もしも僕がいなくなったら

第1章

支度

　翌朝。僕はあくびをして、手を上にあげて伸んびした。
　時刻は七時半。
「準備しないと。僕は転校生扱いだろうな…」
　当たり前のことである。でも無常ってくらいだから自己紹介もないだろうし、そもそも転校生というのがわからないかもしれない。
「まぁ、いいや」
　トントン。扉を叩く音がした。
「はい、どうぞ」
「朝ご飯食べに行かないか？」
　そこにはカゲの姿があった。
「あれ、部屋食じゃないの？」
「あぁ。朝はね。こっちに来て」
「わかった」
　部屋を出て、少し歩いた。いい匂いが近づいてくる。
「梅さん、おはようございます」
「おはようございます」
「あら、慎くんと愼くんおはよう」
　そうか、梅さんはカゲのことを慎くんと呼んでいるのか。
「あちらの席にお座りください」
「はい」
　食事はもう用意されていた。
「おー、おいしそうだなー」
　和食の朝食。僕はいつもパンばかり食べていたから、朝に和食を食べることなんてまずなかった。
　焼き魚やうめぼし、海苔に漬物、そして揚げと豆腐の味噌汁に炊き込みご飯。デザートはわらび餅。
　どれもおいしそうだ。
「｢いただきます｣」
　声がそろった。
「愼くんさ、今日さ学校行くでしょ」
「うん」
「無理に話しかけても駄目だからね」
「じゃぁ、どうすればいいの？」
　カゲはもぐもぐしながら言った。
「笑ったりする。表情を豊かにする。それだけ。初日はね」
「う、うん」　
　一切しゃべるなということだろうか？
「で、愼くん自身も高校生活に慣れてきたら、話しかけてみるといいよ」
「とりあえずわかった」
　カゲの言う通りにしてみるか。
「ごちそうさま」
「えっ、早くない？」
「そう？周りの人はもうとっくの間に食べ終わってるよ」
　言われてみれば、僕たちより後に来た人も食べ終わっていた。さっきいただきますしたばかりなのに。
「急げー。遅刻しちゃうよ？」
「学校って何時までに行けばいいの？」
「8時」
「えっ………」
　あと五分しかない。
「早く教えてよ…」
「えー？だって愼くんを起こしに行ったんだよ。六時半くらいに。全然起きてくれなかったからほっといた」
「………………」
　自業自得であるのか、時間を教えてくれなかったカゲが悪いのか…。
　とにかく急がなければ。
「ごちそうさまっ！」
　ドタドタドタッ。僕は走って部屋に戻り、準備した。
「面白いなぁ、愼くんは」