいんじゃ」
記事が好評だったのを見て文学志向だった子規は自ら記事を書くようになった。
こうして鯉之助は子規の魔の手から逃れ、大学を中退し海援隊に戻って世界に飛び出した。
「ならお前も一緒に海援隊に来れば良いだろうが」
「頭が良すぎるお主と一緒に入るなんて嫌だから築地の兵学校の門を叩いたんじゃ。お主は元から予備門なぞ似合わんかったが」
「大学ぐらいは出ておいた方が良いと思ったんだよ。まあ、海外の方が面白いから飛び出したが」
「確かに、出て行って正解じゃ。お主は親父さんのように世界で暴れ回る方が似合いじゃ。どうして長官なんぞになったんじゃ。世界を回った方が良かろう」
「一応、日本人だからな。半分しか流れていなくても、人生の半分しか住んでいなくても日本に愛着がある。この国難に出征しないでどうする」
というよりこの国難をより良く克服するためにこの人生を捧げてきたと言っても良い。
それが転生者としての醍醐味でもあり自分の存在証明だと鯉之助は思っていた。
「さあ、東郷艦長いや長官に会わせてくれ秋山中佐」
「おう、長官が、お待ちじゃ」
一発屁をかましてから艦尾にある長官公室へ連合艦隊参謀秋山真之中佐は鯉之助を案内した。
「失礼いたします。才谷長官をお連れしました」
公室内は連合艦隊の幕僚や司令官達が集まっていた。だが部屋の主は直ぐに分かった。
小柄だが、整った白い髭に知性が煌めく目を持つ男。
日本の命運をその双肩に担いだ東郷平八郎中将その人だった。
「参陣感謝いたします。緒戦での成果は貴方のお陰です」
短い敬礼と答礼の後、東郷長官は鯉之助に感謝の言葉を述べた。
「いえ、私は祖国の為に義務を果たしただけです」
「これまでのご貢献を考えれば、言葉では足りないくらいです。まして上げた戦果を考えれば」
鯉之助の夜戦の後、夜明けより連合艦隊主力による砲撃戦が行われた。
旅順砲台の反撃もあり大した成果は挙げられなかったが夜襲の戦果は確認できた。
戦艦
ペレスヴェート撃沈、ツェザーレヴィチ大破、レトウィザン大破、ポルタワ大破、ペトロハブロフクス中破、ポペーダ中破、
防護巡洋艦
アスコリド撃沈、ポヤーリン撃沈、ディアナ撃沈、ノヴィーク大破
機雷敷設艦
アムール撃沈、エニセイ撃沈
その他損傷艦多数
十分過ぎるほどの戦果だった。
ロシア太平洋艦隊の戦力は戦艦七隻、装甲巡洋艦四隻、巡洋艦一〇隻、総トン数二六万トン
対する連合艦隊の戦力は戦艦六隻、装甲巡洋艦六隻、巡洋艦一二隻、総トン数一九万トン
ほぼ互角の戦力だが、ロシア海軍は太平洋艦隊と同規模のバルト艦隊をヨーロッパに配置しており、合わせれば日本の倍の保有量を誇っている。
そして今回の戦争は日本の安全保障上最重要地域である朝鮮半島確保のために始まった戦争であり、朝鮮半島確保の為に制海権は絶対に保持しなければならない。
開戦劈頭で互角では制海権を保持出来るかどうか危うい。
そこで奇襲攻撃を敢行し撃破するのが作戦だった。
奇襲は成功し戦艦一隻を撃沈、他の艦を撃破できたのは非常に大きな戦果であり、日本側が優位に立てる環境となった。
「なにより貴官を始め様々な人員、艦船、物資を提供してくれた海龍商会と海援隊には感謝しきれません」
「ありがとうございます。父、いや坂本龍馬総帥も喜ぶでしょう」
海援隊中将才谷鯉之助は連合艦隊司令長官東郷平八郎海軍中将に礼を述べた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す
矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。
はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき……
メイドと主の織りなす官能の世界です。
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる