上 下
68 / 90

エマのパーティ加入

しおりを挟む

 警戒して剣を握り締める。扉が開いた。入ってきたのは帝国騎士No.Ⅱのエマだ。

 まさかエマも教会側に付いただなんて…嘘だろ。エマと戦えばここにいる何人かは守りきれない。

 先に最大火力を叩き込む。オレは草薙の剣で斬りかかる。

 「待て。カノン、エマは仲間だ。」

 エマの後からルノガー将軍が入ってきた。エマを斬るギリギリのところで剣を止めた。

 「どうも参っておるようじゃの、カノン。まあ剣を置いてくれ。落ち着いて話そう。」

 「ルノガー将軍、さすがに焦りましたよ。」

 「ああ。すまない。遅くなった。監視を欺くのに時間がかかってな。ここもバレている可能性が高い。次回からは別の場所で会おう。クロスケ経由でカノンたちには場所を伝えるようにする。」

 「ええ。とにかく将軍も無事で良かったです。実はロミが攫われました。」

 「密偵の者から報告を聞いておる。とにかく、レミやカノンたちが無事で良かった。」 
 
 そう言うと、ルノガー将軍とエマが椅子に座った。オレも合わせて席に座る。

 「申し訳ないが、ロミを救い出すのは後回しだ。教会には帝国側から接触してみる。カノンたちには魔法具の回収を頼みたい。」

 「分かりました、ロミのことはお願いします。オレたちは南の水の神殿に向かおうかと思っています。」

 「うむ。実はそのことなんだが、エマを連れて行かないかカノン。」

 「エマをですか。」

 エマがいれば大幅に戦力アップだ。騎士時代は魔法も剣もオレと同じくらいの実力が会ったんだ。ありがたい申し出ではある。

 「そうだ。信用たる他の騎士と冒険者に北と西は念のために向かわせている。カノンたちには南と東を担当してほしい。状況を考えると教会より先行して魔法具を集めたい。帝国騎士最大の戦力を導入してもおかしくはないだろう。」

 「はい。エマをお借りします。必ず魔法具を教会より先に手に入れます。」

 「そうだな。カノンたちのことを頼むぞ、エマ。」

 エマがハッと言い、敬礼した。

 「魔法具を入手しやすいと思われる南の水の神殿に先に向かいます。その後、魔法具を手に入れれようが入れまいが、東のエルフ村に進みます。」

 「それで頼む。帝国側も手一杯でな。カノンたちには迷惑をかける。」

 「いえ。これくらいしかオレたちには出来ませんから。」

 「ところで、研究所に火をつけたのはエドガーで間違いないのか。」

 「残念ながら犯人はエドガーです。本人が言っていました。それにエドガーは魔人化していました。今はまだ人間の意識を保っていますが、今後はどうなるか分かりません。」

 「そうか…エドガーは見つけ次第、殺してくれ。すまなかった。全てワシの責任じゃ。」

 ルノガー将軍の目は寂しそうだ。

 「分かりました。オレがエドガーを止めます。」

 「他の裏切った騎士たちも同様に頼む。今後、帝国の前に立ちふさがる可能性が高いだろう。」

 沈黙が部屋を包む。由々しき事態だ。こちらが魔法具を既に一個抑えているとは言え、ロミがいないのだ。オレ自身も焦りがある。

 「皆、憂い顔をするな。大丈夫だ。いかなるピンチも帝国は乗り越えてきた。ワシもまだまだ現役じゃ。教会なんざワシが倒してやる。」

 ルノガー将軍は気を使ってくれている。これが帝国軍のトップの立ち振る舞いか。オレも参考にしないといけない。皆、不安になるのは当然なのだから。

 「そうならないように頑張りますよ。ルノガー将軍がまた腰を痛めてもいけませんからね。」

 「ハッハッハ。そう言うな、ワシは生涯現役じゃ。」

 オレも努めて明るく振る舞う。

 「今日のところは帝都を少し離れた南の村でご馳走を用意した。そこで英気を養ってほしい。向かうのは明日でいいだろう。エマは帝国の鎧は着ずにカノンたちに同行してくれ。」

