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アルス再び

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 オレはアルスと対峙する。
 黒龍は水の神殿でミトとエマで倒してくれた。エマはいないが、今回はロミとライカもいるんだ。黒龍は任せる。

 アルスがサンダーボルトを五発放ってきた。
 以前戦った時は三発が限界だったみたいだが、パワーアップしているみたいだ。
 寸前のところで転がり躱す。

 「どうだカノン、お前より俺は強くなったぞ。弟たちがお世話になったみたいだな。」

 アルスがニヤニヤと笑う。

 「そうか。サンダーボルト五発撃っただけそんなに誇れるとはアルスも大したことないな。」

 アルスは顔を真赤にして斬りかかってくる。

 「俺が教会で最強なんだ! 」

 アルスは三銃士の中で一番扱いやすい。俗に言うところの単細胞だ。
 正面から突っ込んできても簡単に対処できるさ。
 アルスの連続斬りを剣で受けて蹴飛ばす。

 「どうした。アルス。まさかそれが限界とは言わないよな。オレを失望させるな! 」

 攻めに転じる。オレのほうが速い。

 アルスはギリギリのところで受けるが、このまま押しきれそうだ。
 コンビネーションでアルスの盾を弾き、ツバメ返しを叩き込んだ。

 アルスの鎧を破壊して胸から血が出ている。

 「やっぱりこの形態だとまだお前が上か。」

 「さっさと本気を出せ。オレたちには時間がない。」

 アルスがエドガーと同じ様に咆哮を上げる。魔人化だ。

 今まで戦った誰よりも禍々しいオーラを感じる。対峙しているだけで汗が背中をつたるのが分かる。
 こいつは『ヤバい』。以前対峙したときとは比べ物にならない。オレの全細胞が危険だと告げている。

 「カノン、こいよ。本気の俺を見せてやる。」
 
 アルスが手をクイクイと動かして挑発してくる。
 警戒しながら、オレは斬りかかる。

 「おいおいそんなものか。」アルスは剣で受けながら、余裕の表情で笑う。
 
 オレは言葉が出ない。いや出せる余裕もない。
 剣を止めたら、一撃でやられる。

 アルスが距離を取り、剣を構える。

 「俺はお前に受けたこの胸の傷を毎日見ていた。忘れられるものか。次は俺が攻めるぞ! 受けてみろカノン! 」

 アルスの発するオーラがヤバい。
 戦場でずっと戦っていると『生死』が分かるようになってくる。
 これはまずい。やられる。

 俺は草薙の剣で防御態勢を取る。

 「くらえっ! ツバメ返し! 」 

 アルスの剣撃は見えなかった。
 一撃目は草薙の剣で止められたが、剣が弾かれる。
 二撃目がモロに胸に直撃した。

 鎧が割れた事と自分が宙に舞っていることしか分からない。

 衝撃で飛ばされて床に叩きつけられた。

 意識が遠ざかる。オレはここで死ぬのか。




 アルスが黒龍を召喚してから、ロミの指示で私は駆け回っていた。

 三体も相手に戦うのは初めての経験だけどロミの指示もある。
 それにロミもミトも前衛じゃないんだ。私が踏ん張らないといけない。

 黒龍は力は強いけど、私の方が速さは上だ。
 何度も飛びかかり、噛みつき爪で削る。

 一体は倒せた。このまま倒してカノンのサポートにいかないと。

 黒龍の攻撃を躱し、二体目にとどめを刺さそうをすると、ロミが叫ぶ。

 「ライカ、そいつは良い。カノンを助けて! 」

 振り返ると、カノンが飛ばされているのが見える。
 まずい、このままだととどめを刺される。

 私は反転して駆ける。
 私はどうなってもいい。カノンだけでも助けないと。今まで助けてもらったのだから。

 アルスが止めを刺そうと倒れているカノンに向けて剣を振りかざす。

 私はアルスに体当りしてスキを作る。カノンの背中を咥えて距離を取った。
 黒龍は二体。ロミとミトでは物理攻撃が防げない。
 これからどう動けば良いんだろう。

 「ライカ、こっちはなんとかなる。カノンを起こして! 呼んだら反応するはずさ。」

 ロミの叫び声の様な大きな声が聞こえた。

 咄嗟にカノンを咥えたまま後に飛ぶ。
 危なかった。さっきの場所にいたらアルスに斬られていた。

 「おい、フェンリルこれは俺とカノンの対決だ。邪魔をするな。」

 邪悪なオーラを放っているアルスが魔法を放つ。
 サンダーボルトだ。

 雷が5本飛んでくる。寸前のところで躱すが、アルスが距離を詰めて斬りかかってきた。
 一撃は食らうがなんとか距離を取る。

 血が出ているのが分かる。戦うのはつらい。痛いし怖い。
 でも私がカノンを守らないと。今までカノンが守ってくれたのだから。

 『カノン、起きて。このままじゃ。まずい。』

 カノンに呼びかけるが、反応がない。

 「追いかけっこはごめんだ。悪いが決めさせれもらう。」

 アルスがどんどん追い詰めてくる。速度では勝っているが、戦い方がうまい。
 どっちに逃げても逃げ場がなく感じてしまう。

 また私が足を引っ張ることになる。
 意を決して、カノンを降ろす。私が戦うしかない。私がアルスに勝つんだ。

 「覚悟を決めたか。来いフェンリル! 」

 私はアルスに飛びかかる。

 頭を噛みちぎろうとするが、剣で耐えられる。

 「伝説のフェンリルと戦えるとは俺も嬉しいぜ! 」

 右脚、左脚で連続で引っ掻く。アルスの胸に当たった。
 やった。このまま押し切ろう。

 アルスはダメージを気にせず反転して斬りかかる。避けられない。

 胸を斬られた。痛い。

 脚が震える。いつもこんな環境でカノンは戦っていたんだ。
 私はただ見ているだけだった。絶対に勝つんだ。

 私はアルスと対峙しながらも、ずっとカノンを脳内で呼び続けていた。
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