上 下
95 / 163

技術の戦い

しおりを挟む
「散々な一週間だったな」

 翌週、ようやく纏まった損害報告を読み終えた忠弥は呟いた。
 ベルケの執拗な反復攻撃により一週間で皇国軍航空隊は地上と上空で保有機の半数を喪失。
 ベルケが初日に攻撃してきた本隊は勿論、師団に分遣していた機体も多くが損傷し飛行不能となっていた。

「申し訳ありません」

 出撃して撃墜された相原大尉が頭を下げて謝る。

「いや、仕方ないさ。ベルケの方が一枚上手だった。連合王国も共和国も大損害を受けている」

 忠弥は相原を慰めた。
 連合も共和国も皇国の航空機による戦果を見て航空兵力を投入し始めていた。そして短期間で大量の航空機を投入するまでに至っていた。
 それをベルケは一週間で壊滅状態にしてしまった。
 寧ろベルケへの対応策がなかったために皇国よりも酷い状況――皇国軍の倍くらいの損害を出す事態となってしまった。

「だが、こちらも戦果がなかったわけではない。大尉が一機撃墜してくれたお陰で敵の新型の情報が手に入った」

 忠弥は相原が撃墜したハイデルベルク帝国軍の新型機が収容されたテントに入って説明を始めた。

「我々の戦闘機と同じですね」
「ああ、全く同じだ。あちこち弄って軽量化し、機動性を増すための工夫がされている」

 複葉機でありエンジンも同じだが、機体のあちこちで骨組みに対して肉抜きを行っている。
 日本海軍のゼロ戦でも使われた手で、少しでも軽くして機動性を上げようという意志が見える。

「特に特徴的なのはプロペラ同調装置だ。こいつのお陰でプロペラに装甲板を貼る必要が無くなり軽量化と機体能力の向上に繋げている」
「どこでそんな物を手に入れたんでしょう」

 帝国軍はプロペラ同調装置など作っていないはずで、そこが相原の疑問だった。
 しかし、忠弥は事もなげに推測を言う。

「我が方の戦闘機を撃墜して捕獲した機体から回収して得たのでしょう」
「我々の機体をコピーしたのですか」
「ああ、何が必要か理解して躊躇無く採用している。さすがベルケだよ」

 飛行機とは技術だ。
 技術は誰でも出来る事の積み重ねであり、忠弥が出来るのならば、ベルケにも出来る。
 ここ最近戦闘機の損失もあり、撃墜した機体を回収して自ら回収して調査し、改良を加えて投入してきたのだろう。

「厄介な敵だね」

 言葉とは裏腹に忠弥は嬉しそうに言う。
 戦争とはいえ、素晴らしい飛行機を作ろうとする姿勢、なりふり構わず、敵の技術でも積極的に分析して取り入れていくベルケの姿勢には好感が持てた。

「ですが、このままだと我々は制空権を失います。今も何処かで帝国軍の攻勢が」
「大変です!」

 その時伝令が駆け込んできた。

「ラスコー共和国軍が守るヴォージュ要塞に帝国軍が攻撃を仕掛けてきました」

 ヴォージュ要塞はラスコー軍が担当する戦線の中央にあり、ここを突破されると連合軍最大兵力を誇るラスコー軍は分断されて崩壊するだろう。

「直ちに迎撃戦闘機を送るように、とのことです」
「師団配備の航空機を移して貰えるのか」
「いえ、そのような命令は」
「無いなら無理だな。少数を送っても逐次投入となり、意味が無い」
「しかし、命令ですが」
「もう少し、待ってからにする」
「司令部は怒りますよ。場合によっては軍法会議の可能性も」
「そうだろうね。でも、打つ手はある」



 暫くして軍司令部で会議が開かれ、忠弥も呼び出されれた。

「中佐、君の戦功は十分承知している。そして我が皇国、いや、人類の英雄である事も十分に承知している」

 抑制気味に神木大将は言っていたが、忠弥に対する苛立ちが含まれているのは明らかだった。

「だが君は今は軍人だ。命令に従わなくてはならない」
「無意味な命令は拒絶するべきだと考えます」
「何故無意味と言える。味方が困っているのに向かわないとはどういう事だ」

 ここ数日、忠弥は軍司令部の命令に反して航空機を出すことを止めていた。
 それどころか派遣されていた航空機も引き上げ、自分の手元に置いていた。

「投入される兵力が少なすぎます。師団配備の戦闘機も纏めて部隊を編成し赴かなければ無理です」
「だが、武人として戦場に赴かないのはどうなのだ」
「指揮官として部下を犬死にさせるわけにはいきません。それに、敵機を撃墜するために出撃しています」

 実際、忠弥は何度も出撃していた。
 撃墜数は順調に増え、損害は減っていた。
 だがそれは残存機を集めて帝国軍の一角に集中投入する作戦であり他の地域への出撃はしない――隣であろうと助けに向かわなかった。
 そのため、忠弥達が居ない地域では、帝国軍航空隊が自由に活動し攻撃を仕掛け、砲撃を誘導していた。
 そのため攻撃を受ける地上部隊から文句が出ていたし、指揮下の兵力が損害を受けている状況に神木大将は苛立っていた。

「兎に角、命令を下す。航空大隊は現在保有する全ての航空機を以て救援に向かえ。ただし師団に分遣された機体は除く」
「出来ません。分遣された分も戻して貰って集中投入します」
「貴様hあ」
「失礼します」

 その時伝令が入って来た。

「今会議中だ」
「ですが、本国よりの訓令です。本日を以て、帝国軍は海軍、陸軍に次ぐ新たな軍として空軍を創設。航空大隊は派遣軍の指揮を離れ、空軍の指揮下に入るように、との命令です」
「なに!」

 驚いた神木大将は電文を受け取り読むと、身体が震え始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...