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水の神殿へ
しおりを挟む早朝に村を出て南に進んだ。
教会に行動を感づかれる可能性もあるが、速度が第一優先だ。街道を突っ切って進む。
途中で帝国の兵士の格好をした男たち5人が検問をしていた。
「待て。お前たち止まれ。今この道は帝国の命により封鎖中だ。」
「私は帝国騎士No.Ⅱのエマ。特殊任務中。そんな報告は聞いていない。邪魔しないで。」
エマがオレたちの前に出て言った。
「待てよ。お前の顔は見たことあるぞ。カノンだな。ここでお前たちを殺せば昇格できる! 」
男たち五人が剣を抜く。
「遅い。」
エマが一瞬で五人を斬り捨てた。
疾い。バフをかけていない状態だとエマはオレよりも速い。さすがは帝国が誇る最強騎士エマだ。
「カノン、エマ強いね。」
ライカが驚いているが、オレも驚いた。ここまで強くなっていたなんて。オレもこの騒動が終わったらエマと戦いたい。
「物騒ね。死体は森に隠して、先に急ぎましょう。」
なにごともなかったような顔でエマは剣の血を布で拭き取り、話しかけてきた。
「ああ。エマが居ることが心強いよ。」
「そう。私よりカノンの方が強い。嫌味にしか聞こえない。」
死体を片付けてエマが先を歩き始める。
慌ててオレたちは進み始める。昼までには神殿に辿り着けそうだ。
南の神殿は水の神殿と言われている。水の神ウンディーネを祀っているウィル教の総本山。ウィル教はチャーチル教が台頭するまでは帝国で一番の信仰者数を誇っていた。チャーチル二世が即位してからはウィル教は廃れている。
「申し訳ないが、帝国の命令であっても協力することは出来ません。」
水の神殿にたどり着き、エマがルノガー将軍からの紙を教皇に渡したが、魔法具の引き渡しは断られた。
「なぜ。ウィル教は帝国に協力すると聞いている。」
「それとこれとは別です。【神の腕輪】はウィル教の象徴する魔法具です。お渡しすることは出来ません。」
「このままじゃチャーチル教に襲われる。」
「チャーチル教に襲われても結構。我々には戦う覚悟がある。もう出ていってくれ。」
ウィル教の教皇が手をシッシッと振った。話はここまでということか。側近の神父に案内されて外に出された。
教会を出て一旦食事を取りながら作戦会議だ。
「カノン、どうしよう。」
「ああ、困ったな。間違いなく神殿に腕輪はあるはずだ。指輪が共鳴していた。」
「そう。でもこのままじゃ研究所みたいに襲われちゃう。」
「しょうがない。取り付く島もないんだから。一旦、宿で休んで夜に忍び込んで盗もうか。」
エマが笑った。
「カノンは大胆。」
「そうか? 緊急事態だ。捜索されることには慣れているさ。ミトとライカも意見があれば言ってくれ。」
オレもエマに笑い返す。やるなら徹底的にだ。
二人は首を横に振った。満場一致だな。
宿を取り、休む。エマは帝国に報告を送ると言って出ていったが、オレは少しだけ仮眠を取ることにした。
「外も暗くなった。ご飯を食べ終えたら向かおう。」
オレが言うと皆が頷いた。
外を出ると、人通りが少ない。なにかおかしいな。なにか起こっているのだろうか。
「おい、見てみろ! 教会から火が上がっているぞ! 」
街の男が叫ぶ。
しまった。チャーチル教会に先を越されたか。
仲間と目を合わせて街を駆ける。走れば数分の距離だ。
神殿から火が上がっている。建物は直に崩れるだろう。長くは持たない。
広間に出ると、教会の格好をした男とウィル教教皇が対峙している。
「大人しく渡せばいいものを。バカな男だ。」
教会の格好をした男が笑った。
「うるさい。邪教の犬が。」
「ほざけ。さっさと魔法具を渡すんだな。まあ渡しても殺すがなっ! 」
男が教皇を何度も刺しているのだろう。教皇の白いマントは血で色が変わっている。
「めんどくせえが、自力で探すわ。あばよ。」
男が剣を振りかぶる。
オレは無詠唱でサンダーボルトを放った。
「おっと危ない。護衛は全員殺したと思っていたがな。」
男が振り返りこちらを見る。
「おやおやおや。キミはカノン君かな。会いたかったぜ。俺はサルス。お前のことがにくい三兄弟の末っ子さ。」
サルスが飛び一気に距離を詰めて斬りかかってきた。
草薙剣で受ける。剣がぶつかる音が神殿に響き渡る。
「エマとミナトは教皇を助けろ! それが終わったら建物の火を消してくれ。オレがこいつは倒す!」
「ハッ上等だ。俺は兄貴たちと違って甘くねえ。最初っから全力でぶっ殺してやる!そこらへんで転がってる雑魚みたいにな! 」
神殿の入口からここまで数多の死体が転がっていた。残念だが、どんなに強力な魔法使いでも死人は蘇らせることはできない。
サルスが叫ぶと角と羽が出る。最初から本気で来るだろう。
エマが、教皇にたどり着き、回復魔法をかける。同時にブリザードを放ち建物に移った火を消した。
ミトは後から火の矢を放った。サルスが後を振り返らずに矢を掴む。
「おっと、俺とカノンの邪魔はさせねえ、おまえらはこいつらと遊んでいてくれ。」
呪文を唱えると、床から魔獣が二体現れた。龍だ。黒龍。魔獣で最強とも言われる黒龍を召喚した。
黒龍は咆哮を上げてエマとミトに襲いかかった。
「よそ見してる暇なんてねえぞカノン! 楽しもうぜ! 」
サルスが斬りかかる。視線を外す余裕はなさそうだ。
「どうしたどうした。こんなのに兄貴は負けたのかよ。」
オレは防戦一方になる。バフをかけてもサルスが速い。スキを作りだすしかない。
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