 「ご配慮。ありがとうございます。」

 「ワシは行けんが、それくらいはさせてくれ。エマが地下水路を案内する。地下水路から帝都を抜けられるだろう。」

 「分かりました。今日はその村で休ませてもらいます。明日、南の神殿に向かって出発します。」

 「そうだな。カノン達とは以前と同じやり方で手紙で連絡をとろう。ワシからも送るが、この手紙は教会に見られる前提じゃ。重要な内容の伝達はクロスケにお願いしよう。」

 レミの肩にとまっていたクロスケがカァと鳴いた。

 「よし。レミはワシに付いてきてくれ。誰にも気づかれず研究に没頭出来る場所を用意しておるからな。」

 「分かりました。」

 「次、皆と会う時は魔法具を一つでも多く集めてくれ。そしてなにより、無事でいてくれ。頼んだぞ! 帝国に栄光あれ! 」

 「「「帝国に栄光あれ! 」」」

 久しぶりに帝国に栄光あれと言ったな。騎士を辞めてから初めて言った。少しだけ懐かしい気持ちになった。

 
 エマを中心に地下水路を進む。

 普段は寡黙なエマが今日は饒舌だ。

 「こっちにいったら帝都の魔法学校。こっちはギルド。全て主要の建物とつながっているの。」

 「そうか。今日はよく喋るなエマ。気を遣わせて申し訳ないな。」

 「そんなんじゃない。」



 水路を数十分進むと帝都を抜けた。外は真っ暗でこれなら誰にも見られずに村まで辿り着けそうだ。

 村に到着して指定された家に入る。

 豪華な食事と酒が用意されている。

 「ルノガー将軍も太っ腹だな。ありがたい。明日からまともな飯は食べられないかもしれないから食べておこう。」

 皆で席に着き食事を始める。少し暗いな。ロミが居ないんだ当然か。

 「ライカ、これ美味しいぞ。いっぱい食べな。」

 「…うん。」

 「ミトも今日は酒を一緒に飲もう。」

 「あんた、元気ね。わかったわよそんな目で見ないで。お酒に付き合うから。」

 オレは明るく振る舞う。ルノガー将軍を見習うオレが皆を引っ張る。

 「エマは酒飲めるようになったのか。」

 「嗜む程度。カノンなんか不自然。」

 「まあそう言うなよ。オレだって不安だ、不安だけど落ち込むのは違うと思う。オレはオレに出来ることをやるだけだ。休息も冒険者の仕事だろ。教会は必ず倒すし、ロミも救い出すさ。」

 皆が黙り込む。これはオレの本心だ。

 「そうね。私もカノンに賛成。私も今日はのむわ。ロミのことが頭から離れないけど、今は英気を養うことしかできないものね。」

 「ああそうだ。ロミにこんな姿を見られたら怒られるさ。」

 ミトが酒を一気に飲み干した。

 「私も力になる。ロミお姉ちゃんを救い出すもん。」

 「もちろんだよライカ。ロミを助けるにはライカの力も必要だ。」

 ライカもフォークで肉を刺して食べはじめた。

 「カノンに嫉妬する。カノンは冒険者じゃなく、騎士に戻るべき。」

 「オレは騎士に未練はない。そうだ、エマも冒険者になってみるか。さすがにルノガー将軍には怒られると思うが、冒険者もなかなか面白いぞ。」

 「カノンが冗談を言うようになった。生意気。」

 オレは騎士の時代には冗談は言わなかったが、変わったみたいだ。

 その後、明日に影響しないように少し抑えて酒を楽しんだ。食事はライカが全て平らげた。

 どんよりとした雰囲気も払拭できたし、明日には南の神殿だ。必ず魔法具を手に入れてやる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D
ファンタジー
辺境伯家の跡継ぎであるディンギル・マクスウェル。 隣国との戦争ではいくつも手柄を上げ、内政にも明るく、寄子の貴族からの人望もある。 そんな順風満帆な人生を送る彼に、一つの転機が訪れた。 「ディンギル・マクスウェル! 貴様とセレナとの婚約を破棄させてもらう!」 円満だと思っていた婚約者が、実は王太子と浮気をしていた。 おまけにその馬鹿王子はマクスウェル家のことをさんざん侮辱してきて・・・ よし、いいだろう。受けて立ってやる。 自分が誰にケンカを売ったか教えてやる! 「俺もクズだが、悪いのはお前らだ!!」  婚約破棄から始まった大騒動。それは、やがて王国の根幹を揺るがす大事件へと発展していき、隣国までも巻き込んでいく!  クズがクズを打ち倒す、婚約破棄から始まる英雄譚!

地球からきた転生者の殺し方 =ハーレム要員の女の子を一人ずつ寝取っていきます

三浦裕
ファンタジー
「地球人てどーしてすぐ転生してくんの!? いや転生してもいいけどうちの世界にはこないで欲しいわけ、迷惑だから。いや最悪きてもいいけどうちの国には手をださんで欲しいわけ、滅ぶから。まじ迷惑してます」  地球から来た転生者に散々苦しめられたオークの女王オ・ルナは憤慨していた。必ずやあのくそ生意気な地球人どもに目にものみせてくれようと。だが―― 「しっかし地球人超つえーからのう……なんなのあの針がバカになった体重計みたいなステータス。バックに女神でもついてんの? 勝てん勝てん」  地球人は殺りたいが、しかし地球人強すぎる。悩んだオ・ルナはある妙案を思いつく。 「地球人は地球人に殺らせたろ。むっふっふ。わらわってばまじ策士」  オ・ルナは唯一知り合いの地球人、カトー・モトキにクエストを発注する。  地球からきた転生者を、オークの国にあだなす前に殺ってくれ。 「報酬は……そうじゃのう、一人地球人を殺すたび、わらわにエ、エッチなことしてよいぞ……?」  カトーはその提案に乗る。 「任せとけ、転生者を殺すなんて簡単だ――あいつはハーレム要員の女を寝取られると、勝手に力を失って弱る」 毎日更新してます。

追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン
ファンタジー
魔王倒すべく結成された勇者パーティーを、ワガママという理由から追放された幼女。冒険者ギルドのパーティーが国から公式に認定されるSランクになった途端に追い出された青年。 二人が出会う時、パーティーを見返す為に魔王を倒しに──出かけない。 「魔王? それより、お菓子はまだか!」 「今用意してますからお皿を並べておいてください」 二人は異世界スローライフを目指す! 毎日0時、投稿予定。 「ついロリ」をよろしくお願いします。 完結しました。第二部、4/15スタート予定

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

処理中です...