もしも僕がいなくなったら

第1章

明日に備えて

　夕食を終えた僕は、カゲがお風呂に入らないかと言うので入浴の準備をしていた。
「えっと、これでいいかな」
　この宿では一式揃っている。こんな宿は生まれて初めてだというくらいすごい。服はもちろん、生活に必要な最低限以上のものがある。
　ここは、ただの宿じゃないな。
「おっ、愼くん。なんだか嬉しそうじゃないか」
「うん。この宿、すごいなって改めて実感した」
「そうだね。まっ、僕はこれが普通だって思ってるから何とも感じないけど」
　この生活に慣れているからじゃないか？
「じゃ、行こうか」
　カゲはきっとこの宿に長い間お世話になっているから、これがカゲの日常なんだなと思う。
　ガラッ。勢いよく戸を開けるカゲ。
「露天風呂だ」
「そう、露天風呂」
　硫黄の匂いが漂う露天風呂。久しぶりに本格的な温泉に入った。
「今日も疲れたなぁ」
　カゲが呟く。
「おっ、愼くん明日から学校でしょ？」
「うん」
「さぼりたかったら行かなくてもいいんだよ？」
「いや、どんな高校が知りたいし」
「最初はみんなそう言うけど、飽きるよ。すぐにね」
　学校なんて飽きるに決まってる。ただの学び舎だ。学校という存在をつくった発祥の人を恨みたくなる。
「ここは自由だから。何で学校があるのか不明だけど」
「共感」
　そんなくだらない話をし続け、僕たちのバスタイムは終わった。
「明日から頑張ってみようっと」
「何もわからないうちはいいのさ」
「え？」
「いや、何でもない。頑張れ」
　カゲはコーヒー牛乳を片手に持ち、部屋に戻って行った。
「わからないほうが、いいのかもしれないけど」
　それでもいい。気になるから。