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エルフの里へ
しおりを挟む馬車に揺られること数日。東の果ての村についた。
森の中にエルフの里があるらしいのだが、村人も里への行き方を知らないみたいだ。
「しょうがない。森の中を歩いて探そう。」
ライカは戦闘が終わってから人間の姿に戻っていた。
移動している間に、休憩中こっそりと人目につかないところで変化をする訓練をしたが出来なかった。まだ自由に変化を扱えるわけではなさそうだ。
法則性を考えると、ピンチなときにはフェンリルに変化できると思いたいが…最近は人型で過ごしている時間のほうが多く、結局はよくわからなかった。
森の中を数時間彷徨うが、一向にエルフの里らしい場所は見当たらない。適当に探しているのが悪かったのか。
「カノン、ここさっきと同じ道。折れた枝がある。」
同じ様な道をぐるぐる回っている気がしていたが、間違いじゃなさそうだな。
「オレたちが迷っているわけではなさそうだな。」
「そう。多分、結界の魔法がかけられている。」
「その魔法が解くことはできるか。」
「無理。私にそんな力はない。」
エマでも無理か。
「ひとまず休んでご飯でも食べよう。食べながら今後どうするか考えよう。」
皆で座り、村で買った食事を食べる。
「ライカ、何か感じないか。」
「ん~。こっち側から変な感じはするけどわかんないや。」
ライカが人差し指でビシッと指刺す。
ライカの野生の感でもこちらにエルフの里があると言っているが、結界でまたここに戻されてしまう。こんなときロミがいればなんとかしてくれただろうな。
オレに出来ることをないのか。焦りだけがつのる。
『相棒、オレのことを忘れていないか。』
「クサナギか。結界を斬れるなんて言わないでくれよ。」
『俺に斬れないものはないぜ。それが結界であってもな。』
「それは朗報だ。なにが対価だ。」
『相棒は理解が速くて助かるぜ。カノンの大事な物『五感』を少しだけもらう。』
五感とは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を指す言葉だ。人間として重要な能力であるし、生死をかけて戦う冒険者にはなくなっては困るものではある。
「そうか。五感のうちどれがなくなるんだ。」
『それはランダムだ。なに少しだけだよ。少しだけ。』
少しだけでも五感を失うのは怖いが、背に腹は代えられないか。
「わかった。頼む。」
「皆、少しだけ離れていてくれ。」
草薙の剣を抜き構える。結界があると思われる場所を斬る。
今までとは景色が変わり、緑が生い茂っていて見たことがない花が咲いている。結界は破れたみたいだ。
オレは立ち眩みがして膝をついた。
「カノン、大丈夫? 」
ライカが心配してオレのそばに近寄る。
「ああ。大丈夫だ。」
今のところ視覚と触覚、聴覚は大丈夫みたいだ。残すは嗅覚と味覚か。
「何か匂いが変わったわね。別の植物の匂いがする。」
かすかに匂いはするが、他の皆が頷いているのを見るとオレが今回失ったのは嗅覚みたいだ。
「ああ。とにかく進もう。今度こそ教会より先に確保しないと殺人がまた起きる。」
新しく出来た道を進むと、矢が目の前の地面に突き刺さる。我々への牽制だろう。
「お前たちとまれ。」
木の上に三人。目の前には三人のエルフの男が立っている。真ん中の男以外、矢をこちらにかまえている。
「オレはカノン、エルフの里の族長に話があってきた。」
「族長には話はない。今すぐ立ち去れ! 」
「それはできない。教会の手がこちらに迫っているんだ。エルフの里であれ無事に済まないはずだ。」
「教会だと…少し待て。怪しい動きをすれば打つ。」
真ん中の男が耳打ちすると側近の二人が走って何処かへ行った。
「教会はなにをするのかお前は知っているのか。」
「ああ。オレたちは帝国の将軍ルノガーの直接の依頼で動いている。教会の目論見を邪魔するためだ。」
「そうか。」
「その反応だと思い当たることがあるんだろ。悪いことは言わない。水の神殿では多くの人々が虐殺された。族長と会わせてくれ。」
先程去った男が戻ってきて、真ん中の男に耳打ちした。
「わかった。お前たちついてこい族長に会わせてやる。怪しい動きをしたらどうなるかわかってるだろうな。」
弓を構えていた男たちも弓を降ろす。どうやら案内してくれるみたいだ。
男に続いて歩き始める。
数分歩くとエルフの里に着いたみたいだ。
巨大な大木が生えていて、その木を中心にエルフは生活みたいだ。
里の中にエルフの姿は見えないが、家から視線は感じる。警戒するのは分かるが少し不快だ。
「入れ。族長連れてきました。」
「ありがとう。イシリオン。旅人よまずは座ってくれ。ワシがエルフの族長だ。」
エルフの族長はお爺さんみたいだ。エルフといえば数百年生きるらしい。美形が多く人嫌いだと聞いているがその通りだ。
ここまで案内してくれたイシリオンという男も美形だ。弓を主に扱うのだろう。大きな弓が族長の後の壁に飾られている。
座って自己紹介を始める。
「はじめましてオレの名はカノンです。結界を壊して無理に押し入ってしまったことをまずは謝罪させてください。」
オレは深々と頭を下げる。
「ほう。人間にしては礼儀があるようだな。それで要件とはなんじゃ。」
族長は目を瞑って話をしている。
「チャーチル教会のことです。思い当たる節はあるでしょう。」
「ふむ。たしかにあるが、それが坊やに何の関係がある。」
「オレたちはルノガー将軍の命で帝国を周っています。エルフの里が教会の次のターゲットになるでしょう。」
「ほう。あの鼻垂れルノガーが将軍か。」
「ルノガー将軍をご存知なのですか。」
「まあな、ルノガーが少年のころに会ったが最後じゃが将軍にまで出世しておるのか。時はすぎるものじゃの。」
族長がフォッフォッフォッと笑う。族長が今何歳なのか気になる。
「族長、協力してください。血を流すのをオレは見たくない。」
「そう結論をせくな坊や。なにがあったか説明してみよ。」
帝国の状況と教会の動きを一通り説明した。
「なるほどな。」
目を閉じて話を続ける族長の表情を読み取れない。
沈黙に耐えきれずにつばを飲む。汗が出てきた。魔法具を渡してくれさえすれば、死人を見なくてすむ。
扉がバンと開く。驚いて振り返るとエルフの美女が立っていた。
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